2004年7月14日

「社会資本整備審議会環境部会中間とりまとめ」への意見

気候ネットワーク 代表 浅岡 美恵

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【1】全体について

社会資本の整備のあり方は温室効果ガスの排出を大きく左右する。とりわけ民生・運輸においてはその原単位の多くを規定し、その将来の排出を直接左右する重要なものである。したがって、その整備においては(1)建設におけるCO2その他温室効果ガス(代替フロンなど)排出量を最小にすること、(2)建設に必要な建設材料の生産や運搬に要するCO2その他温室効果ガス(代替フロンなど)排出量を最小にすること、(3)使用段階のCO2その他温室効果ガス(代替フロンなど)排出量を最小にすること、の3点を徹底的に行うことが必要である。
 しかし、今回の中間取りまとめはこれらを徹底して進めるものとは読めず、実効性を伴うものとは言えない。当該分野の環境対策についてこのままでは今後も進展しないのではないかという重大な懸念を持たざるを得ない。

【2】各対策・施策の進捗状況及びその評価について(5-10ページ)

1.エネルギー起源の二酸化炭素に係る排出削減対策

1.1 住宅・建築物の省エネ性能の向上について(5-6ページ)

(1)住宅の断熱効率向上未達成について(20万kl不足)

住宅の省エネ性能の向上は、家庭部門の冷暖房に要するエネルギー消費量とCO2排出量を直接規定する重要な課題である。家庭が省エネ性能の悪い住宅のためにその後長期間にわたり無駄なエネルギー需要を強いられることのないよう、国が責任をもって建設業者に省エネ性能の高い住宅を提供させ、確実にストックベースの省エネ性能の向上を図っていくことが必要である。
 しかし、大綱は住宅の断熱基準について、基準を設定しているのに目標年の新築住宅の基準達成が5割という低レベルの目標を掲げている。加えて、現在2割しか守られていない基準が、現状の対策のままで自然に5割に至るのも常識的には推定しがたい。それでも2010年度のエネルギー消費削減量は約280万klだとすれば大綱の300万klには満たない。既存の対策および政策のままでは現在の大綱目標すら達成不可能であると言える。国土交通省が断熱基準を規制せず、公団の住宅も基準を守らないケースがあり、また住宅金融公庫で規制未達成の住宅にまで公庫融資を継続してきたことなどを見直し、強化する必要がある。

(2)建築物(非住宅の断熱効率未達成について(30万kl不足)

建築物の断熱効率向上は、家庭部門の住宅と同様、業務部門の冷暖房に要するエネルギー消費量とCO2排出量を規定する重要な課題であり、とりわけ中小企業が断熱性能の悪い事務所等のためにその後長期間にわたり無駄なエネルギー需要を強いられることのないよう、国の政策により確実にストック性能の向上を図っていくことが必要である。
 大綱は住宅の断熱基準について、2000m2以上の大型新築建築物の基準遵守が8割という目標を掲げているが、現在65%しか守られていない基準が、現状の対策のままでも自然に8割に至る確実性はない。2010年度のエネルギー消費削減量が約530万klとされていることは、根拠不明のため十分な評価ができない。根拠を公開して説明する必要がある。またそれでも、これでは大綱に掲げた560万klには満たないことになる。原因を総括し、追加施策の導入を早急に図るべきではないか。

1.2 交通流対策等について(6-7ページ)

(1)自動車交通需要の調整(自転車への転換 40万t-CO2不足)

2010年の計算根拠が示されていない点、また、なぜ達成できないのかの原因究明と総括がないことが問題である。実際は、自動車交通を有利にする道路建設や駐車場整備を進める政策を継続する一方、自動車利用を減らして公共交通機関への乗換を促す政策を実施してこなかったことが原因ではないか。

