はじめに
気象庁によれば今夏(6〜8月)の平均気温は平年を0.91度上回り、2010年に次いで過去2番目に高くなったそうです。また日本海側の海面水温は観測史上最高を記録したそうです。京都でも猛暑日が続き、舞鶴市では平年よりも7.6日も猛暑日が多くなったそうです。これだけの暑さが続けば当然冷房の需要も増加し、今夏の電力需要は想定需要を上回る地域が複数ありました。この夏の電気代請求明細を見て「電気代こんなに高かった?」と思った方も多いのではないでしょうか。
一方10月に入り、連日の最高気温30度越えの状況から一転して最高気温が20度を、最低気温では10度を下回る日まで見られるようになってきました。12月に入ってからは気温は一気に急下降し、雪の予報も見られるようになってきました。気象庁の1か月予報では12月(12/3〜1/2)は平年並みから平年よりも高い気温になる可能性が高くなっています。一方でラニーニャ現象の継続によって1月以降は平年よりも気温が低くなる可能性が高く(40%)なっています。
そうなってくると心配になるのが冬場の電気代です。
1.電気代はなぜ上がるのか?
電気代が上がる理由をQ&A形式で説明します。
Q電気代には何が含まれているの?
A一口に電気料金といっても、その中にはさまざまなものが含まれています。
主に次の4つに分けられます。
「基本料金」電力会社が契約したプランによって定めた固定料金
「電力量料金」電力を使った分だけ支払う
「燃料調整費」燃料費の変動に応じて徴収・減額される
「再エネ賦課金」再生可能エネルギー普及のために使用量に応じて徴収される
*電力量料金の中には託送料金が、さらに託送料金の中には送電部門の維持管理に係るコストだけでなく電源開発促進税、原子力発電の廃炉円滑化負担金や賠償負担金などが含まれています。
Q値上がりの主要因は?
A現在の電気料金の値上がりの大きな原因になっているのが「燃料調整費」です。
大手電力会社では、社会・経済情勢によって変動する燃料費を電気料金に転嫁・反映するための仕組みとして、「燃料調整制度」を設けています。
具体的には、電力会社が定めている基準燃料価格よりも実際の平均燃料価格が高くなった場合には、その分を電気料金に上乗せして徴収、安くなった場合には電気料金から減額するようになっているのです。
燃料調整費は、大手電力10社が定めるものですが、新電力でも独自の計算基準で大手相当額の燃料調整費をさまざまな名称で定めています。新電力も電力の購入や化石燃料による発電の際には、燃料価格の高騰分の影響を受けることになるからです。そのため新電力と契約している場合にも、燃料調整費相当の価格が上昇しています。
燃料調整費の単価を決めることになる「平均燃料価格」が、2021年の秋から上昇しはじめ、2022年1月以降は高騰を続けています。それには次の二つが大きく影響しています。
・ロシアによるウクライナ侵攻によって世界的に化石燃料の価格が上昇していること。
・日本では急激に円安が進んだことで燃料輸入価格がこれまでになく高騰していること。
Q化石燃料の価格はどのくらい上がっているの?
A化石燃料の輸入価格の推移を見ると、この1年で石炭は約3.3倍、天然ガスは約2.4倍、石油は約1.8倍に値上がりしています。
日本の発電電力量の内訳を見ると、石炭31.7%、天然ガス37.2%、石油3.5%で、合わせると70%以上の電力をこれらの化石燃料に依存しています。そのため化石燃料コストの上昇は、電力料金にも大きな影響を与えることになるのです。
特に、天然ガスはもちろんですが、石炭の価格もまた現在史上最高価格で推移しており、これらの割合が高い日本は、円安と合わせて大きな影響を受けています。
Q実際の電気代はどのくらい上がっているの?
