石炭火力よりCO2排出量が少ないことを理由に、日本でどんどん建設が進んでいるガス火力発電。

しかし、実際はガス火力はライフサイクルでは石炭火力よりも多くの温室効果ガスを排出するという研究が先日ガーディアン紙に掲載されました。

天然ガスの掘削作業によるメタン漏れが推定をはるかに上回っていること、パイプラインによる輸送時に大量の排出があること、天然ガスの液化・タンカーによる輸送を含めれば石炭よりもはるかに大きなエネルギーを要すること、などが原因として挙げられています。

図:米国内におけるLNG(単/長距離輸送)、天然ガス、石炭、軽油、ヒートポンプの使用によるのGHGフットプリントと欧州での平均的なヒートポンプのフットプリントの比較
出典:The greenhouse gas footprint of liquefied natural gas (LNG) exported from the United States(Figure3)

つまり、ガス火力の建設を進めることは、短い期間で考えると、気候に甚大な悪影響を及ぼす恐れがあります。気候変動の激甚化を防ぐためにはこの10年が決定的に重要とされており、ガス火力を新設する余地は全くありません。

天然ガスは「天然」と頭につくことで環境に良いような気がしてしまいがちですが、実際は温室効果ガスを大量に出すため、環境には全くよくありません。「天然ガス」ではなく本来は「化石ガス」と呼ばれるべきとの指摘は以前からありました。

そんな中、愛知県に新しいガス火力発電所が2基も建設されようとしているのをご存知でしょうか。

  • 新しいガス火力発電所とは… 
     知多ガス火力発電所7、8号機
  • 建設しようとしているのは… 
    → 日本最大の火力発電事業者、JERA(ジェラ)
  • この発電所が建設されてしまえば… 
    → 2基で334万トンのCO2を毎年排出する。
      既存の6号機と合わせると541万トンものCO2を毎年排出
  • 今回の準備書全文が読めるのは…
    → 2024年10月18日(金)~12月2日(月)の期間中のみ

計画の詳細については、JERAのウェブサイトをご覧ください。

ガス火力の新設に中止を求めよう

この建設計画には、以下のような問題点があります。

問題だらけのこの計画に対して、全国からもどんどん中止を求めていきましょう!

  1. 科学的観点からみれば、化石燃料インフラの新規建設の余地は全くない。知多ガス火力は年間541万トンも排出することになる。
  2. CO2排出係数が高く、1.5℃目標と整合しない
  3. 国際合意に整合しない
  4. 天然ガスはライフサイクルで石炭火力よりも多く温室効果ガスを排出するという調査が出ている
  5. 気候変動への対策として水素混焼が計画されているが、水素には問題あり。しかも準備書内に重要な情報がない
  6. 財務上のリスクをJERA自身が指摘
  7. 準備書の閲覧方法や意見提出方法が配慮に欠けている
  8. アセス図書の公開をするべき

各問題点の詳細はこちら:【意見書】知多ガス火力7,8号機の建設計画 準備書への意見提出(2024年10月31日)。ぜひご参考になさってください。

意見提出は2024年12月2日(月)まで。意見は郵送のみ受け付けられています(メールやオンラインフォームで提出させてほしいですよね)。当日消印有効です。

意見書のひな形がJERAのウェブサイトにあるのですが、PDFしか掲載されておらず編集しにくいので、意見提出の際には、よければ以下Wordファイルをダウンロードの上、活用ください。

知多市でJERAが説明会を開催!どんな意見があげられた?

また、この計画については、10月31日に知多市で説明会が開かれました。

そこでは気候変動への悪影響を懸念する市民からの意見が多数寄せられました。

地元市民からの情報提供にもとづき、気候変動に関して行われた質疑応答について、以下に抜粋の上で記します。

当日の質疑応答の様子

JERAは2050年までにCO2排出をゼロとする目標を掲げているが、ガス火力の新設がこの目標と整合するのか疑問。パリ協定など国際合意にも反している。

現時点の日本のエネルギー政策とは整合している。日本のエネルギー政策の動向を見ながら対応する。

昨年の広島G7サミットでは、2035年までに電力部門を完全または大部分脱炭素化することが合意された。新設予定の7、8号機はこの目標に反するのではないか。IPCCの報告によれば、既存の化石燃料インフラだけで、地球温暖化を1.5℃以内に抑えるためのCO2予算をすでに超えており、2029年や2030年から稼働する新たな化石燃料インフラの余地はない。この点についてどのように考えるか?IPCCの報告書やG7の目標を参考にしているか?

