今から将来にかけて、若い人ほど大きな影響を受けてしまうことになる気候変動。
「地球温暖化が進んで未来がなくなるのに、学校になんか行けない」とは、スウェーデンの環境アクティビスト、グレタ・トゥーンベリさんの言葉です。

気候変動によって子どもたちの生活は深刻な影響を受けかねない状況になってしまっており、気候変動は子どもたちの人権を侵害する大きな要因になっています。

また、気候変動を自分事として声を上げる子どもは増えているものの、この問題への対策を決める意思決定プロセスにおいて、子どもの意見は尊重されているといえるのでしょうか?

子どもの権利条約の実施状況を国際的にチェックする機関に、国連の子どもの権利委員会があります。

気候変動や環境破壊によって子どもたちの権利が侵害されることを危惧した委員会は、2023年8月、「気候変動に焦点をあてた子どもの権利と環境に関する一般的意見26」を発表しました(以下、「一般的意見」)。

これは、気候変動を初めとする環境破壊が、子どもの権利にとってどのような意味を持つのか法的指針を提供する文書であり、子どもたちの命と生活を守るために、各国政府がどのように対応するべきかを示しています。

このブログでは、「一般的意見」について紹介するとともに、日本においての対応も考えていきます。

その前にまずは、そもそも子どもにはどんな権利があるのか確認していきましょう。権利は求めることができるものです。自分たちがもともと持っている権利を知っていれば、権利が侵害されていることに気づくことができ、きちんとした対応を求めることができるでしょう。

子どもにはどんな権利がある?

子どもの権利条約は、1989年に国連で採択されました。この条約を守ることを約束している締約国・地域の数は196と、人権条約としては世界で最も広く受け入れられています。日本もおよそ30年前、1994年に批准しています。

この条約によると、子どもの権利には、以下のようなものがあります。

日本ユニセフ協会「子どもの権利条約 第1~40条抄訳一覧」より

どこに生まれた子どもであっても、同じ権利を持っています。これらは大きく「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」と分けられ、大人は子どもたちにとって一番良い選択をするべきとされています。

一例をあげると、「休み、遊ぶ権利(第31条)」があります。子どもには平等に、休んだり、遊んだり、文化芸術活動に参加する権利があり、これは条約によって定められているということです。例えば地域にある公園や児童館などの子どものための場所が、きちんと子どもの遊ぶ権利を守るものになっているか?多様な子どもが平等に参加できるようにデザインされているか?など、考えることができますね。

この子どもの権利の中で、特に気候変動や環境破壊によって影響を受ける権利があります。その権利をひとつひとつ明らかにし、各国の政府に対応を求めたのが、今回紹介する「一般的意見」です。

環境破壊によって子どもはどんな権利の侵害を受けるんだろう?

この「一般的意見」によれば、気候変動によって影響を受けるもの、あるいは子どもたちの権利を守るために大切だとされているのは、以下のようなものがあります。

  • 差別を受けない権利(第2条)
  • 子どもの最善の利益(第3条)
  • 生命・生存・発達に対する権利(第6条)
  • 意見を聴かれる権利(第12条)
  • 表現・結社・平和的集会の自由に対する権利(第13条・15条)
  • 情報へのアクセス(第13条・17条)
  • あらゆる形態の暴力を受けない権利(第19条)
  • 健康に対する権利(第24条)
  • 社会保障および人間らしい生活水準に対する権利(第26条・27条)
  • 教育に対する権利(第28条・29条)
  • 先住民族の子どもやマイノリティ(少数者)グループの子どもの権利(第30条)
  • 休み、遊ぶ権利(第31条)

先ほどの図に、ざっくり丸をつけてみました。

上で例にあげた、「休み、遊ぶ権利(第31条)」も入っています。気候変動で生活や周りの環境が危険な状態になってしまったら、子どもたちの健康とウェルビーイング(幸福)にとって必要である「遊ぶこと」が十分できなくなってしまうかもしれません。

「健康に対する権利(第24条)」も見てみましょう。ここでは環境の汚染や生物の多様性の喪失、気候変動によって子どもの健康が脅かされるとしていますが、身体だけではなく、心の健康にも言及されています。

”子どもたちの心身の健康が、気候変動、汚染、不健全な生態系、生物多様性の喪失によって影響を受けることがあってはなりません。子どもたちが健康上の問題を抱えた場合、医療や支援を受けることができなければなりません。”

「一般的意見」チャイルドフレンドリー版より筆者訳

世界的にエコ不安症(気候不安症)は拡大しており、バース大学の調査では気候変動によって「未来が恐ろしい」と考える子どもが75%、「親の世代より機会を損失している」が55%、「子どもを生むのをためらう」も4割程度いるということがわかりました。

日本も含め、政府の気候変動対策に不信感が強いほど、将来への悲観的な考え方が強まることもわかっています。気候変動対策の不足・遅さは子どもにも伝わって政府への不信感となり、不安を強めているのです。