A実際の電力価格の推移を見ると、2021年1~8月の従量電灯の平均販売単価は20.25円でしたが、2022年1〜8月は23.19円と、約1.14倍の上昇となっています。
一方、発電事業者と小売電気事業者が電気の売り買いをする卸電力取引市場で取引される電気の価格(スポット市場価格)は、昨年と比較すると今年の4〜11月平均でおよそ2倍以上に値上がりしています。燃料価格や電力市場価格の上昇幅に比べれば、実際に私たちが支払っている電気料金の値上げ幅はまだ少ない方だということがわかります。
2.これから電気料金はどうなるの
上がり続ける燃料調整単価
燃料調整単価の算出に使われる「平均燃料価格」は、電力会社ごとに異なりますが、値上がり分をいくらでも電気料金に転嫁できるわけではありません。燃料調整制度では、燃料の価格が大幅に上昇した際の需要家への大きな影響を和らげるため、自動的に調整される料金の幅に一定の上限(基準時点の+50%)が設けられているからです。しかし、2022年10月現在までに、全ての大手電力会社が燃料調整単価の上限に到達しています。これは制度開始以降初めてのことで異例の事態であるといえます。
電力会社の経営悪化
燃料調整単価が上限に到達すると、電力会社は燃料価格上昇分をこれ以上電力料金に反映できなくなり、超過分は電力会社が負担することになります。こうした状況が続けば大手電力といえども経営を圧迫することになりかねません。実際に2022年度の第1期四半期決済では、大手電力10社中7社が最終赤字を報告しています。
また、大手電力だけでなく、経営規模の小さな新電力会社でも同様の状況が生じています。新電力の多くは小売事業者として、発電事業者と相対契約を結んだり、電力市場を介しての調達を行なっていますが、これらの調達価格も値上がりしています。特にFITで売電されている再生可能エネルギーの電力を調達する時には、FIT電気は送配電事業者がFIT価格で買い取り、その後、電力市場に連動する価格で小売事業者に引き渡されることになっています。そのため電力市場価格が高騰すると、その価格が再エネ電気の仕入れ価格にも反映され、再エネ電力を販売する電力会社にとっても大きな負担になってしまいます。現在のように市場価格の平均が26円・kWh程度の場合には、そこに託送料金を上乗せしたコスト(支出)だけで販売価格(収入)を上回る単価になってしまい、必要経費や収益分を回収するどころか、電気を売るほどに損をすることになってしまいます。先日、パワーシフトキャンペーンから発表された地域新電力を対象にしたアンケート結果でも、多くの地域新電力が現在の高騰の影響を受けて苦しい状況に立たせれていることが明らかになっています。
電力価格の高騰によって経営破綻に陥る電力会社も出始めています。小売電気事業者の登録件数は、電力市場が高騰した2021年の1月以降、停滞していましたが、特に今年に入ってから事業の休止・廃止や解散をする事業者の数が増加し登録件数全体では減少傾向になっています。
広がる電気代値上げの動き
こうした状況の中、大手を含む電力会社では電気料金の値上げに踏み切り始めています。四国電力では2022年11月から、北海道、東北、中部でそれぞれ12月から低圧自由料金の燃料調整費の上限撤廃が予定されています。さらには2023年4月からは、規制料金の価格の見直し・値上げの申請が東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力によって行われています。申請内容が国によって認可されれば4月からは規制料金も30-40%程度の値上げになると見られています。
一方新電力各社でも、これまでは大手電力の燃料調整費を基準に設定していたものを、独自の算定方法に改めることで、実質的に上限を撤廃する会社が増えています。
なお、こうした電気代の高騰を受けて、政府による電気代への補助も決まりました。一つは後述する省エネポイントです。もう一つが、2022年10月に政府が決定した「物価高克服・経済再生実現のため の総合経済対策」に盛り込まれたエネルギー価格高騰対策です。2023年1月から2023年9月分の電気使用分を対象*に、1kWhあたり低圧7円、高圧3.5円の金額を、月々の請求金額から値引きするものです。
(*実際の支払月で2月分料金から10月分料金が対象。2023年10月分は減額となり、1kWhあたり低圧3.5円、高圧1.8円になる。)
3.冬に向けてできること
冬も電力は逼迫するのか
この冬は厳しい寒さが予想されています。今年の6月に冬の需給逼迫状況についての予測が発表されたときには、1月は北海道と沖縄を除く、ほかのすべてのエリアで予備率が2%を下回る見通しでした。安定供給のためには最低限3%以上が必要と言われていることからも、非常に危険な水準でした。その後、政府によるさまざまな手立てによって見通しは改善され、現時点では最も見通しが厳しい1月の東北・東京エリアで4.1%、中部・北陸以西の西日本エリアでは5.6%が確保できる見通しになっていますが、それでも楽観視できるものではありません。また、電力逼迫は回避できたとしても、現在のように燃料仕入れ価格が上昇している状況では、電力価格が下がるとは考えられません。
*予備率とは、電力供給能力の余力を示し、目安として最低3%程度が必要とされている。
どうしたらいい?家庭でできること
消費量が増えることで電気代の負担も大きくなる冬に向けて、さらにはこれからも長く続くと見られている電気代の上昇に対して私たちには何ができるでしょうか?
