気候ネットワークは1月16日、経済産業省の「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 電力システム改革貫徹のための政策小委員会 中間とりまとめ(案)」に対し、意見書を提出しました。
意見の内容
経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部 電力市場整備室 パブリックコメント担当 御中
電力システム改革貫徹のための政策小委員会
中間とりまとめに対する意見
1 「電力システム改革貫徹のための基本的な考え方」について(P2)
意見内容:基本的な考え方の中に、①パリ協定をふまえた「脱化石燃料」、「再生可能エネルギーへの転換」に向けた電源構成を目指すこと、②東京電力福島第一原子力発電所の事故の責任は第一義的に東京電力にあることの2点について明記すべきです。
理由:この中間とりまとめの基本的な考え方は、2002年制定の「エネルギー政策基本法」に定められた「我が国のエネルギー政策の基本的な考え方」を基に、「エネルギー安定供給を第一とし、経済効率性の向上による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に環境への適合を図ること(3E+S)」にあるとしています。しかし、2011年3月11日の東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故は、こうしたエネルギー政策の下で起きたものです。しかも、政府はその甚大な事故があった後もこのエネルギー政策の根本を見直さず、「エネルギー基本計画」において原発や石炭をベースロード電源と位置づけ、経済産業省の長期エネルギー需給見通しで、2030年の電源構成として原子力20~22%、石炭26%、LNG27%、再エネ22~24%とするとし、福島第一原発事故前と基本的に変わっていません。
今般の「電力システム改革」はこの原発事故を契機として取り組まれてきたものですが、今回の本小委員会は、福島原発事故の反省も責任も示すことなく、福島原発事故前からのエネルギー政策の基本的方向性に依拠し、「市場原理のみでは解決が困難な安定供給、・・自由化の下での需要家間の公平性確保といった公益的課題の克服」といった表現で、ようやく日本でも進み出した電力システム改革を逆行させようとする動きといわざるをえません。結局、電力自由化によって経済合理的かつ適正な電力の競争市場の構築とは程遠い結論が導き出され、事実上東京電力を免責し、廃止が予定されている総括原価方式の復活ともいうべき費用負担のあり方や国民への責任転嫁のしくみが提示されています。
またこの間、気候変動政策についても大きな動きがありました。2015年12月のCOP22で採択され、2016年11月4日に発効した気候変動の国際ルール「パリ協定」です。「パリ協定」では、気温上昇を工業化以前に比べて2℃を十分に下回るレベルで1.5℃にとどめることを目指すという目標が掲げられました。そして、そのために今世紀後半には人為的な温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることが目指されています。即ち、化石燃料をこれ以上燃やし続けることはできない時代に向かうことに世界が合意するとともに、再生可能エネルギーのコストは近年急速に大きく低減し、原子力のコストはますます高くなっていることも後押しとなって、パリ協定の長期目標の達成のために、再生可能エネルギーへの転換が急速に進んできています。日本もこのパリ協定を批准したのです。この時代背景のもとで、こうした観点がエネルギー政策や電力システム改革の中に組み込まれなければなりませんが、今回の取りまとめでは全く顧みられていないというほかありません。
したがって、今回の電力システム改革「貫徹」のための検討として、これまでのエネルギー政策やエネルギー基本計画そのものを根本的に見直し、安全性と環境への適合のみならず、長期的視点にたった経済合理性の視点をもった政策へと切り替え、電力システム改革を進めていくべきでした。しかるに、本小委員会のとりまとめの方向は、従来の根本的な構造を変えることなく、電力システム改革を頓挫させることを「貫徹」させようとするもので、反対です。
仮にとりまとめを行うのであれば、①パリ協定をふまえた「脱化石燃料・再生可能エネルギーへの転換」に向けた電源構成を目指すこと、②東京電力福島第一原子力発電所の事故の責任は第一義的に東京電力にあることの2点を明記すべきです。
2 「ベースロード電源市場の創設」について(P3~7)
意見内容:原発や石炭を想定した「ベースロード電源市場」の創設には反対します。ただし、当面の大型水力による発電を供出し新電力が調達できるようにすることは推奨するべきです。
理由:パリ協定の目的・長期目標の視点を踏まえれば、そもそも原発も石炭も、もはや「安い」電源であるという位置づけはされえません。今回の小委員会においても、原発についてはこれまで「安い」と見せかけてきた説明の破綻が明らかとなり、それを今後、国民に負担を押し付ける結果になっています。石炭は、「パリ協定」のもとで、真っ先に脱却すべき燃料であり、カーボンプライシングを前提とすべきものです。
本来、これらを原発や石炭を「ベースロード電源」とする政策そのものを見直さなければならず、再生可能エネルギーを中心に電源構成を変え、エネルギーシフトをすすめていくことこそ必要です。再エネを優位とした場合には、24時間稼働させなければならない原発や石炭のような発電は電力システムには最もそぐわない電源となります。今回のとりまとめのように「ベースロード電源市場」を新たにつくり、原発や石炭を温存するような政策を導入することには反対です。
