プレスリリース

石炭火力発電の座礁資産リスクは710億ドル(7兆1000億円)に上る恐れ カーボントラッカーによる新報告書

2025年には石炭火力発電所を運転するよりも、新規に再生可能エネルギーを建設する方が安価になる。政府の石炭火力発電の推進政策と経済合理性に疑問

ニューヨーク・ロンドン:2019年10月7日-「日本の石炭火力発電所は、再生可能エネルギーのコスト低下により、経済的な競争力を大きく失う可能性がある」。カーボントラッカー・東京大学未来ビジョン研究センター・CDPジャパンが発表した新しい報告書ではこのような結論が導かれた。

カーボントラッカーは、東京大学未来ビジョン研究センター、CDPジャパンの協力を得て、再生可能エネルギーのコスト低下が設備利用率や 電力料金の低下をもたらし、日本で現在計画中及び運転中の石炭火力発電所が座礁資産化するおそれがあるという分析結果を発表した。

カーボントラッカーの電力部門長であり本報告書の共同執筆者であるマシュー・グレイは、「世界の電力市場において技術革命が進んでいる。この革命は日本にも訪れつつあり、政府は、速やかに現在の石炭火力を推進する政策を再検討する必要があることを意味している」と述べている。

「日本の石炭火力発電所の座礁資産リスク」と題する本報告書では、発電所毎のファイナンスモデルを用い、日本国内の新規及び既存の石炭火力発電所の相対的な経済性の分析を行っている。

もし設備利用率が48%、または電力料金が72ドル/MWh以下となれば、石炭火力発電所の事業性は失われる。(ちなみに2018年実績では、設備利用率74%、(日本卸電力市場に基づく)電力料金は87ドル/MWh)

均等化発電原価(LCOE)分析に基づいて比較したところ、陸上風力、洋上風力、商業規模の太陽光発電は、それぞれに、2025年、2022年、2023年に、石炭火力発電よりも安価になる。さらに、石炭火力の長期の限界削減コスト(LRMC)は、2025年には太陽光と洋上風力より、また2027年には陸上風力よりも高くなってしまうという結果を得た。

報告書ではまた、日本政府が、今年6月に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」でもパリ協定と整合的な取り組みを進めようとしていることを考慮し、日本の石炭火力発電がパリ協定の気温目標と整合的に閉鎖していかなければならないことについても検討した。我々の2度未満シナリオでは、日本の石炭火力発電所は全て2030年までに閉鎖しなくてはならず、資本投資や運転によるキャッシュフローの減少による座礁資産リスクは、710億ドル(約7兆1000億円)に上ると試算された。この710億ドルのうち、少なくとも290億ドルは、政府が速やかに計画中・建設中の発電所の計画を再検討し中止すれば、回避することができる。

グレイは、「日本政府の明確な政策シグナルがなければ、日本はこのまま石炭火力へ依存し続けてしまう。石炭火力発電所は、座礁資産化し、その結果、消費者が負担する電力コストを引きあげてしまう恐れがある」と付け加える。

また、CDP WorldWide Japanのディレクターである森澤充世は、「現在の構造は気候変動への対応が不十分であり、将来世代に多大な負債を残しています。脱炭素化のために緊急の行動をとる企業が、今後も輝き存続できます。石炭火力からの切り替えは当然の流れです。」と述べている。

報告書では、石炭からの転換を加速させることは、投資家、消費者、そして経済全体にとってよいことであり、計画中及び建設中の案件を中止し、さらに既存の発電所の廃止スケジュールを開発することが重要であると主張している。

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プレスリリース:

石炭火力発電の座礁資産リスクは710億ドル(7兆1000億円)に上る恐れ(日本語PDF)
Media Release:Japan Could Face US$71 Billion of Stranded Coal Assets from Cheap Renewables(英語PDF)

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