気候ネットワークでは、2022年8月17日締め切りの「電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会 第八次中間とりまとめ(案)についての意見募集」に対して、以下の意見を提出しました。

意見の内容

意見

該当箇所: P3 【2.1.電源投資の確保(1)本制度措置の基本的方向性

意見内容: 「発電時」だけでなく、「ライフサイクル全体でCO2を排出しない電源」の新規投資を支援をすべきである

理由  :「2050年カーボンニュートラル」は1.5℃目標の実現のための、2030年までにCO2排出量を半減させ、2050年までにCO2排出実質ゼロをめざすものである。今年6月からの世界的高温や日本の豪雨災害の続出、欧米における乾燥被害をみるまでもなく、1.5℃目標の実現のための2030年までの排出の半減は急務である。

第8次案における「本制度措置」において、「脱炭素電源」とは「燃料時にCO2を排出しない電源」(P6)と定義して、「脱炭素電源への新規投資を対象と」するものとあるが、シェルに対するハーグ地裁判決にも示されているように、既に、事業者にもスコープ3についてCO2排出削減が求められており、発電における燃料もライフサイクルでのCO2排出削減が求められる。発電において発電時にCO2を排出しないことをもって「脱炭素電源」とし、その供給量の拡大・確保を目指す本制度措置は、1.5℃目標と相いれず、その意味で国際社会においても、グレー・ブルー水素やハーバー・ボッシュ法によるアンモニアの火力発電での混焼・専焼は、CO2排出削減措置とは見なされていないものである。
さらに、今般の第8次中間とりまとめ案は、2022年3月、同6月の電力需給ひっ迫を契機として、長期脱炭素電源の供給確保を理由として、容量市場の特別オークションとして建設・維持費等を補填しようとするものである。しかし、日本には最大需要に対応できる十分な発電設備(火力だけで1億5552万kW)があり、1年の殆どの時間帯において供給量がはるかに需要量を上回っている。2022年3月等の近時の需給ひっ迫は希頻度事象によるものであり、極めて短期間の問題であって、国として、日頃からの需要削減を求め、ディマンド・レスポンス対応の制度化、早期警報による需要抑制、揚水発電の活用などで対応しうるものである。1年のうち高々数十時間のために火力発電の新規供給力の拡大をしようとする本制度は本末転倒の対応である。「老朽火力の退出」は当然であって、これまでの退出火力の殆どは石油・ガス火力であり、老朽石炭火力の退出を加速させ、再生可能エネルギーを拡大させる制度措置こそ、急がれる対応である。また、参考図2における英国容量市場のオークションの結果、新規案件のうち蓄電池が多く占めるのは適正な方向というべきである。

意見

該当箇所: P7 【論点①】アンモニア水素混焼のための新規投資 a-2 LNG新設案件

意見内容: アンモニア・水素混焼を前提としたLNG新設を対象とすべきではない

理由: 案では、石炭火力へのアンモニア・水素の新規案件を除外したのは当然であるが、「LNG火力の新設案件となるため、CO2を排出する新たな火力発電所の新設案件となるが、調整力として期待できる側面もあることから、本制度措置の対象とすることとした」としているが、気候変動対策の観点から、今からLNG火力発電所を新設することは1.5℃目標に整合しないばかりか、新規で建設すれば40年程度稼働してCO2の排出を固定化することにつながり、2050年カーボンニュートラルの達成も危うくする。IEAの2050年ネットゼロロードマップでは、先進国は2035年までに、CCSを備えない全ての火力発電を廃止すべきとしている。LNG火力を含めて化石燃料の火力発電所早期脱却をはかる制度が求められているのであり、新規投資を促し、「制度適用期間を20年以上に設定」することを予定した表現がとられており、その投資回収を保証する制度の対象にするのはもってのほかである。現状で、LNG火力は石炭火力(5079万kW)より多い7814万kW)もの設備があり、当面の再エネの調整力としては既存のLNG火力で対応し、2050年よりも前に再エネ100%の電力供給を目指し、余剰再エネによる水素等の調整力機能を高めるべきである。

もし火力発電所新設の新規投資をするなら、グリーン水素・アンモニアの専焼だけを対象とするべきである。ただし、それをするには、水素アンモニア燃料製造するために必要な再生可能エネルギー電力の余剰が必要なので、再エネの新規投資を先にすべきである。

意見

該当箇所: P7 【論点①】アンモニア水素混焼のための新規投資 b-1, b-2 既設の石炭・LNG火力の改修案件

意見内容:既設の石炭火力やLNG火力のアンモニア水素混焼を対象とすべきではない

理由: 案では、既設の石炭火力やLNG火力にアンモニア水素混焼の改修案件を対象とすることとしているが、石炭火力もLNG火力も両方とも対象とすべきではない。

まず、「脱炭素電源」とは、「対策のとられていない火力発電」即ち、「CCS設備を備えていない火力発電」を意味することを明確にするべきである。2020年代後半に石炭火力に熱量ベースでアンモニアは20%、水素は10%以上の混焼を対象とするとしているが、仮にグリーン水素でハーバーボッシュ法によらない新技術によって製造されたアンモニア(きわめて高額であり、技術的にも確率していないが)を混焼するものであっても、既設の火力発電所を20%混焼用に改修しても、残りの80%は石炭を燃焼しているのであり、ましてやグレー水素でハーバーボッシュ法によるアンモニア混焼は石炭火力とほぼ同等のCO2を排出する。しかも、2030年から2050年までの混焼の割合も示されず、全焼の実現も義務とされておらず、およそ「対策をとった」ことにはならないだけでなく、日本の2030年削減目標の実現を危うくするものである。このような既設石炭火力のかかるアンモニア・水素混焼のための改修を促すことは、石炭火力発電所を2050年まで延命させることにほかならず、制度の趣旨にも反する。

