3月3日、気候ネットワークは、株式会社千葉パワーによる(仮称)蘇我火力発電所建設計画への環境影響評価方法書に対する意見書を提出しました。なお、気候ネットワークでは、解説書「環境影響評価方法書から読み解く(仮称)蘇我火力発電所建設計画~問題点と事業者に確認すべきポイント」を発行しています。ぜひ意見書提出にあたって、こちらもご参考にしてください。

(仮称)蘇我火力発電所建設計画環境影響評価方法書に対する意見書

1.石炭を燃料とする問題について

 石炭を燃料とする大規模な火力発電所を新たに建設することは時代錯誤である。エネルギー基本計画において石炭がベースロード電源とされていることを挙げて石炭を選択したとしているが、周辺への大気汚染に加え、石炭火力発電はLNGの約2倍のCO2を排出して気候変動に甚大な影響を及ぼし、施設の稼働そのものが著しい環境破壊につながる。

 2月の千葉パワーによる事業者説明会では「なぜ石炭を燃料とするのか」との質問に対して、「日本は発電に使用可能な資源に乏しい国であり、かつ欧州のように電力不足しても他国から融通してもらうこともできない。安全で安価で温暖化防止、3Eを同時に実現するためにはバランスのよい電源が必要だ。」とした。しかし、日本は天然資源に豊富で、世界が再生可能エネルギー100%を目指す中で、石炭をわざわざ海外から輸入して燃やすことは、日本の国富の流出であり、かつエネルギー自給率を上げることにもつながらない。説明会において事業者は自然エネルギーの変動することのマイナスイメージだけをあげていたが、むしろ変動電源を活用する電源システムへと大胆に切り替えていくことが不可欠であり、そのためには石炭のような24時間稼働する電源を増やすことは、再生可能エネルギーの導入の阻害要因にしかならない。

また、石炭を選択した理由として、「JFEスチールの工場地で、すでに石炭インフラが整っているため、石炭を選定した」などとあるが、単に事業者の経済的メリットを追求しているだけである。現状のJFEスチールの敷地で石炭やスラグが野積みにされたり、高炉で石炭を燃やしていることによって、悪臭やばいじんが周辺住民に及ぼしている大気汚染問題を考えれば、追加的に石炭輸入量を増やし、さらに火力発電所で石炭の汚染物質を大気中にばらまく計画が加わることは環境配慮上、最悪の選択である。

2.温室効果ガスの排出源単位

 気候変動対策の観点から見れば、今後化石燃料の火力発電所を建設することはありえず、化石燃料から再生可能エネルギーへと大転換する必要がある。ましてや、本計画は大量に温室効果ガスを排出する大規模な石炭火力所である。USCを採用することによってCO2の排出源単位を低減するとしているが、USCを用いた場合でもLNGの約2倍にのぼり、さらに電気事業低炭素協議会の掲げる「低炭素社会実行計画」で示された「2030年度に排出係数0.37kg-CO/kWh」とする目標も大きく超過する。

 このように本計画における排出原単位は非常に大きく、方法書ではCO2排出量は示されていないが、年間600万t以上に及ぶと推算される。大量のCO2排出を30年以上も固定化する事業は実施するべきではない。

3省エネ法ベンチマーク指標

 省エネ法ベンチマーク指標の見通しが示されていない。方法書では「2030年における目標値を達成する見込み」などとしているが、千葉パワーという一事業者単体では、ベンチマークを達成できないことは明らかであり、石炭火力に頼って一体どのように達成するつもりなのか具体的な達成方法も示されず、現状の中国電力やJFEスチールのそれぞれのベンチマーク指標の達成状況すら示しておらず、すべて明らかにするべきである。

 なお、本計画では副生ガスを混焼する計画がオプションとして示されているが、発電効率でみれば副生ガスはガスタービンコンバインドサイクルのほうが効率よく発電でき、すでにJFEスチールでは副生ガス専焼の発電設備も新規建設したばかりのはずである。事業者は副生ガスを混焼する理由を明確にするべきであり、もしも見かけ上の発電効率を良くするためだけに「混焼」することを考えているのであれば、これは環境影響上も非常に問題である。

4.「パリ協定」及び「日本の長期目標」との整合について

 本計画では運転開始時期を2024年とし、2050年を超えてCO2排出を固定化させることになる。
 2016年11月、地球の気温上昇を2℃未満にすることを目標とし、今世紀後半にはCO2排出を実質ゼロにすることとしたパリ協定が発効した。本計画では、施設の稼働による温室効果ガス等への環境影響を低減するために環境保全措置を講じるとあるが、研究機関Climate Analyticsによるレポートでは、パリ協定の達成のためには、日本は2030年までに石炭火力発電所を無くす必要があるとされている。
 また日本政府は、第四次環境基本計画(2012年4月27日閣議決定)において、2050年に温室効果ガス排出量を80%削減させる目標を掲げている。

CCSについて、事業者は、現時点で技術オプションとして選択することは困難としており、削減対策とはならない。

しかし、本計画が実行されれば、排出は減らず、むしろ増えることになる。「パリ協定」で合意している2℃目標をどのように達成するか、企業方針を示すべきである。

5.発電所の立地と大気汚染について

 方法書によれば、発電所の建設地周辺には、保育園・幼稚園、小中学校、医療施設や高齢者福祉施設など、環境保全に特に配慮が必要な施設が多数存在し、最寄りの施設からはわずか約1kmしか離れていない。

また、建設予定地は水質総量規制や硫黄酸化物総量規制の指定地域であり、過去には公害訴訟が起こり、地域住民や行政が環境対策に取り組んできた歴史がある。現在でも二酸化窒素や降下ばいじんは県や市の環境目標値をみたしていない地点があり、光化学オキシダントにいたってはすべての観測地点で環境基準をみたしていない。

これらに加えて東京湾沿いには他に複数の石炭火力発電所建設計画との複合汚染も懸念されるが、必要な全てのデータが揃えば環境影響の評価を行うと言い逃れ、現在は評価を行っていないのは大きな問題である。

 また、2009年に稼働を開始した磯子火力発電所新2号機の大気汚染物質排出濃度は本計画を下回り、本計画において最善の大気汚染対策が取られたとは考えにくく、水銀などの重金属の年間総排出量の記載がない点も問題である。排煙処理を行ったとしても石炭に含まれる水銀の3割程度は大気中に放出されるため、計画段階から評価することが必要である。

6.石炭灰について

 石炭の燃焼によって排出する石炭灰の全量をセメント原料などに利用する計画とされているが、石炭灰は現在でも処理先がなくなっている状態で、本計画の発電所が稼働する2024年以降のセメント需要はさらに不透明である。また石炭灰に混ざった水銀など有害物質は、そのままセメント原料にするとの説明があり、水銀の移動や拡散につながりかねず大変問題である。

7.情報公開のあり方について

 環境アセスメントにおいて公開される準備書は、縦覧期間が終了しても閲覧できるようにするべきである。そもそも環境アセスメントは住民とのコミュニケーションツールであり、できるかぎり住民に開かれたものであるべきである。縦覧期間後の閲覧を可能にするほか、縦覧期間中もコピーや印刷を可能にするなど利便性を高めるよう求める。「無断複製等の著作権に関する問題が生じないよう留意する」ことは、ダウンロードや印刷を禁じる理由とはならない。

意見書(PDF)

(仮称)蘇我火力発電所建設計画への環境影響評価方法書に対する意見書