エコ不安症はこれからますます多くの子どもたちに広がってしまうかもしれません。

各国は、抑うつや不安症に対処し、予防するためのプログラムを緊急に備えるよう呼びかけられています。教育やカウンセリングを通じた症状への対応を進めるとともに、不安の大元を解消するために、現世代には子どもの声に真摯に耳を傾け、気候変動解決に向けて政府や社会システムを動かしていく責任があります。

子どもには自分たちの意見に耳を傾けてもらえる権利がある

気候変動解決に積極的な施策を進めるには、より深刻な影響を受けることになる、子どもの意見が尊重されなければいけません。

「一般的意見」にも、しっかり「気候変動に関して何か決める時は、子どもの意見を聞こう(第12条)」ということが書かれています。

”子どもたちは大人に真剣に受け止められ、環境と気候変動の問題について発言権を持てるべきです。政府は、環境と気候変動に関して決定を行うときは、子どもたちを参加させ、子どもたちの意見がどのように考慮されたかについて、子どもたちにフィードバックしなくてはなりません。”

「一般的意見」チャイルドフレンドリー版より筆者訳

ただ意見交換するだけではなく、決定の場に参加させ、(子どもにとって一番良い選択をしたうえで)フィードバックをする必要があるのです。

大人の都合で若者にいてほしいときだけ意見交換の場に呼ぶような、いわゆる「ユースウォッシュ」が横行している状況が残念ながらあります。「決定プロセスに参加してもらう」「フィードバックをする」という点は非常に重要だと感じます。

日本でも若者が声をあげ始めた!若者協議会が要望提出

意見が尊重されるべき権利に着目し、日本でも将来に受ける影響を少しでも変えようと若者たちが声をあげ始めました。

日本若者協議会は、気候変動対策の意思決定プロセスに若者を参加させるよう働きかけています。

気候変動と密接にかかわるエネルギー政策ですが、現状将来世代がその意思決定に関われていません。2024年はエネルギー政策全般に大きな影響を与える「エネルギー基本計画」が改訂予定です。気候変動によって大きな影響を受ける将来世代の声が、きちんと反映されるべき計画です。

日本若者協議会は現在署名を集めており、各党へ要望を提出されています。

要望のポイントは3点。

1.次期エネルギー基本計画を議論する有識者会議に若者を複数入れてください

2.有識者会議の人選において、エネルギーの供給側・需給側のバランス、各委員が専門とする技術分野のバランスを考慮することを求めます

3.気候市民会議を政府で開催してください

オンライン署名 · 地球沸騰化の危機!次期エネルギー基本計画を議論する有識者会議に若者を入れてください&気候市民会議を開催してください! · Change.org


日本若者協議会はエネルギー政策を決める審議会の委員構成について、有識者やエネルギー業界の幹部が中心になっていること、年齢層が高く将来世代の意見が反映されにくい構造となっていることを指摘しています。その対応として、環境系の若者団体からなど、一定期間気候変動に対して活動しており専門知識がある若者を参加させるよう求めています。

年齢層が高かったり、業界の立場があり利害が絡んでいたりすると、意思決定がどうしても狭い視野でなされがちになるでしょう。気候変動という何世代にもわたる深刻な問題に関わるエネルギー政策には、長期的な目線と危機意識を共有できる、将来世代の参加が必須です。

図:気候変動で受ける影響は世代によって著しく異なる

まとめ

この「一般的意見」をもとに、私たちは社会を見直すことができます。

国レベルの気候変動政策だけでなく、自治体レベルでも子どもたちの意見が尊重され、政策が決められたり、予算が確保されたりしているか。気候災害や環境汚染に子どもたちをさらさないための対策がとれているか。気候変動を抑えること、気候変動の中で暮らしていかなければいけないことの両面から教育カリキュラムが計画されているか。声を上げる子どもたちは、ハラスメントや中傷からきちんと守られているか。あらゆる対策において、障がいがあったり、マイノリティ集団に属していたり、特に気候に対して脆弱な環境で暮らす子どもたちへの配慮がきちんとされているか。

気候変動への対策について、今の選択が、数百年から数千年先にまで影響を及ぼすと言われています。未来から振り返った時にあの時に何をやっていたのかと言われないように、まずは今の子どもの権利を守れるよう、対策を講じるべきではないでしょうか。

子どもが健やかに成長するためには、安全な環境が必要です。

今の子どもたちは生まれたときから気候変動が進んでおり、この危機に巻き込まれてしまっている状況です。怒ったり抗議をするのは当然です。現世代にはその中でどのように子どもの権利を守ることができるのか、世代間の不公平を無視せず責任をもって施策を考える必要があります。

今回の「一般的意見」がきっかけとなって、今後様々なレベルで対策がとられていくことを期待したいと思います。子どもの権利が守られる社会は、大人の権利も守られ、大人にとってもきっと暮らしやすい社会になることでしょう。

参考資料