報道発表資料 2004年6月2日
企業の各事業所の温室効果ガスの排出実態
~省エネ法に基づくデータ分析の結果発表~
気候ネットワーク 代表 浅岡 美恵
■1.背景
企業の地球温暖化対策を進めるためには、排出実態の把握が必須であるが、現在、企業の事業所ごとのCO2排出量等を把握・公表する仕組みはない。省エネ法においては、指定工場に対して、毎年の定期報告の中で「燃料等」と「電気」の消費量の報告義務があるが、過去にこれが公表されたことはない。
水野賢一衆議院議員において2002年に、省エネ法に基づく各事業所のエネルギー消費量(2000年度分)を情報開示請求し、2002年4~7月にかけて地域の経済産業局より、各指定工場の燃料等と電気の消費量が初めて開示された。
気候ネットワークでは、開示された4004事業所(燃料等2505、電気3403)のエネルギー使用量データを預かり受け、独自に集計/分析して事業所毎のCO2排出量を算出した。今回、その結果をもとにわが国の排出実態を初めて明らかにするものである。
■2.分析のポイント
【1】事業所ごとの排出実態把握、初めて明るみに
これまでにも一部の企業は、企業ないし事業所単位のCO2排出量を環境報告書などで公表しているが、製造業などの個別事業所のエネルギー消費量が一律に明らかになったのは今回が初めてである。極めて貴重なデータであり、そこから、CO2排出の実態が一定程度つかめたことの意義は大きい。
【2】排出の大半は一部の事業所に集中
- データを開示した3317(4004のうち)事業所の排出量(直接排出量)は約4億600万トン(CO2換算)で、日本全体(2000年度のCO2排出量12億3900万トン)の3分の1を占める。
- そのうち、大半は一部の極めて大口の事業所(上位50事業所だけで20%、上位100事業所で日本全体の4分の1強を排出)が占めており、排出源が大きく偏っている。?
※今回、エネルギー消費量を黒塗りにした「非開示」事業所には大規模事業所が多く、それら100事業所で日本全体の4分の1弱を排出していると考えられる。(高炉による製鉄業、石油精製業、セメント製造業の3業種(経済産業省の「石油等消費構造統計」より推定))。これを合わせると、日本の約200事業所程度が、日本のCO2の半分を排出していると推定される。?
- 雇用者30人程度を上回る中堅以上の事業所が全国に5万程度あるが、温暖化対策としては、100~200程度の大規模事業所についての対策が極めて重要であり、そこに重点が置かれる必要がある。
【3】非開示事業所は、一定業種に集中
- 開示しなかった事業所は、4004のうち687事業所(17.2%)ある。特に、鉄鋼、セメント、石油、化学の4業種に、「企業秘密」として燃料や電力の消費量開示を拒んだ事業所が集中した(サンプル参照)。同じ大口でも、電力と製紙は大半の事業所は開示した。
- 鉄鋼の高炉は、1ケ所も開示されなかったが、経済産業省の「石油等消費構造統計」からの試算では、1事業所あたり約1300万トン(CO2換算。日本の排出量の約1%に匹敵)となり、1つの事業所だけで中規模県なみの排出(例えば青森県、岩手県の排出量は1400-1500万トン)となる。開示されていればランキングのトップに位置する。
【4】「企業秘密」とはいえない情報
そもそもエネルギー消費量等は「企業秘密」に当たるものとは言えず、多数の事業所が開示している事実がそれを示している。 所管官庁である経済産業省がこれを非開示としたことは問題である。
■3.実態把握と公開の必要と、制度提案
【1】排出量の把握・公表の重要性
今回、これまで公開されなかった事業所ごとのエネルギー消費量およびCO2排出量が明らかになったことにより、一握りの大口事業所の排出量が全体の大きな割合を占めることが判明した。他の情報とあわせることで、効率改善の経年的改善実態も把握できる。このように、事業所毎の排出実態を把握することは、どのような温暖化対策が必要でまた効果的であるかを検討するうえで極めて重要である。
【2】省エネ法の限界
現在の省エネ法は、CO2排出量の把握を目的としておらず、電力のうちの自家発電の割合や、「その他の燃料」の排出原単位が正確につかめないところもある。また、同法では京都議定書の対象である代替フロンやメタン等の把握はいずれにしてもできない。
【3】把握・公表の制度化提案
今年の地球温暖化対策推進大綱の見直しを機に、事業者の温暖化対策の基盤整備として、排出量把握・公表の制度を早急に確立する必要がある。具体的には、省エネ法の改正という方法もあるが、むしろ地球温暖化防止目的として地球温暖化対策推進法の改正、もしくは、既に届出・公表の仕組みがあるPRTR法によって、温室効果ガス全ての把握・公表を一元的に行うべきである。電子情報で処理すれば、省エネ法の手続きとの調整も容易にできるはずである。
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