日本最大の石炭火力はどこ?

日本の温室効果ガス排出全体のおよそ2割と、大きな排出の源となってしまっている石炭火力発電所。

その中でも、日本で最も大きい発電所はどこか、ご存知でしょうか?

一番大きな発電能力を持っているのは、愛知県武豊(たけとよ)町にある武豊火力発電所の5号機(107万kW)。ここは今年1月末に火災が発生したところで、ニュースで発電所から黒煙が上がっている様子を見たという方も多いのではないでしょうか。

敷地内の総合発電能力では、愛知県碧南(へきなん)市にある碧南火力発電所(1~5号機で計410万kW)が最大です。

これら発電所の持ち主はどちらも、日本最大の石炭火力会社である株式会社JERA(ジェラ)。

この2つの発電所は衣浦湾を隔てた対岸というごく近い距離で建てられており、互いの発電所を見ることができます(下の図参照)。

今年2月、私たち気候ネットワークスタッフ数名で、いくつかの環境団体の人たちとともにこの2つの発電所へ視察に行ってきました。碧南火力は内部まで見学し、武豊火力は発電所外壁の火事の跡を確認し、地域の方からお話を聞いてきました。

今回は、その視察の様子についてご紹介したいと思います。

碧南火力の見学

碧南火力発電所では発電所見学ツアーにあらかじめ予約すると説明付きで見学ができます。

下の写真の、大きなぎざぎざの水色が入った建物が1~5号機のボイラー建屋、その手前の小さな建物がタービン建屋です。4・5号機用の煙突から白い煙が出ているのが見えます。

市街地からは遠く、周囲は湾と畑に囲まれていました。

碧南火力発電所の外観(撮影:森山拓也)

上の写真の左から2番目にある4号機では、2024年3月から石炭にアンモニアを20%混焼する実証試験を開始するとの説明を受けました。

タービン建屋内部(撮影:森山拓也)

こちらがタービン建屋内部。轟音が内部に響いています。

建屋の中央にどんと横たわっているのがタービンと発電機。手前が4号機のもの、奥が5号機のものです。中央制御室で制御がなされています。

碧南火力発電所の貯炭場(撮影:エヴァン・ギャッチ)

貯炭場では、市街地から離れているからか、風が強い中、野積みで石炭が貯蔵されていました。33万㎡もの土地に88万トンの石炭を保管することができると聞くと膨大な量に思われますが、この量を発電により一カ月で使い切るようです。石炭はオーストラリアから2週間、インドネシアから7~8日かけて船で運ばれてきます。

見学当日には岸壁に横づけされた石炭運搬船から、石炭の荷揚げが行われていました。上の写真ではちょうど石炭を貯炭場に搬入している様子が見られます。

石炭はここからベルトコンベアで運ばれてボイラーに投入されます。

溜めた雨水をまいて石炭(粉)が飛ばないようにしているようでしたが、貯炭場の水たまりにはサギとみられる鳥やカラスがたくさんおり、鳥の健康に影響はないのか気になりました。

質疑応答 ー CO2排出量など説明されず

質疑応答では、主に環境に対する取り組みについて参加者から以下のような質問が挙げられました。ここにその質疑応答の様子を記します。(※は補足)

Q:碧南火力発電所のCO2排出量は何トンか。アンモニアを混焼した場合、どの程度CO2を削減できるのか。
A:公表していない。

Q:混焼予定のアンモニアはどこから運ばれてくるのか。
A:アメリカのメキシコ湾にある製造会社から輸入する。2月末に受け入れる予定。

Q:そのアンモニアはどのように製造されているのか。
A:実証試験では天然ガスから製造するグレーアンモニアを使用予定。
※つまり、製造段階でCO2が排出されている。ライフサイクル全体でのCO2削減率は不明とのこと。

Q:1~2号機は超臨界(SC)と非効率石炭火力にあたるが、廃止の予定はあるのか。
A:決まっていない、もしくは公表されていない。

Q:各号機の効率は?耐用年数は何年ぐらいなのか。
A:1~3号機が39.5%、4~5号機は42%程度。古い方が効率が低い。耐用年数は50年。
※碧南火力発電所で一番古い1号機は1991年、一番新しい5号機は2002年に運転を開始している。

Q:碧南火力では排出されたCO2を回収し貯留するCCSの予定はあるのか。
A:CCSの予定はない。

Q:木質バイオマスを石炭に混ぜているとのことだが、具体的にどこで生産した木材を使用しているのか。アンモニアと木質バイオマスを混焼することはあるのか。
A:1~5号機で木質バイオマスを混ぜている。混焼率は3%程度。木質ペレットはカナダからの輸入だが、具体的な産地は不明。アンモニアと木質ペレットは同時に混焼はしない。

温室効果ガスについての質問には具体的な回答がありませんでした。環境への取り組みをアピールするのであれば、石炭火力発電に対し最も懸念される温室効果ガス排出についてもしっかり公表をするべきではないかと考えます。また、木質バイオマスは森林伐採にも繋がっているため、どこの木をどのように伐採して製造した木質ペレットが使われているのかも気になりました。

さらに、アンモニア混焼についてもCO2の出ない燃料のようにポジティブに発信されていますが、天然ガスから製造されているアンモニアを混焼してどのくらい温室効果ガスの削減に繋がるのかはわかりませんでした。