まず、この冬に向けてすぐにでも始められることは、家庭での省エネルギーです。コツコツとした省エネ行動も重要ですが、大きく削減するためには機器や住宅そのものの見直しが必要です。冬場は電気を使った暖房器具が多くなりますが、部屋全体を温める電気ヒーターや電気ストーブは電気の使用量が大きく、暖房効率も悪い機器です。これらを使用されている方はエアコンやコタツ、ホットカーペットなどを組み合わせた暖房方法への見直しを行いましょう。また、断熱対策をしていない住宅では、窓や扉などの開口部からせっかく温めた熱の6割が逃げてしまいます。窓の断熱性能を高め、逃げる熱を少なくすることが重要になってきます。DIYが得意な方は、ポリカーボネートやプラスチックダンボールなどで内窓を作ることにチャレンジしてみてください。マンションなどで改修工事が難しい場合には、ホームセンター等でも売られている断熱シートやフィルムを貼ったりするだけでも効果はありますが、ハニカム構造のブラインド・スクリーンを取り付けるのも有効です。
(かく言う私も、自分の家ではDIYで二重窓を作成したり、ペアガラスと窓枠だけを注文して自分で取り付けたりしています。もちろん断熱性も上がりますが、遮音性も高まるので、オンライン会議の多い在宅勤務者には非常におすすめです。)
次に経済的に余裕のある方は、太陽光発電や太陽熱利用システム、薪やペレットなどの木質ストーブの導入を検討してみてください。これらの再エネ機器は高額なイメージがありますが、その価格は下がっており、特に燃料価格が高騰している分、経済性も向上しています。特に太陽光発電は、余剰電力の買取価格は年々下がりつつありますが、一方近年の電気代の高騰と太陽光パネルの値下がりによって発電単価は低下し、今では太陽光発電で作った電気は売るよりも「使ったほうが得をする」ようになっています。
家庭用の太陽光発電について関心のある方は、こちらのパンフレット「太陽光発電のギモン解決!よくある質問15選」をご覧ください。
4.エネルギー危機!だけど、再エネ導入のチャンス!
自家消費型太陽光発電のすすめ
家庭用の太陽光発電のように電気代の高騰によって、これまで売電を行なっていた再エネ電力を自家消費する方が経済的にも有利になる状況が生まれ始めています。特に10kW以上50kW未満の事業用太陽光発電は、FIT価格の適用を受けるためには3割以上の自家消費を行うこと(FIT価格で売電できるのは70%以下)が条件になっています。一定の消費量がある施設の屋上や敷地内でなければ条件を満たすことが難しいため、近年は10-50kWの太陽光発電の設置申請件数が少なくなっていました。
一方近年のカーボンニュートラル宣言の後押しもあって、日本でも民間ではRE100や再エネ100宣言などに代表される再生可能エネルギー100%電力への転換を、サプライチェーン全体で推し進めるようになってきました。企業が再エネ電力を調達する方法としては、自社で太陽光や風力発電などの導入を行うこと、再エネ電力を供給してくれる電力会社と契約することが挙げられますが、近年新たに電力供給契約(PPA:Power Purchase Agreement)と呼ばれる再エネ電力調達手法が注目を集めるようになっています。
注目を集めるPPA
PPAでは、企業・自治体が保有する施設の屋根や遊休地などをPPA事業者が借り、再エネ発電設備を設置して発電します。その電気の使用料を企業・自治体が払うことにより、施設等で使うことができるようになる仕組みです。発電事業者としてはこれまでのように安定的かつ予見性のある事業の展開が難しくなる中で、PPA事業を行うことでFIT価格並みかそれよりも高い固定単価での売電ができることになります。需要側の企業等にとっては、再エネ電力を直接使用できることに加えて、(1)ピーク電力量の引き下げと再エネ賦課金がかからない分、電気料金の削減につながること。(2)設置に伴う初期費用や設備のメンテナンス費用は設置事業者持ちとなり、需要側は費用負担がないこと。(3)設備は需要家側の持ち物ではないため資産計上の必要がなく、固定資産税や保険代がかからないこと。こうしたメリットがあります。
京都府内では、福知山市で、地域新電力であるたんたんエナジー株式会社と連携して、体育館等の公共施設3箇所に合計350kWの太陽光発電と蓄電池、EVとの接続設備(V2B:Vehicle to Building)の設置を、PPAで実施しています。設備の導入にかかる費用はたんたんエナジーが負担し、福知山市は太陽光発電からの電力利用料相当を支払います。事業の費用は、地元の北斗信用金庫からの融資に加えて、「市民出資」を募って実施されました。
たんたんエナジーのPPAによる太陽光発電所(福知山市三段池公園体育館)
