気候変動の主な原因であるCO2ですが、日本国内でたくさん出しているのは、どこのだれなのでしょう?
日本で最も多くのCO2を排出している、上位10事業所のランキングを作ってみました(数字は国の「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」に基づく気候ネットワーク分析によるもの。CO2排出量の数字はいずれも2017年です)。
日本10大CO2排出源 ランキング!
順位 | 事業所名 | 企業名 | CO2排出量 |
第1位 | 碧南火力発電所 | 中部電力 (現:JERA) | 2545万トン |
第2位 | 西日本製鉄所福山地区 | JFEスチール | 2158万トン |
第3位 | 西日本製鉄所倉敷地区 | JFEスチール | 1829万トン |
第4位 | 君津製鐵所 | 新日鐵住金 (現:日本製鉄) | 1581万トン |
第5位 | 大分製鐵所 | 新日鐵住金 (現:日本製鉄) | 1507万トン |
第6位 | 名古屋製鐵所 | 新日鐵住金 (現:日本製鉄) | 1421万トン |
第7位 | 加古川製鉄所 | 神戸製鋼 | 1379万トン |
第8位 | 鹿島製鐵所 | 新日鐵住金 (現:日本製鉄) | 1251万トン |
第9位 | 原町火力発電所 | 東北電力 | 1244万トン |
第10位 | 常陸那珂火力発電所 | 東京電力フュエル&パワー (現:JERA) | 1229万トン |
堂々の第1位は、愛知県碧南市にある石炭火力発電所「碧南火力発電所(中部電力)」で、2545万トンです!日本の家庭1世帯あたりのCO2排出量が年間約4トンと考えれば、なんと636万世帯分の排出量です(なお、気候変動による海面上昇などの危機にさらされている南太平洋の島国キリバスの国全体の排出量は10万トン程度です)。
第2位から第8位まで、JFEスチールや、日本製鉄、神戸製鋼の高炉製鉄が続きます。石炭コークスを大量に使う製鉄業は、最もCO2排出量の大きな産業のひとつです。また、第9位の東北電力の原町火力発電所も、第10位の東京電力F&Pの常陸那珂火力発電所も、いずれも石炭火力発電所です。
トップテンは高炉製鉄所と石炭火力発電所で占められています。トップテンの事業所のCO2排出量を合計すると約1億6151万トン、日本の総排出量の12.5%を占めます。第11位以降も、石炭火力発電所や天然ガス火力発電所、高炉製鉄の事業所がずらっと続いています。
さて、大規模排出源になっている事業所のデータから、2つのことが言えると思います。
1. カーボン・ニュートラルには、大規模排出源の対策が不可欠
日本に600万以上ある事業所のうち、大量にCO2を排出しているのはごく一部です。日本の総排出量の半分を、約130の工場と発電所で出しているのです(下図)。
2020年10月に菅総理は「2050年カーボン・ニュートラル」を宣言しました。これを達成するためには、この130事業所(加えて、その他の大口事業者)の「脱炭素」という難題を避けて通ることはできません。
トップテンのCO2排出はいずれも化石燃料由来です。エネルギー単位あたりのCO2排出量は、化石燃料の中でも石炭がダントツに多く、石炭火力発電所や、石炭コークスを利用する高炉製鉄がランキング上位を占めています。
例えば、石炭火力発電については省エネや再エネへの転換が有効です。製鉄については、電炉の鉄リサイクルで大幅にCO2を減らせると言われています(製鉄で再エネ由来の水素を使う技術も研究されていますが、実用化はまだまだ先です)。
2. 「一人ひとりが身近で小さなことを」では気候変動は防げない
「気候変動の責任はみんなにある」と言われることがあります。実際、私たちは、電気、ガソリン、冷暖房、食べ物や水などの利用を通じてCO2を出しています。確かに、すべての人に責任があり、行動が必要です。
しかし、上にあげたトップテンの事業者たちは1000万トンをはるかに超えるCO2を出しています。さらに、近年、石炭火力発電所を新設して運転を始めようとする神戸製鋼のような企業も次々と現れました。「企業も努力をしている」という意見もあるでしょう。しかし、経団連の低炭素社会実行計画にある2030年目標がすべて達成された場合の見込み排出量は、それだけで、政府目標の2030年46%削減を達成した場合の見込み排出量を上回ります(なお、パリ協定の1.5℃目標には46%は不十分であり、日本は少なくとも60%以上削減すべきと分析されています)。
そのような中、発電所や工場の話をせずに「みんな一人ひとりの責任だ」とばかり言うことは、「利益のためにたくさんのCO2を出してきた企業」「これからもたくさんのCO2を出すつもりの企業」の責任を見えにくくしてしまいます。繰り返しますが、一人ひとりの行動は大切です。でも、それだけでは日本の排出量をゼロに近づけていくことはできないのです。それどころか、2030年46〜50%目標の達成すら危ういのです。
私たちの社会全体でどうやって「カーボン・ニュートラル」を実現していくのか?持続可能な開発目標(SDGs)の「SDG7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や「SDG13:気候変動に具体的な対策を」にどう向き合っていくのか?
もしも本気で気候変動を止めようと思うのならば、私たちは、家庭の中だけでなく、どうやって政治を変えるか、社会の仕組みを変えるかを考え、行動していくことが必要でしょう。
(伊与田昌慶:気候ネットワーク主任研究員)
*トップ写真:神戸製鋼 神戸発電所1号機・2号機
(撮影:山本元 2019年1月27日)
[2021年9月1日追記:ランキング表の企業名について、当時の企業名と現在の企業名を併記する表記にしました]
この記事を書いた人
- 気候ネットワークに所属されていた方々、インターンの方々が執筆者となっております。
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