(2)環境負荷の小さい交通体系の構築

対策名を見ると自動車交通から公共交通機関へのシフトのようであるが、内容は道路建設が多い。題名がそもそも不適当で、「旧来型道路建設を延長した場合の削減効果」などに変更すべきである。また、こうした道路工事により削減になるのかどうか、自動車交通量を増加させる効果も予測した上で評価することが必要である。削減量がカウントできないならば対策の見直しが必要である。
 内容は、都市部での路面電車の大規模な整備やバスレーン整備とそれと引き替えに大規模な自動車乗り入れ禁止地域の設定などの「環境負荷の小さい交通体系の構築」に組み換えるべきである。

1.3 産業界の取組(8ページ)

(1)まとめ方について

経済産業省の行っている産業界のCO2排出量削減対策のレビューに比較すると、経産省は各業界に活動量の推移とエネルギー消費量とCO2排出量について、2005年、2010年の予測(2010年については目標と推移予測の2種類)を記載している。これに比較すると本とりまとめの記載は大雑把であり原単位が改善しているのか、対策が進んでいるのかなどが判断できない。

(2)各業界の対策について

  • 建設業の原単位指数がこれだけでは何のことか不明である。以前の報告を見ると金額ベースとなっており、その指標が対策の進展を示すことになるのかを含めた検討が必要である。
  • 住宅産業では、2002年までに建設段階のCO2排出量が増加しているが、新規住宅着工戸数や建設着工床面積の住宅分などは3割も落ち込んでいる。過去12年間、建設時のCO2排出量削減対策が不十分であったことについて責任が問われるべきところである。
  • 建設業・住宅産業の削減対策には代替フロンが含まれていない。代替フロンを使用すれば建設段階のCO2排出量を上回る代替フロン排出の可能性すらある(経産省は断熱材をHFCに全面転換した場合、最大940万トンの排出を予測)。
  • 不動産協会の目標は、原単位が20年間90年レベルと同じという数値であるが、この間に断熱基準の改定が数度あり基準を遵守していれば着実にストック効率の改善があることを考えれば極めて弱い。個々の事業者にはおそらく先進的な取組もあるのであろうが、全体としては努力のレベルが著しく不足している。

2.吸収源(10ページ)

吸収量のカウントについては不確実性が大きいため反対である。また、カウントの際には、減少もきちんとカウントすること、樹木の成熟に伴う吸収の減少も評価すること、枯死した樹木は排出とカウントすることが必要である。

【3】対策・施策の見直しの方向

1.見直しの視点について(11-15ページ)

  • 2010年までに残された時間は少ない。民生は建物のストック改善のための緊急の対策が必要である。
  • 対策の効果を確実にあげる、という視点が欠如している。必要なのは対策量の達成を担保し、対策量以上の削減の実績をあげることである。

2.今後の対策・施策の方向について(16-21ページ)

2.1 総論

全体として、実効性のある追加的な政策措置がほとんどない。これでは、大綱の社会資本整備分野が制度的にほとんど担保されず何ら進展がないに等しい。従来の政府の温暖化対策の方針は、自主的取組任せで政策での担保を避ける方向であった。この方針自体が進捗の遅れを招いていることを考えれば、今回の見直しで、これを抜本的に改める必要がある。報告書はそうした方針が全くない点で重大な欠陥があると言わざるを得ないし、それ以上に、温暖化防止対策の重要性を認識していないのではないか。

2.2 各論

(0)大綱の前提の道路ネットワーク整備について

大綱の前提となっている道路ネットワーク整備(3500万t-CO2)について、第2回の環境部会に置いて再算定をするとの説明がなされた後、その後のフォローが何もないままになっている。今回のとりまとめでは、道路整備によるCO2削減効果の実態把握、再算定の結果、大綱の前提の是非については何も触れられぬまま、とりまとめの資料編には過去の試算が再びそのまま掲載されている。道路整備による環境負荷、自動車誘発効果などが指摘されて久しく、CO2削減効果もこれまで局地的な事例しか示されていない。これを定量的に示し、大綱の前提として適切か、透明性を確保して評価し直す必要がある。これがきちんと見直しされないまま再び大綱に位置づけられれば、運輸部門の対策そのものが破綻すると考える。