国際会議の決定事項は国内の議論を経ることになっている。それを踏まえて日本の政策への整合を目指す。国際会議などの決定に沿っているわけではない。

国の政策に整合しているとのことだったが、国内政策が見直されたら計画中止となる可能性があるのか。

CO2をめぐる政策動向は当然見ているが、どのように事業に影響を与えるのか次第である。CO2は課題と認識しているので世の中に貢献できるよう検討する。

ガス火力発電所が排出するCO2は、ライフサイクルでは石炭火力発電所の1.3倍だと10月にガーディアン紙が報道した。最新の研究を踏まえこの計画は見直すべきではないか。

情報としては把握しているが、内容はこれから確認する。

海水温が高くなり、南知多のカタクチイワシが少なくなって鯛が取れなくなっているという話もある。CO2排出が増えると地球規模で海水温があがる。この影響をどう考えるか。

問題とは認識しているが、現在回答できない。

514万トンという大量のCO2が排出されるが、炭素回収の可能性はあるのか。

CCSは検討しているが、現時点では技術面、コスト面に課題があると認識。実現に向けて取り組む。

「いくら国内の政策に整合していても、火力が環境に影響しないことはない。ガス火力ありきではなく、環境に影響のない発電方法を選択するよう、企業のスタンスを変えるべきではないか」というコメントもありました。住民の環境への関心の高さが伺えます。

「国際会議などの決定に沿っているわけではない」というJERAの回答について、気候ネットワークスタッフからは「他の事業者はこんなことを表立って明言したりしない」とのコメントも。JERAの回答には、気候変動対策を軽視する姿勢が現れているように感じます。

日本のエネルギーに関する目標や政策は、火力への依存度が依然として高く、気候変動を助長するものになっています。日本の目標に従えば問題なしと捉えてしまうことは、グローバル企業として責任を果たしていないと言えるのではないでしょうか。

計画の説明会に参加した市民の感想は…

説明会に参加した地元住民から、感想をお聞きしてみました。

説明会では、国際動向や日本のNDC(国別貢献目標)、JERAゼロエミッション2050方針、炭素回収CCSについて質問しましたが、具体的な説明が不足していました。特にCO2排出量や環境影響評価手続きについて不信を感じました。JERAが説明した二酸化炭素の膨大な排出量や、増設計画が先送りされているにもかかわらず環境影響評価の手続きを進める理由が明確ではなく、説明に納得がいきませんでした。

意見書の提出方法についても物理的な提出のみという説明が不足しており、より透明性のある情報提供が必要だと感じました。JERAには、持続可能なエネルギーへの転換と透明性の高い説明が求められます

火力発電所の新設は、昨年の広島G7サミットで合意された「2035年までに電力部門を完全または大部分脱炭素化」に反しているのでは?と質問したところ、JERAからは「国際会議で合意されたことでも、国の政策に反映されるまでは考慮しなくて良い」との回答でしたが、その解釈はおかしいと思いました。

また、気候変動に関連した質問をしてものらりくらりとはぐらかされているのが歯痒かったです。(現在調べているところです、それは詳しく存じないです等)

質疑応答のセクションで、多くの参加者が新しいガス火力発電所を建設することが理にかなっていないと考えていることが明らかになりました。しかし、環境問題や政策に関する責任者として登壇したJERAの代表者たちは、国際的な科学者コミュニティが合意している事実を受け入れようとしないように見えました。

彼らは「私たちの計画は国の政策に整合性がある」と繰り返し主張するものの、その証拠は見当たりません。むしろ、全く逆のことをしているように感じますが、それを認めたくないのではないでしょうか。説明会の時に、意見書を早速関係者に提出しました。

株主総会の様なピリピリした雰囲気。ロビーには閲覧可能・撮影持ち出し不可として、環境省(環境影響評価課や他)に提出された資料や省との応答の写し(厚さ8cm位)が何セットも置かれていましたが、10分間の休憩時間で読める筈もなく手に取るだけで終了。

手渡された140頁程の資料もパワポによる登壇者の説明も、内容は全て『7・8号機の建設』有きとしたもの。建設が始まってから予測される住民・環境への影響と負荷、それに対してJERAはどう対処するか、という説明ばかりで、途中から聞いている事が馬鹿らしくなってきました。

説明後30分の質疑応答に於いても、事前のお願い事項として評価準備書に関するもの以外は受け付け不可と釘が刺されており、CO2排出についての質問にものらりくらり。資料36・37頁の『JERAゼロエミッション2050』や『JERA環境コミット2035』など、最も議論したい部分については、パワポ説明でも触れられませんでした。総じて、お為ごかしな会でした。

知多火力発電所は、1966年に1号機が稼働し、その後現在の6号機までほぼ重油とLNGで発電を行ってきました。知多火力発電所の6-8号機は、計217万キロワット、LNG専焼です。

ここで、LNGの二酸化炭素の排出は、石炭の半分くらいだと安心する人が多いのですが、最近(2024年10月)イギリスの高級日刊紙、「ガーデイアン」が、LNGの二酸化炭素排出量は、石炭の130%だという大学の研究機関の調査結果を報道し、話題になっています。この説明会で、私は「ガーデイアン」の報道はご存知ですか?どう考えていますか?と質問したところ、JERAの危機安全管理部長は「その報道は存じています。内容は確認中であります」と返答しました。これが本当であれば、知多のガス火力発電所から排出される二酸化炭素も、ライフサイクル全体では石炭火力発電所よりも多くなるかもしれません。確認すると言われましたが、この事業の責任の大きさを考えれば、実施自体を見直すべきではないでしょうか。

市民から多くの懸念が寄せられている、知多ガス火力の計画。JERAはグローバルカンパニーとして責任を果たし、気候変動を今深刻化させている火力ではなく、再生可能エネルギーをリードする企業に根本から転換してほしいと切に思います。

皆様からも、ぜひ一通でも意見を出していただければ幸いです。

参考

この記事を書いた人

Kobata