また、案には「既設火力の改修案件は、短期的な供給力の増加には寄与しないものの、中期的にみて供給力の確保につながる投資といえるため、本制度措置の対象とすることとした」などとしているが、中長期的にも石炭火力もLNGも残存させる制度措置であることを物語っているものであり、気候変動対策に逆行する措置でしかない。

さらに、「『新設火力』よりも『既設火力の改修』により導入していく方が投資額も少なく、社会的費用の最小化につながるところ、既設火力の改修については、本制度の中での他の脱炭素電源と競争を行いながら導入していくことが国民負担の最小化を図ることにつながる」などとしているが、詭弁である。そもそも、気候変動対策が急務となっており、既に甚大な火力発電所を有している上、さらに火力の新設をすることは許されない。

気候への負荷が最も小さい再生可能エネルギーへの転換が求められるが、変動電源として制度上差別化しており、容量市場では落札案件のごくわずかしか再エネが対象になっていない。既存の火力発電所の既得権にさらに下駄をはかせる本制度措置は、再エネの競争力を低下させることにつながるものである。燃料費がかからない風力や太陽光などの再エネは、中・長期的には国民負担を低減させることになるが、かかる容量市場の制度下では再エネは増えず、燃料費が確実に高くなる水素アンモニア混焼の電力が中長期的に残り、国民負担は今以上に増大することになる。

なお、LNG火力については、案では、混焼割合分だけではなく100万kWの設備であれば、100万kW分全体を対象とすることにしているが、単にLNG火力の延命に財政支援をするというに過ぎず、「脱炭素」の方向性とは全く矛盾するものであり、対象とするべきではない。

意見

該当箇所:P11 【論点②】グレーアンモニア・水素を燃焼させる発電設備への新規投資

意見内容:グリーン以外の水素・アンモニアは対象とすべきではない。

理由:今年5月に成立した「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネル ギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律」では、エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関す る法律(以下「高度化法」という。)を改正し、グレーアンモニア・水素を除外することなく、アンモニ ア・水素を非化石エネルギー源として位置付け、利用を促進することとした法改正がなされたが、そもそも化石燃料起源の燃料を「非化石エネルギー」と定義することは矛盾であり、省令改正においては、化石燃料由来の水素・アンモニアは非化石エネルギーから除外すべきである。本制度措置においても、「脱炭素電源」というのであれば、ライフサイクル全体でのアンモニアの製造時にCO2を排出しない燃料を対象とすべきであることは、冒頭で指摘したところである。

グレーアンモニアや水素を対象とすることで、気候変動対策や脱炭素社会の構築には全く貢献せず、国民の負担が増大することを助長することになる。

なお、グリーンアンモニア(グリーン水素による、多大のエネルギーを要するハーバー・ボッシュ法によらない新たな整法によって製造されたアンモニア)は、グレーアンモニアとは全く違い、余剰の再エネ電力がなければ成り立たず、グレーアンモニアのサプライチェーンを構築することができても、グリーンアンモニアの普及拡大とはならない。むしろグリーンアンモニアや水素社会を構築するには、余剰の再エネ電力で水素製造ができるほどに再エネが普及している必要がある。

意見

該当箇所:P11 【論点③】バイオマス(混焼、既設の改修)のための新規投資

意見内容:「既設火力をバイオマス専焼にするための改修」は、バイオマスの由来を持続可能なバイオマスであり、生産段階でCO2排出に寄与しないものに限定すべきである。

理由:バイオマス発電は、生産時に森林減少・劣化などを伴うもの、燃料の栽培、加工、輸送といったライフサイクルの各段階で温室効果ガスを排出するものがあり、持続可能とは言えないものがある。特に、海外から輸入した大規模バイオマス発電は、こうしたケースが多く、本制度の対象とすべきではない。

意見

該当箇所:P12 【論点⑤】最低入札容量

意見内容:初期投資額 100 億円、10万kW以上という設定は、「地域分散型」の再エネ社会の構築からかけ離れた、旧来の大規模集中電源への復古を目指すものであり、反対である。また、水素・アンモニア混焼だけ5万kWを対象と特別扱いし、その促進を支援するのは、前記理由により不当である。

理由:これからの社会は、気候変動対策の観点からも、エネルギーの自給率の向上のためにも、地震や災害に強い強靭な電力システムを構築する上でも、これまでのような大規模集中型電源の時代から、地域分散型の再エネ社会へと日本のエネルギーシステムを転換することが不可欠である。今後、新規電源の投資を振り向ける先は、大規模な火力発電設備ではなく、地域の特性を活かした再エネを普及することであり、そのような制度設計にすべきである。

意見本文

「電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会 第八次中間取りまとめ(案)」 に対する意見

関連リンク

電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会 第八次中間とりまとめ(案)についての意見募集

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