(1)住宅・建築物対策(16-18ページ)

(1-1)CO2排出量削減対策

今回の大綱の見直しにおいて、住宅・建築物の省エネ性能の向上を確実に図り、市場に性能のよい建物の供給が徹底されるよう国が制度をつくることは、民生部門対策として最も重要なことの一つである。
 新築住宅・建築物の省エネ性能の規制化を建築基準法に位置づけるとともに、住宅金融公庫融資や公的金融で最新基準に違反する新築住宅や新築建築物には融資禁止とすべきである。大口建築物についてはフォローがしやすいよう、定期報告義務の要件を現在の2000m2から1000m2に引き下げるべきである。
 また、既存建築物の省エネラベル提示の義務化や省エネ性能に応じた課徴金などの手法を導入すべきである。

(1-2)HFC排出量削減対策

本報告では断熱材フロンや、消火設備のフロンについて何も言及がないが、脱フロンを図るため、断熱材は新築住宅についてはできるだけ早期にフロン(HCFC)・代替フロン(HFC)使用を建築基準法で禁止すべきである。また消火設備もできるだけ早期にハロン・代替フロン(HFC)使用を建築基準法で禁止すべきである。

(1-3)中期対策

本報告では頻繁な建て替えによる資源エネルギー浪費について何も書かれていないが、現在20-30年と考えられる日本の住宅や業務建築物の大幅な長寿命化を政策として推進すべきである。これに附随して、既存ビルの市場を安心で充実したものにするため、以下のような政策を実施すべきである。

  • 住宅の省エネ性能について維持基準を導入し、住宅をメンテナンスしながら50年100年などの長期にわたり高い省エネ性能を維持すること
  • 住宅の性能を評価し適正に表示する制度を確立し、土地だけでなく建物の価値を評価し維持する体制を整えること
  • 中古住宅購入等への融資制度
  • 中期的視点では、日本の建物(戸建住宅などを除く)を内断熱から外断熱へ転換すること
  • 大口ビルについては建築物の省エネ性能を今後公表することにより、温暖化対策に効果がある建物、努力しているところを社会的に把握し評価していくこと。

(1-4)官庁施設や公共事業における率先実行

官庁施設や公団、自治体の住宅供給公社などの建設する建物は必ず省エネ性能基準を守ることとすべきである。また、官庁の省エネ性能やエネルギー使用量、CO2排出量を公表するとともに、対策による削減効果、コスト削減効果についても公表し、民間の取組の模範とすべきである。
 また、官庁ではノンフロン断熱材を使用すべきである。この点については経済産業省の審議会に対し、ウレタン工業会などの断熱材の業界団体が要望を出している。

2.交通流対策等(18-19ページ)

  • 都市部の自動車利用については今後その削減を図る必要がある。それを前提にしなければ自動車の総量が増加し、他の輸送機関をいっそう衰退させた上に渋滞が激化するという悪い結果をもたらす。本報告には自動車交通量の削減とそれを前提にした社会資本整備の視点がない。自動車交通量の削減を基本方針とし、以下の対策を実施すべきである。
  • 自治体に交通環境計画策定を求め、道路整備は環境負荷の誘発にならないことが確認された事業に限定すべきである。また、市街化調整区域での開発行為を制限し、スプロール化による自動車交通量増加を防止すべきである。これらを円滑に行うために地方分の道路特定財源は道路建設に特定せずに当面は地域交通の建設及び運用全体に使えるよう統合すべきである。

3.都市緑化対策

省エネ・ヒートアイランド防止のために緑化を推進することは重要である。大規模開発においては相当な量の緑地確保を義務づけ、例外を認めないなど、その推進を図るべきである。ただし、吸収源は無理があると考えられるのでそのカウントは慎重にすべきである。

【4】道路特定財源について

地方分の道路特定財源は道路建設に特定せずに当面は域交通の建設及び運用全体に使えるよう統合すべきである。暫定税率分は他の税に衣替えして一般財源にし、将来的には道路特定財源は一般財源にすべきである。

以上

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