こんにちは、スタッフの小畑です。昨年の10月15日に、神奈川県小田原市にある「合同会社小田原かなごてファーム」が運営するソーラーシェアリングの見学に行ってきました。

農地で電気をつくる

「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」とは、農作物の上に太陽光パネルを設置し、太陽光を農業と発電でシェアする取り組みのこと。米やかんきつ類、茶など、様々な作物を栽培することができます(円グラフ参照)。

日本では耕作放棄地の増加や農家の減少が問題ですが、ソーラーシェアリングを行うことで電力の自家利用や売電による収入によって農家の収入を支え、脱炭素への貢献も期待される、注目の取組みです。

太陽光を遮ることで収穫量が落ちるのではないか?と心配する方もおられると思いますが、太陽光パネルは間隔をあけて設置するため、必要な分の光があたれば収穫量には問題がありません。

図:ソーラーシェアリングの農地で栽培されている作物(農林水産省 営農型太陽光発電設備設置状況等について (令和2年度末現在)より)

※ソーラーシェアリングについては、パンフレット「農地から食料とエネルギーの未来を ソーラーシェアリング」もご覧ください。

写真:ソーラーシェアリング2号機。水田の上にパネルが設置されている

ソーラーシェアリング見学

当日はソーラーシェアリングで発電した電気を使用しているレストラン「農家カフェSIESTA」で、地元の食材を使った美味しい昼食を頂いた後、かなごてファーム所有のEV車で見学に回りました。

写真:「農家カフェSIESTA」での昼食。野菜が甘く、驚くほどおいしかったです。

かなごてファームの4か所のソーラーシェアリングは、耕作放棄地を活用した上でレジリエンスの観点から「分散型」にこだわり、すべて低圧・小規模の発電所となっています。ソーラーシェアリングを広めるという志のもと、各発電所は異なる特色を持って試行されています。

作物が米をはじめ多様なうえ、資金調達方法も補助金を活用したり、金融機関から融資を受けたり、市民出資型にしたりと様々です。FITを活用しているところも、自家消費(オフサイトPPA)モデルを実施しているところもあり、売電の仕方も工夫されているようでした。

私たちは4か所のソーラーシェアリングのうち、1~3号機を見学しました。
1号機は2016年11月に竣工され、畑の上に設置されています。ここでは農地でソーラーシェアリングをするために必要な、耕作放棄地を使ってソーラーシェアリングを実施するに至った経緯や農家がなかなか増えない現状、太陽光パネルを農地の上に設置するための農地転用許可の対応などについて話を伺いました。

2号機は水田の上に設置されていました。私達の見学の前に稲刈りが完了していましたが、収穫の際には地元の方を中心に広く人を呼んで、みんなで稲刈りをするそうです。地元で持続可能なお酒造りに取り組んでいる井上酒造さんは、再エネ新電力会社のみんな電力を通じてここで生産した電気を買い、また生産した自然栽培のお米を100%使用して日本酒「推譲」を作っています。「推譲」は、料理を引き立てるような非常にすっきりとした味わいのお酒のようです。

3号機は、農村復興政策を指導した二宮金次郎の出生地の近くにあり、そこから既存の送電線を使って、農家カフェSIESTAと松田町の公共施設まで電気を送っています。再エネ新電力会社のグリーンピープルズパワーがここで発電した電気を買い取ることで、オフサイトPPAモデルが成立しています。

写真:ソーラーシェアリング3号機。ソーラーパネルの下では様々な作物が栽培されている

エネルギーと食の自給ができる地域へ

小田原でソーラーシェアリングのパイオニアとなった小山田さんの試みはまさに試行錯誤の連続で、発電所ごとに大変濃い、ドラマのようなエピソードを聞くことができました。

特に印象に残ったのは、田んぼの上に設置していた2号機について、太陽光パネルの支柱が台風によって倒壊してしまったときのこと。事故を隠さず、対策まで含めオープンにし、これからは絶対に倒壊させないという強い決意で再建に至ったようです。近所の田んぼの方々から励まされたと、小山田さんはその時のことを噛みしめるように話していました。

ソーラーシェアリングのある水田で生産した米を使った日本酒「推譲」を地元の酒蔵と作るに至った話や、秋の稲刈り体験のエピソードなど、小山田さんとソーラーシェアリングを中心に、地域の人と人のつながりを感じることができました。

写真:ソーラーシェアリングの下で生産した米を使って日本酒「推譲」を醸造している井上酒造

お話を通じて、日本の食料自給率の低下や耕作放棄地の増加、原発事故などの社会課題解決に対する小山田さんの強い思いがひしひしと伝わってきました。これらを解決するための鍵として、ソーラーシェアリングの果たせる役割は大きいと改めて感じました。

これだけ可能性の大きいソーラーシェアリングですが、普及はまだ一部にとどまっています。ソーラーシェアリング普及に向けた課題を伺ったところ、小山田さんは手続きの煩雑さやソーラーシェアリングに対する農業関係者の関心がまだまだ低いことを挙げておられました。ソーラーシェアリングが全国に広がることを目指して、小山田さんは日夜講演や視察の受け入れを通じて精力的に情報発信をされています。

小山田さんは「僕らの世代で邪魔なものを取っ払って、若い世代には余計な苦労をさせないようにしたい」と言います。現在、かなごてファームは20歳代が主力となって、団体最大のソーラーシェアリング5号機始動に向けて動いています。地に足のついたひとつひとつの取り組みを通じて、小山田さんが掲げる「エネルギーと食の自給」ができる地域づくりビジョンは確実に実を結んできていると感じました。

参考資料

・「食エネ自給のまちづくり」 小山田大和 著
・市民発電所台帳 2021(p.18に「金次郎の里ソーラーシェアリング発電所」として事例紹介)https://www.peoplespowerstations.net/ 
・農林水産省 営農型太陽光発電についてhttps://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/einou.html
・農林水産省 営農型太陽光発電設備設置状況等について (令和2年度末現在)https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/attach/pdf/einogata-2.pdf