<プレスリリース>
環境・気候変動問題は、人権問題である
国連人権理事会決議に対する日本政府の「棄権」に対するコメント
2021年10月12日
特定非営利活動法人気候ネットワーク
代表 浅岡美恵
10月8日、国連人権理事会は、第48回定例会合において、「安全でクリーンで健康的で持続的な環境への権利(以下「環境への権利」と呼ぶ)」決議(*1)を採択した。これは、長い議論を経て、環境に対する人権を認めた初めての決議となる。本決議は、直前まで反対をしていたイギリスを含む43カ国が賛成し、反対ゼロで可決されたが、日本・ロシア・中国・インドが棄権した。
2019年12月20日、オランダ最高裁判所は、危険な気候変動の影響は生命、幸福に対する現実かつ切迫した危険であり、人権侵害と認め、国の排出削減の強化を命じた。2021年8月には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書第1作業部会報告書が、すでに世界中で極端現象などが起こり、気候変動の被害が深刻化し、人々の生命や健康、安全な生活を脅かしていること、今後、さらに影響は激化することを明らかにしたところである。緊急に対策を講じないと、さまざまな形で現世代、そして次世代の人権侵害を拡大させることは論を俟たない。
気候変動を含む環境問題が人権の問題であるという認識に立った国連人権理事会の決議は非常に重要なものである。しかるに、日本が「棄権」という形で目を背けたことは、極めて問題である。日本は、環境権は国際的に認識されたものではないと述べたとされるが、本決議の棄権の理由として、およそ説得性がない。
これでは、日本は、世界とともに今日的課題を解決する入り口にも立つことができない。日本の高度経済成長期に発生し、現在もなお被害が続いている公害に向き合うこともできていないと言わざるをえない。環境・気候変動は、世界が共通して取り組むべき重要な課題であり、この課題に正面から挑むことは、人々の幸福や人権を守っていくことに他ならない。
政府は、方針を直ちに見直し、人権問題として、環境・気候変動の危機に挑むことを基本姿勢として確立するべきである。
決議の概要(*2)
「環境への権利」の決議では、環境保護は人間の幸福と人権の享受に貢献するが、気候変動などの環境被害が人権に悪影響を及ぼし、特に脆弱な立場にある人々を厳しい状況に置かれることを認識し、情報へのアクセスや政策決定への参加、効果的な司法へのアクセスや効果的な救済措置への支援が環境保全のために重要であるとしている。そして政府は、環境対策を通じて人権を尊重、保護、促進する義務があるとしている。その上で以下を決議している。
- 「安全でクリーンで健康的で持続可能な環境への権利」は、人権の享受の上で重要であること
- 「環境への権利」は、既存の国際法の他の権利と関連していること
- 政府に対して、(a) 人権に対する義務と約束を果たすために環境保護への努力を向上させること、(b) 環境への権利に関する人権に対する義務を果たすための優良事例を共有し、他の人権保護との統合を図ること、(c)環境への権利のための政策をとること、(d) 環境への権利に関する義務と約束を考慮し、SDGsに従い続けること
- 国連総会※が本件を検討することを奨励
なお、本会合では、本決議に加え、特に脆弱な国々において気候変動が深刻な影響を及ぼしていることを踏まえ、3年間の任期で、気候変動影響が人権に及ぼす影響や課題について分析し、国連人権理事会に報告をする特別報告者を3年の任期で任命することも決議している(*3)。
*1) The human right to a safe, clean, healthy and sustainable environment.
https://undocs.org/a/hrc/48/l.23/rev.1
*2) 決議の概要は、気候ネットワークによる暫定抄訳に基づくため、正確には決議文を参照のこと。
*3) Mandate of the Special Rapporteur on the promotion and protection of human rights in the context of climate change.
https://undocs.org/a/hrc/48/l.27
プレスリリース(PDF)
【プレスリリース】環境・気候変動問題は、人権問題である 国連人権理事会決議に対する日本政府の「棄権」に対するコメント(2021/10/12)
※2021年10月13日:本プレスリリースの発表時、「決議の概要」において、誤って「国連安全保障理事会が本件を検討することを奨励」としていましたが、正しくは「国連総会が本件を検討することを奨励」でした。お詫びして訂正します。