ただし、再生可能エネルギーである大型水力は「ベースロード電源」の一部として位置づけられいるものですが、この中間とりまとめの中で、「大型の水力発電所および電源開発や公営が所有する電源等については、旧一般電気事業者が、事実上独占している」とされています。大型水力の電力は旧一般電力事業者が独占すべきではなく、FIT外の再エネ電源として、新規参入者に対して開放されるべきものです。
3 「非化石価値取引市場の創設」について(P11~)
意見内容:「非化石価値取引市場」の創設は、消費者に対して「再生可能エネルギー」と「原発」を混同させるものであるうえ、原発の電源を小売事業者に供給することを制度化して、原発再稼働を後押しすることになりかねないので、反対です。
理由:「非化石価値取引市場の創設」については、エネルギー供給構造高度化法で定められた非化石電源比率を2030年度に44%以上にするという小売事業者の目標を達成することと、需要家にとっての選択肢を拡大し、FITの国民負担の軽減という2つの目的を達するためだとされています。しかし、多くの消費者は、電源の選択において、「非化石電源」か「化石電源」かの選別を求めているのではなく、「原発」か「再エネ」かの選択を求めています。
また、本来、CO2排出係数の低減は発電事業者においてこそ可能であり、率先して取り組むべきであるところ、CO2排出係数が最も大きい石炭火力発電所の建設計画が国内で急増しているなか、エネルギー供給構造高度化法はその責任を小売事業者に負わせる構造となっていることが問題です。石炭火力発電の増加を黙認し、再生可能エネルギーへの制約を強めながら、CO2排出係数低減対策として、小売事業者向けに「非化石価値取引市場を創設」することは、新規参入小売事業者への電力供給要望に乗じて原発再稼働を促そうとするものに他なりません。実際、審議においても、小売事業者のなかに「非化石価値取引市場」を要求し、原発再稼働を求める意見もありました。
CO2を排出しないという環境価値をつけるならば、放射能や原発リスクの価値と切り離すし、グリーン電力市場として再生可能エネルギーの価値を切り離すべきです。本中間とりまとめでは、再生可能エネルギー由来の証書については、「電源構成外にて「実質再エネ100%」等の表示を許容することも考えられ、具体的な規定は電力・ガス取引監視等委員会において別途検討する」と検討の場を別にゆだねてしまっています。しかし、電力システム改革を「貫徹」するのであれば、再エネか原発かを混同させておくべきではなく、再生可能エネルギーの環境価値のみを切り分けておくことが必要です。
4 原子力事故に係る賠償への備えに関する負担の在り方(P17~20)
意見内容:東京電力福島第一原子力発電所の事故に係る賠償費用は、発災事業者である東電が、福島原発事故にかかる国家賠償法に基づく責任を負う国とともに負担すべきである。福島原発事故による損害額は巨額であるが、「過去分」として事後的に全ての需要家に負担させること及び、その費用を託送料金に上乗せして全電力消費者から徴収するしくみには断固反対します。
理由:中間とりまとめでは、「原発事故前の総括原価方式による料金規制の下で料金収入を得ることが制限されていた」ことが強調され、その制度下で原子力事故の賠償の備えができなかったようなまとめられ方をしています。しかし、原発コストを極めて安価に見積もり、過酷事故を想定せずに危険な原発を稼働させてきた責任は、東京電力と国にあります。その費用を見積もってこなかった失敗を、事故後に、今後のすべての電力消費者に託送料金に上乗せることで強制的に調達する法的根拠も正当性もありません。
かつて東京電力をはじめ各電力会社は、競争もなく独占的な市場において、総括原価方式の制度の下に“資産”を過剰に見積もり、世界的にみても最も高額な電気料金を消費者に負担させ、電力会社の利益、投資家、株主もその恩恵を受けているのです。事故が起きた場合の損害賠償費用についても、事故が起きた後に「過去分」などとして積み上げるのは筋違いです。そもそも、損害賠償費用は発災電力会社が負担すべきものです。国が国家賠償法による責任を負うとしても、国会で審議される税ではなく、託送料という「総括原価」に組み込まれ、経済産業省の認可で改変できる料金システムによる安易な調達は許されません。電力システム改革貫徹のための政策小委員会の議論の中でも反対意見が多くみられたのは当然です。
一方で、電力システム改革貫徹のための政策小委員会と同時並行で開催されていた「東京電力改革・1F問題委員会」では、12月20日に「東電改革提言」がまとめられ、福島事故に伴う費用が当初見込よりも膨らんできていることが明らかにされながらも、東京電力救済策ともいえる案が提示され、「賠償は、原発事故への対応に関する制度不備を反省しつつ、託送制度を活用した備え不足分の回収はするものの、託送料金の合理化等を同時に実施し、 新電力への安価な電力提供を行う」などとまとめられ、新電力の安価な電力提供と引き換えに託送料金に上乗せする方針が示されているのです。
事業者の責任を徹底的に追求した後に、それでもなお負担しきれない場合には、国(税)で負担することにし、国会での議論をふまえて透明性あるプロセスのもとに決定すべきであると考えます。
意見本文
「電力システム改革貫徹のための政策小委員会 中間取りまとめ」に対する意見
関連リンク
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