3月25日、株式会社JERAは新CM「灯そう。みんなで。」を公開しました。プロ野球セ・リーグのタイトルパートナーとして、年間来場者数約1400万人とともに持続可能な社会を目指す「灯せ、みんなで。」プロジェクトと連動した取り組みを加速させるとしています。

(※この動画は公開後わずか3日間で650万回を超える再生を記録しており、多くの方々が視聴したことが分かります。)

気候変動対策が急務となる現在、企業が環境への姿勢を打ち出すこと自体は珍しくありません。しかし、そのメッセージが真に実効性のあるものかどうかは、冷静に見極める必要があります。なぜなら、表面的には環境に配慮しているように見せかけながら、実態が伴わない「グリーンウォッシュ」が潜んでいる可能性があるからです。

気候グリーンウォッシュ対策 | 気候ネットワーク

気候ネットワークは、気候変動の分野でも深刻化するグリーンウォッシュの問題に取り組んでいます。本ページに、グリーンウォッシュに関連する気候ネットワークのプレスリ…

JERAは脱炭素への取り組みとして「JERAゼロエミッション2050」を掲げ、再生可能エネルギーの拡大とともに、発電時にCO2を排出しないとされる「ゼロエミッション火力」の開発に注力するとしています。果たしてこの戦略は、本当の意味で「クリーンな未来を灯す」ものなのでしょうか。

ここで改めてJERAという企業を知らない方は⋯東京電力福島第一原発事故を契機に、東京電力と中部電力の火力発電部門を統合して誕生した、国内最大の火力発電事業者です。

「ゼロエミッション火力」という言葉の危うさ

JERAが掲げる「ゼロエミッション火力」の柱は、既存の石炭火力発電所にアンモニアを混ぜて燃やす「アンモニア混焼」技術です。

JERAは「CO2が出ない火をつくる。」として、2022年からこの取り組みを大々的に広告で発信してきました。また、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受け、愛知県の碧南火力発電所においてアンモニア混焼の実証実験を進めています。一見すると実現間近な革新的技術に聞こえますが、気候変動対策としては深刻な問題を抱えています。

石炭火力の延命策に過ぎない「アンモニア混焼」

気候変動への影響として無視できないのが、石炭火力が発電量あたりのCO2排出量が最も多いという事実です。現在、国際社会ではパリ協定に基づき、気温上昇を1.5℃に抑えることに合意しています。この目標を実現するためには、先進国において「2030年までの石炭火力全廃」が必要とされています。

しかし、JERAが碧南火力発電所で計画している混焼率は、2030年時点でわずか20%に過ぎません。つまり、残りの80%は依然として石炭を燃やし続け、大量のCO2を排出し続けるということです。さらに、アンモニアを100%燃焼させる「専焼」の実現が見込まれるのは、ずっと先の話です。また、現状は化石燃料由来で生産されているものが殆どであり、アンモニア製造過程での排出量(上流工程の負荷)も考慮しなければなりません。

こうした現状から、先進国で廃止が進められつつある石炭火力を不当に「延命」させているのではないか、という厳しい視線が海外から注がれています。実際、G7の場においても、日本のこうした混焼技術への固執は十分な理解を得られていません。

国内最大の排出者としての責任と「スポーツウォッシング」

JERAは現在、日本国内で最も多くのCO2を排出している企業のひとつです。そんな巨大な排出主体が、プロ野球という国民的スポーツを利用し、華やかなCMで「クリーンな未来」を語る。これは、深刻な環境負荷から大衆の目を逸らさせる典型的な「スポーツウォッシング」の手法だと言わざるを得ません。

セ・リーグの球場を訪れる年間約1400万人のファンに対し、JERAは自社の排出実態をどれほど誠実に伝えているのでしょうか。「灯そう。みんなで。」というスローガンは、本来企業が主導すべき構造的なシステムチェンジの責任を、あたかも消費者の「意識」や「応援」というポジティブな感情に転嫁しているようにも映ります。

おわりに:耳当たりの良い言葉の裏側

JERAは以前の広告で「CO2が出ない火をつくる。」という耳当たりの良い言葉を並べていますが、それは多くの市民に「火力発電の問題(石炭)はもう解決済みだ」という誤解を与えかねません。

こうしたグリーンウォッシュの指摘に対して、「JERAは洋上風力発電などの再生可能エネルギー事業も展開している」との反論があるのも承知しています。しかし、その一部の再エネ実績を「錦の御旗」に掲げ、巨大な温室効果ガス排出源である石炭火力の維持を正当化することは許されません。

重要なのは「一部で良いことをしているか」ではなく、「事業全体として地球にどれだけの負荷をかけ続けているか」です。一部の再エネ投資が、化石燃料ビジネスを延命させるための「免罪符」や「目隠し」として使われているのであれば、それこそがグリーンウォッシュの本質です。

気候ネットワークは、日本環境法律家連盟と共に、JERAの広告が抱えるグリーンウォッシュの問題について、国内外で問題提起を行ってきました。

私たちは、今後も環境広告の裏側にある気候変動対策上の懸念点を訴え続けていきます。

【追記】本ブログ記事の公開後の動きについて

本記事の公開と前後して、JERAの公式YouTubeチャンネルにおいて、これまで配信されていた広告動画がいくつか「非公開」となる動きが見られました。

非公開となった動画: JERA「発電の常識を変えてみせる」篇 30秒
該当URL: https://www.youtube.com/watch?v=VN9tvqHHe3o

CM「灯そう。みんなで。」の再生回数は、現在、約5,000万回(2026/3/31 14:30)になっています。
これほど多くの人々に届くメッセージだからこそ、過去の発信との整合性や、掲げたビジョンの具体性について、より丁寧な説明が求められているのではないでしょうか。

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Yamamoto