「環境影響評価法に基づく基本的事項に関する技術検討委員会報告書(案)に対する意見」
特定非営利活動法人 気候ネットワーク 代表 浅岡美恵
10月24日、「環境影響評価法に基づく基本的事項に関する技術検討委員会報告書(案)」に対して、気候ネットワークは下記をパブリックコメント意見として提出しました。
【1ページ下から10行目】「基本的事項の改定は必ずしも必要ではなく、制度の運用の中で対応すべきものが多いが、」
意見:現行の環境アセスメントの実施状況では、事業に関する情報が十分に提示されていないことや情報へのアクセスが限られていることなど、住民などとのコミュニケーションを踏まえて事業による環境影響を低減させるために改善が必要な点がある。運用上の対応にとどまらず、必要な項目については改定をし、事業者がより環境対策に努めるよう促すべきである。
【3ページ「課題1:複数案の設定について」<対応>1行目】「基本的事項の規定は維持しつつ、(中略)事業者及び地方公共団体に働きかける必要がある。」
意見:近年提出された石炭火力発電所建設計画では、複数案として煙突の高さが異なる二つの案を比較するに止まり、計画自体は実施することを前提としている。現行の「基本的事項」には、「現実的である限り」事業を実施しない案を含めるよう努めるべき旨を計画段階配慮事項等選定指針に定めるとしているが、1.5℃~2℃目標に向けて脱炭素社会を目指す「パリ協定」や、再生可能エネルギーの導入や省エネの定着を鑑みれば石炭火力発電所を建設しないことは現実的な選択であり、ゼロオプションを検討し、比較案として提示することを事業者に求めるべきである。
【4ページ「課題2:配慮事項の選定について」<対応>7行目】「火力発電所に係る(中略)、手引等制度運用の中で、検討する必要がある」
意見:気候変動問題への対応が喫緊性を増す中、環境アセスメントにおいて計画当初から温室効果ガス排出についての情報が明らかにされないことは重大な問題である。長期間にわたって温室効果ガスを排出する発電事業において、BATであるから選定項目としないことの理由にはならない。運用上の対応ではなく、全ての火力発電所計画において配慮書段階から「温室効果ガス等」を選定項目とすることを求めるべきである。
【8ページ「課題5:環境影響評価項目及び手法の選定について」<対応>1行目】「既存の設備を更新するリプレース事業に関しては、(中略)手続の迅速化を図る必要がある」
意見:ガイドラインを周知して迅速化を図るとの案が示されているが、(仮)横須賀火力発電所のように、運転が停止してから8年以上が経過し、実質的には新設同様であるにも関わらず、事業者がリプレースであると主張し、環境影響評価に係る期間が不当に短縮されているものもある。たとえば、環境負荷の低減を比較する際に、発電所の稼働率が最も高かった際のデータと比較されているが、経年による運用や周辺環境の変化に応じて、比較検討する時期を規定し、実態に即した時期を規定しておくことが望ましい。また、このような抜け穴を防ぐために、そもそも事業がリプレースに該当するかを精査することが必要である。
【10ページ「課題8:『ベスト追求型』の評価及び環境保全措置について」<対応>1行目】「基本的事項の規定は維持しつつ、(中略)事業者及び地方公共団体に働きかける必要がある。(中略)『ベスト追求型』の視点で、事業者が実行可能な範囲内で検討すべきものである。」
意見:何を以て「実行可能な範囲内」で環境保全措置が取られているかを判断するのか、基準が明確でない。複数の環境保全措置の検討など、措置の妥当性を担保するために検討の過程を明らかにすることを求めるべきである。たとえば、発電事業であれば、燃料種の選定により環境影響は大きく異なってくることから、特に重視されなければならない。
【11ページ「課題9:事後調査及び報告書の記載内容等について」1行目】「事後調査実施の基準が明確でなく、適切な事後調査の実施及び報告書の作成につながっていない」
意見:アセスメントにおいて予測・評価された内容の妥当性を精査し、その後の知見として生かすためにも事後調査及び報告書の提出は重要である。作成基準を明確にし、事業者には確実な実施を求めるべきである。
【13ページ「(4)法対象の規模要件未満の事業等の扱い及び簡易アセスについて」全般】
意見:2012年以降、各地で環境影響評価法の対象規模11.25万kWをわずかに下回る11.2万kWの石炭火力発電所計画が19基にものぼった。これらの計画の建設予定地のうち、複数の自治体が環境影響評価条例で石炭火力発電所が対象外で、環境アセスメントを実施しない「アセス逃れ」とも言える計画が進められる結果となったことは大きな問題である。火力発電所は、どのような燃料種であっても環境影響が大きい事業である。今後、このような事態を防ぐため、規模にかかわらず事業者によるアセスメントを義務化するか、もしくは基準値下げた上で、適切な説明を地元へ行う義務を課すべきである。
【13ページ「(5)情報交流の拡充について」全般】
意見:事業者には、全ての計画において環境影響評価図書の印刷やダウンロードを可能にし、情報アクセスの利便性を高めて多くの人が意見を述べやすくするよう求めるべきである。また、縦覧期間終了後においても図書の閲覧を可能にするべきである。自治体においては、神戸市環境影響評価審査会において、アセス図書が審査会資料の一部として取り扱われ、著作権への留意事項を明記し、印刷やダウンロードが可能な形で取り扱われている。このことにより、住民団体や専門家がアセス図書を読み解き、住民向けの資料を作成し、多くの意見提出を呼び掛けるなど、市民参加の機会を広げることにつながった事例がある。アセス図書の取り扱いについては、自治体による対応や事業者の対応に大きくバラつきがあることから、大幅な改善が必要である。
【13ページ「(6)環境影響評価手続の再実施等について」全般】
意見:周囲の環境の変化や技術の進展なども踏まえ、長期間着工されなかった計画については環境アセスメントの再実施を求めるべきである。また具体的にどの程度を以て「長期間」と見なすのか基準を示すべきである。
【14ページ「(8)累積的影響、複合的影響の取扱いについて」全般】
単一の事業よりも甚大な影響が推測されながら、複数の事業による影響について調査や評価がされないことは、重大な環境影響の発生を防止するという環境影響評価法の主旨に反する。ついては、累積的・複合的影響の取り扱いについて速やかに検討を行い、環境影響評価の対象とするべきである。
パブリックコメント本文(印刷用)
「環境影響評価法に基づく基本的事項に関する技術検討委員会報告書(案)に対する意見」
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