今春、お花見しましたか?

アメリカの著名な科学ジャーナルScienceで紹介されていた日本の春の名物、桜への温暖化の影響に関する研究が興味深かったので、共有したいと思います。

2026年4月7日に公開されたAs Japan warms, cherry blossom displays are fadingと題したこの記事が取り上げたのは、日本の桜の開花への温暖化の影響に関する研究論文です。研究グループが、ソメイヨシノ(漢字では“染井吉野”)の生息南限である鹿児島県を対象とした開花データを分析した結果、冬の間の低温刺激が不足すると、春の開花日や満開日が遅れるとともに、花芽が生育不良などの異常が生じることが判明しました。さらに、この傾向は今後数十年で北上していく可能性があると指摘しています。

毎年、標準木の桜を数える気象庁の職員の姿が朝のニュースで話題になりますが、桜の開花こそ「日本の春」の印象です。東京のソメイヨシノの開花日は過去100年で約2週間早まっているのに、生息南限地である鹿児島では逆に開花日が遅くなっている?最初は英語を読み間違えたかと思ったのですが、International Journal of Biometeorologyに掲載された研究論文を見たところ、鹿児島地方気象台が収集したソメイヨシノの満開日の長期観測データなどを分析した結果、この地域では冬が温暖で低温刺激が不足するほど桜の開花が遅れ、開花ピークの開花割合が低いことが判明したと記されていました。この現象は今のところ限定的ではあるものの、今後何十年も温暖化が進むと、京都や東京、大阪の主要なお花見スポット、国内外の桜の名所にも影響が及ぶ可能性があると指摘しています。

実は貴重な桜の開花データ

このScienceの記事で、アメリカの大学の植物学者が「(日本の気象庁が1953年以降記録してきた桜の開花記録は)気候変動に対する植物の開花状況に関するデータとしては、最も良質かつ最も長期にわたる」とコメントしています。気候変動が植物に与える影響を研究している科学者にとって開花の時期は重要な基準のひとつですが、春の風物詩でもある「桜の開花宣言」や「桜前線」も貴重な開花データだと思うと、見方が変わってきそうです。

これまでにも桜の満開日が変化していることを示す研究が発表されていました。例えば、大阪公立大学の青野靖之准教授は、約1200年以上前までさかのぼって日記や年代記の中から京都の桜の満開日に関する記述を探して集めており、これほど長期におよぶ植物のデータは他に存在しないと見られています。青野准教授が2022年5月に学術ジャーナルEnvironmental Research Lettersに発表した論文 は、京都の桜が満開になる時期が1850年と比較して2週間近く早くなっていることを示しており、温室効果ガスの排出量を中程度に抑えたとしても、京都の桜の満開は2100年までにもう1週間ほど早くなるだろうと予測しています。

温暖化の桜への影響

どちらの研究でも桜の開花が温暖化の影響を受けていることは明らかです。これまでの研究では、春の気温上昇が桜の開花を早めていることが示されてきましたが、今回公表された研究は、冬の低温が不十分であることが桜の開花能力を損なっているとの新たな知見を提供しています。実際、冬が暖かかったために鹿児島県内の桜の中には開花が例年より32日遅れたものもあったとのことです。開花が遅れるだけでなく、花芽が生育不良で満開にならない桜が増えれば、お花見の観賞価値は下がってしまいます。

研究者らは、冬の気温が2℃上昇するだけで桜が「春が来た」と感知するシグナルが乱れるのに十分であり、今後、この傾向はより北の地域でも出始めるだろうと推測しています。これは日本だけでなく、ワシントンD.C.など他国のソメイヨシノにも当てはまることでしょう。

桜の受難

桜の健康状態を損なうのは温度変化だけではありません。桜を食い荒らす厄介者クビアカツヤカミキリは外来種ですが、桜の幹に卵を産み付け、孵化した幼虫が桜の内部を食い荒らすことで木を枯らしてしまいます。最近話題になった桜の倒木の中にはクビアカツヤカマキリの被害で倒れた木もあるでしょう。専門家は温暖化で虫の増殖ペースが速まる可能性を指摘し、被害エリアが拡大することを懸念しています。他にも桜の木を蝕む伝染病もあります。特に戦後大量に植樹されたソメイヨシノは同じ遺伝子を持つので伝染病に弱いのです。さらに、ソメイヨシノは高温と乾燥に弱いので、近年の夏の暑さで衰弱する木も増えていると言われています。

満開の桜がもたらす経済効果

春になると日本の桜を目当てに世界中から観光客が来日します。桜は国籍を問わず多くの人を楽しませてくれるのと同時に、(風情のない言い方になってしまいますが)貴重な観光収入源でもあります。Scienceが引用しているBloombergニュースよると今年のお花見シーズンの経済効果は過去最高の94億ドル(約1兆4,975億円。関西大学の宮本勝浩名誉教授による計算結果でも約1兆4,904億5,154万円となっています)。とんでもない額です!温暖化の影響で桜が咲かない、見ごろを迎えることなく花が落ちてしまうとなったら、春の一大観光収入が揺らぐことになりかねません。経済的な損失です。

お花見は日本の春の一大イベントです!

日本人の心の花と言っても過言ではない桜。

桜に代表される四季折々の「日本の美」、国にとっての「観光収入源」を守るため、日本政府には一刻も早く効果的な気候変動対策を進めて欲しいものです。


この記事を書いた人

Suzuki