アンモニアを化石燃料から製造していた場合、石炭-アンモニア火力でCO2は減らない
【ポジションペーパー】「水素・アンモニア発電の課題:化石燃料採掘を拡大させ、石炭・L N G 火力を温存させる選択肢」より

例え発電所からのCO2排出量が減っていたとしても、ライフサイクルで大幅にCO2が減っていなければ気候変動の抑制には効果がありません。国際的には、2035年までに電力の大部分が脱炭素化していなければならないとされています。事業者であるJERAのロードマップでは、2020年代後半に20%混焼の商用運転を開始、2030年代後半で50%混焼の商用運転を開始となっています。これで世界が目指す1.5℃目標のタイムラインに沿うことができるのか、懸念が深まりました。

今後、グレーアンモニアをブルーアンモニアに変えたとしても、製造時に排出したCO2を回収するため、さらに金銭的なリスク、地政学的なリスク、(回収貯留したCO2の)漏洩のリスクが伴います。グリーンアンモニアについては、大規模発電所での需要を賄えるほどの量は確保できません。どのようなアンモニアを使おうとも、海外からの輸入が避けられないため、エネルギー安全保障が国際情勢に影響を受け続けることになります。

多くのお金をかけ、様々な企業を巻き込み、アンモニア混焼が大々的に進められていますが、その価値に相応しい技術なのか、広い視野で捉えなおしてほしいと切に感じました。

碧南火力発電所の見学ツアーは基本的に常時受け付けされており、子どもや学生、社会人など様々な人が参加しているようです。私たちのツアーでは、作業着のスタッフの方々がニコニコしながら丁寧に発電所内を案内してくれました。ツアー参加者の多くは、おそらく石炭火力もアンモニア混焼で気候変動対策がなされるようになって今後「CO2を出さない」方向へと変わっていくのだろうという認識を持つのではないかと想像されます。JERAの石炭火力発電所の中で表向きツアーを実施しているのはここだけなので(LNG火力は他でもツアーをしているところがある)、まさにイメージ戦略の一貫なのだと思います。今回に限っては、本来ツアーに組み込まれていたビデオ上映がビデオの不調でなくなり、その代わりに質疑応答で十分な時間を設けてもらうことができました。そこで重要な論点を掘り下げようとしましたが、結果的には環境団体の疑問に何一つ答えてもらえなかったわけです。もし、見学ツアーに参加することがあれば、ぜひいろいろと質問を投げてみてください。

武豊火力の見学 ー 火災のあとが残る

続いて湾を渡り、武豊火力5号機の見学に向かいました。

武豊火力は今年の1月31日に火災が発生したため、今は運転を停止しており、運転再開の目途は立っていないようです。

今だに詳細な原因説明はされていませんが、バイオマス燃料である木質ペレットを貯蔵するバンカーが出火元と報じられており、ベルトコンベヤーにも延焼し、ボイラー建屋の上部も大きく損傷していました。(延焼範囲はこちら

大きな火災だったにも関わらず、けが人は出ておらず本当に良かったです。

武豊火力の外観。ボイラー建屋の上部に火災跡(撮影:森山拓也)

武豊火力は住宅地のすぐ側にあります。

今回、住民の方からも当時の状況について伺う機会がありましたが、事故発生当時、ドンという爆発音が周囲に響き、空に大きな黒い煙が昇った様子を見て、近隣の方は怖い思いをされたようです。

武豊火力5号機は、もともと2~4号機の跡地に敷設していた太陽光パネルを撤去し2018年から建設が開始されました。多くの方の反対の声があり計画段階では環境大臣が数度にわたって建設へ反対の意見を示していたにもかかわらず、2022年8月に稼働を開始しました。

武豊火力5号機では、”環境配慮”として木質バイオマスを混焼していましたが、今回はその木質バイオマスがきっかけで火災が発生してしまいました。

今回の事件に対し、住民の方が事故発生当時の詳細な状況、管理状況、環境や人体への影響の有無の究明や住民説明会をJERAに求めましたが、JERAは要請文の受け取りすら拒否しました

木質バイオマスを燃料とした発電所の火災は、米子バイオマス発電合同会社の米子バイオマス発電所(鳥取県米子市)、関西電力の舞鶴発電所(京都府舞鶴市)、大阪ガス傘下の袖ケ浦バイオマス発電所(千葉県袖ケ浦市)など全国で相次いでいます。また、武豊火力発電所でも2022年8月、9月、2023年1月と木質ペレットが発火するボヤ火災が起きていました。

自分の家の近くで大きな爆発事故が発生したとなれば、発電所の管理状況がどうなっているのか気になるのは普通ではないでしょうか。地域の住民の方が安心できるようにするのは事業者に最低限の責任として求められることです。今後、JERAから住民の方へ一刻も早く説明がなされることを強く期待します。

まとめ

今回、日本最大級の石炭火力発電所を二か所見学してきましたが、気候変動への悪影響、安全面、コスト面、エネルギー自給などあらゆる面から、石炭火力発電所は時代にそぐわず、早く廃止していくべきものだということを改めて感じました。愛知県や日本全体で公正な移行の取り組みが進んでほしいと思います。

火力発電所は、地元の人でも意外と存在を知らない場合が多いです。このブログを読んで頂いている皆さんの近くにもあるかもしれません。ぜひこちらのマップで身近に石炭火力発電所がないか確認してみてください。気候変動が気になる身近な人を誘って、発電所の周囲をぐるっと周ってみるだけでも、石炭火力について様々なことを考えるきっかけになると思います。

参考