現在、日本には多くの石炭火力発電所があり、増え続けています。稼働中のものは159基、計画中・建設中のものは16基あります(Japan Beyond Coal参照 2021/01/17時点)。

石炭火力発電所の新設計画に対して、地域住民から反対の声があがっています。これまでに、釧路、仙台、千葉(市原、蘇我、袖ヶ浦)、横須賀、神戸で、石炭計画に反対する住民団体が立ち上げられています(気候ネットワークも各地の脱石炭の活動に協力しています)。なかでも、仙台、横須賀、神戸では、企業に建設・稼働差止めを求める裁判(民事訴訟)や、建設を認めた国に認可の取消を求める裁判(行政訴訟)が提起され、司法の場で争っています。

神戸製鋼が神戸市灘区で建設中の石炭火力発電所をめぐる行政訴訟は、いよいよ2021年1月20日に結審を迎えます。2018年11月に提訴されたこの裁判は、2年以上に及んでいます。原告・弁護団は、環境アセスメントにおいて大気汚染および気候変動による生命・健康への影響の調査、予測、評価が適正になされていないにもかかわらず、これに変更を命ぜず、工事を認めた国の判断が誤りであると主張し、建設許可を取り消すよう求めてきました。

この記事では、神戸製鋼の石炭計画の概要、裁判で問われている国の責任、求められる環境配慮や裁判で明らかになった重大事実などについてまとめました。

神戸製鋼の石炭計画:その概要と環境への悪影響

神戸製鋼所は、素材系だけでなく、電力事業も中期経営計画の中心に据えています。神戸市灘区で2002年より稼働中の140万kW(70万kW×2基)の石炭火力発電所に加え、高炉休止跡地に130万kW(65万kW×2基)の石炭火力発電所を建設する計画を2014年に公表しました。

2014年12月から環境影響評価法に基づく手続き(環境アセスメント)が始まり、2018年5月22日に経済産業大臣からその確定通知が出されました。これを受けて、2018年10月、神戸製鋼は新たな石炭火力発電所の建設工事開始を発表しました。

完成間近の3-4号機(原告提供)

今年(2021年)には3号機、翌年(2022年)には、4号機が稼働開始の予定です(発電された電気は、全て関西電力に売られます)。その排出量は、既設の石炭火力発電所1-2号機(SC:超臨界圧)から年間679万t-CO2、今後稼働予定の3-4号機(USC:超々臨界圧)から年間692万t-CO2にも及びます。つまり、神戸市にある神戸製鋼の石炭火力発電所だけで合計1,371万t-CO2が毎年排出され続けることになります。

神戸市全域でのCO2間接排出量は年間809万t-CO2であり、これを上回る排出量を1社で排出するものです。仮に天然ガス火力であればCO2排出量は約半分になり、再生可能エネルギーであればゼロになります。「排出ゼロ」がめざされてる中、石炭火力発電所を拡大させることは脱炭素の時代に逆行してると言わざるを得ません。

さらに、神戸の石炭計画の周辺地域は大気汚染の公害指定地域です。行政がディーゼル車の流入規制なども行っている、環境改善の途上にある地域です。PM2.5の環境基準の達成状況も、複数年度で見ると必ずしも良くありません。NOx(窒素酸化物)の大気汚染濃度も環境基準の下限値を超過する地域も存在しています。ここに大規模な石炭火力発電所を増やせば、大気汚染がひどくなることは明らかです。

気候変動対策、大気汚染対策を適正に考慮しないまま出された経済産業大臣の確定通知は違法であると、原告・弁護団は訴えてきました。

神戸石炭火力の建設を認めた国の責任を問う

現在、日本では、石炭火力発電所を建設する際に、国の設置許可申請手続きが必要とされていません。環境影響評価法とその特則を定めた電気事業法に基づき、事前に事業者が環境影響を調査・予測・評価し、最終段階の「評価書」に対して経済産業大臣が「確定通知」を出しさえすれば、建設工事に入ることができてしまいます。

しかし、国は、東京電力福島第一原発事故後、天然ガスと比べて2倍のCO2排出がある石炭火力発電所の建設を推進することとし、環境アセスメントの手続きを省略することを容認し、神戸のみならず、多数の大型石炭火力発電所の建設計画を推進してきました。

気候変動の危機感が高まるなか、発効したパリ協定との整合を図ることなく建設を推進し続けた国(経産省)の判断は、「適正に環境に配慮した」とは到底いえません。また、大気汚染の面でも、世界で最大の課題であるPM2.5について、影響の調査・予測・評価の項目にもあげられていません。

適正な環境配慮が行われたか?