(出典:筆者撮影)
企業だけでなく、自治体においても再エネ導入をはじめとする対策コストの確保が課題となる中で、初期投資コストが掛からないPPAは、単なる電力調達手段にとどまらず、災害時の分散型電源の活用による地域レジリエンスと脱炭素化を進める手段となることが期待されています。
このほかにも家庭向けに初期費用が0円で太陽光発電が設置できるゼロ円ソーラーや、駐車場などのみ利用地を活用するソーラーカーポート、田畑の上部空間を利用して太陽光発電を設置するソーラーシェアリング、電気自動車や蓄電池と連携したコミュニティ単位でのエネルギーマネジメントなど、新たな再エネ導入手法が注目を集めるようになっています。
5.始まる節電ポイントとその先にあるもの
この冬に向けて省エネを促進するために政府による節電プログラムが発表されました。利用者の節電量に応じて付与するポイントを上乗せする制度です。節電プログラムにエントリーすると2000ポイント、2024年1〜3月にかけて年同月比で3%以上を減らした家庭には月2000円分、事業所には20万ポイントが小売事業者を通じて付与される予定です。さらに1月から3月分の電気使用量を昨年比3%以上の削減で、低圧で月1000円相当、高圧で月2万円相当のポイントが上乗せ付与されます。さらに電力が逼迫する時間帯にも節電を行えば、20円〜40円相当/kWhの特典が予定されています。
これらのポイント付与を受けるためには、節電プログラムに参加している小売事業者と契約していることが必要です。大手電力事業者はもちろん多くの新電力でも節電プログラムに参加しています。
こうした節電プログラムは、デマンドレスポンス(DR)と呼ばれる情報提供や経済的なインセンティブによって人々の電力消費行動をコントロールする手法で、需給逼迫時のみならずエネルギーマネジメントの手法としても有効です。
一方で、今回の節電プログラムが「ポイント活動」に終わらず本質的に意味のあるものにしていく必要があります。
ポイントを集めるためにプログラムに参加はしているけれど、それが行われる理由やエネルギーの実情は全く知らない、というような状況にはなってほしくないと思います。これをきっかけに、なぜ、このような状況に陥ってしまっているのか。それは、火力発電を主とし、海外から輸入する化石燃料に依存し続けた結果であることを知ってほしいと思います。
6.現在のエネルギー危機の原因を考える
現在日本ではエネルギー危機が叫ばれ、原発の再稼働や稼働延長、新型炉の開発が進められようとしています。しかしながら、実際にはエネルギーが不足する、それによって大停電が起こるなどの事態が起こるとは考えられません。2022年3月や6月の東京エリアでの電力逼迫は、震災の影響で発電所が停止していたことによるものであり、燃料が足りなくなったことで起こったのではありません。また、万が一エネルギー危機の可能性があったとしても、原発の再稼働には数年、新規建設を進めるためには早くても数十年の時間が必要です。つまり、これらの原発では、今の危機への対策にはなりえません。さらに、現在の価格高騰への対策として、原発の再稼働や稼働延長を行なっても、原発は発電量の調整ができないため、電力ピークへの対応ができず、特に価格が高騰する夏場や冬場の価格安定化に大きく寄与するとは考えられません。逆に原発の維持費や安全対策費用、老朽化原発のメンテナンス価格の増加等を考えると、将来的にはさらに電気代を引き上げることにつながります。さらには、原発は戦争やテロのターゲットになもなること、原発の燃料となるウランも海外からの輸入に頼っていることなど、むしろリスクは高まるばかりで、エネルギーセキュリティ(エネルギー安全保障)の観点からもふさわしいものとは言えません。
そもそも現在の問題はエネルギー価格が高騰していることであり、その理由は国際情勢に左右される海外からの化石燃料に依存したエネルギー供給構造にあるはずです。また、電力の逼迫が考えられるタイミングは一年のうちの数日間、時間で見れば数時間だけです。
必要なのは、国内にあるエネルギー資源である再生可能エネルギーを中心としたエネルギー供給構造への転換と、エネルギー消費量の削減・効率化を進めていくことです。
電気代が上がるその背景に何があるのか、根本的な原因を知って、現状を打破するために何をすべきなのかを考えて見てください。
気候ネットワーク
上席研究員 豊田陽介
(本原稿は、京都府地球温暖化防止活動推進センター通信「うぉーみんぐWEB版(2022秋号(No.73))」に投稿したものを、同センターの許可を得て、一部改稿・追記し掲載しています。)
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