環境影響評価手続きでは、環境大臣のほか、該当地域の知事、市長のほか、住民が環境保全の見地から意見を提出することができます。

気候ネットワークも参加する「神戸の石炭火力発電を考える会」では、環境影響評価準備書手続きにおいて、1300頁にも及ぶ環境アセス文書を読み解き、大気汚染、地球温暖化の問題を中心に、問題提起をしてきました。提出された住民意見は、1,173件に及びました。これは、石炭火力発電所の環境アセスメント手続きで出された意見としては過去最多です。

また、兵庫県神戸市が行った住民意見を聴取する公聴会においても、公述人となった住民は反対を表明してきました。それにもかかわらず、住民意見は各意見者の意見書に反映されることなく、建設は認められてしまいました。

裁判では、なぜ、環境影響評価手続きにおいて、適正な環境配慮が行われていると判断するに至ったのかについて知るため、情報公開手続き等を利用し、証拠収集等も行ってきました。

環境大臣意見形成への経産省の介入

情報開示請求によって、一つ、衝撃の事実が明らかになりました。開示された文書(行政訴訟 準備書面(14))からは、環境省が環境大臣意見の文案を事前に経産省に確認し、経産省からの書き換え・修正の要請に幾度も応じていた実態が明らかとなりました。

環境大臣意見は、事実上、経産省の受入れ可能な文言に変容されてきたことになります。環境への悪影響を厳しくチェックする立場であるはずの環境大臣の意見を、チェックされる側の経済産業省が捻じ曲げる…。このような取り扱いは、環境大臣意見を提出する手続きを形骸化させ、環境影響評価の趣旨にも反する重大な違法行為です。環境保全の見地から適正に環境大臣意見が提出されたとは言えません。

行政訴訟準備書面14 一次案と最終意見の比較(一部)

また、経産省からの書き換え要請により削除された箇所は、住民意見において指摘されていた点と重なるものもあり、環境省は環境大臣意見において住民意見に一定程度応えようとしていた様子も窺えます。

しかし、経産省の介入により次々と削除や、実効性のない文言へと書き換えられ、環境大臣意見は弱められていきました。なお、地元紙である神戸新聞は、2020年9月24日朝刊において、一面トップでこの出来事を報じました(記事)。

司法の役割への期待

現在、国では老朽化や効率の低い石炭火力発電所の休廃止についての議論が進められているところですが、事業者からの反発もあり、「休廃止」の中身もどんどん後退しています。しかも、「高効率」とされる超々臨界圧の石炭火力発電所はその議論の対象外で、この間も、次々と大型の石炭火力発電所が運転開始に入っています。

菅首相は、昨年10月に2050年実質排出ゼロ目標を宣言しました。国際社会と協調して、気温上昇を1.5℃に抑制し、気候の危機を回避することを目指すのであれば、石炭火力発電の新増設はやめ、2030年までにすべての石炭火力発電所を廃止することが求められています。科学者も、グテーレス国連事務総長も、石炭火力からの撤退を求めています。

acworksさん写真ACからの写真

気候変動は、科学や政治・政策の問題です。加えて、人の生命・健康、生活基盤を脅かす、人権侵害の問題ととらえられています。危険な気候変動の影響が顕在化している今日、被害を回避するための司法の役割が問われています。裁判所は、国が十分に環境配慮せず、石炭火力発電所の建設を認め続けた行為について、司法の立場から適切な判断を下し、原告、住民の声に応えて欲しいと思います。

オンライン報告会のご案内

現在、コロナ禍にあり、裁判の傍聴が難しい状況にあります。1月20日は、zoomウェビナーにて、裁判期日終了後15時45分頃より、期日報告会を開催する予定です。ぜひ、ご参加ください。

https://us02web.zoom.us/webinar/register/7216104561569/WN_eBxFz6hFTQqHIvWznMMx1Q

この記事を書いた人

Yamamoto