7月18日に、関東甲信・東海地方の梅雨明けが発表されてから、毎日のように救急車のサイレンを聞きます。夏の夕立どころか豪雨が降っても気温が下がらず、8月に入って早々の1日、気象庁は7月の平均気温が平年を2.16℃上回り、昨年7月の記録(平年差+1.91℃)を超えて統計を開始した1898年以降、最も高くなったと発表しました。8月前半は広い範囲で猛暑日が多くなると見込まれていますが、ここまで暑くなるとさすがにウンザリします。
昨年11月に世界的医学誌 Lancetが発表した 『The 2023 report of the Lancet Countdown on Health and Climate Change (ランセット・カウントダウン 健康と気候変動に関する報告書 2023年版)』には、猛暑が乳幼児や高齢者などにより大きな影響を及ぼすことが記されています。
医学研究者も気候変動による猛暑の危険性を指摘
Lancet Countdownによると、2013-2022年の間に、乳幼児と65歳以上の高齢者が熱波を経験した日数は、1986-2005年に比べて年間平均で108%増加。2018-2022年にかけて、健康を脅かす高温となったのは年間平均で86日間で、人為的要因の気候変動がこうした猛暑の発生頻度を高めていると記されています。猛暑は年齢に関わりなく誰にとってもツライものですが、乳幼児や高齢者のように体温の調整能力が低いと、極端な暑熱でオーバーヒートを起こしやすくなります。報道などでは、高齢者がクーラーをつけていなかったとか、温度設定を間違えていたなどと言われたりもしますが、そもそも温度変化に身体が対応しきれないのです。2013-2022年の熱波に関連する 65 歳以上の高齢者の死亡者数は、1991-2000年と比較すると 85%増となり、気温上昇の影響がなかった場合の予想値である 38%増を大幅に上回っていたことが明らかにされています。
恐ろしいことにLancetによる将来予測では、世界の平均気温のが2℃近く上昇するシナリオでは、65歳以上の高齢者の熱波に関連する年間死亡数は今世紀半ば(2041-2060年)までに1995-2014年に比べて世界で370%増加すると予測されています。気候変動に対する緩和策が実質的に進まなかった場合には、この割合が433%増加。さらに将来の2081-2100年には、2℃シナリオで683%、緩和策なしでは1537%増加すると推測されています。2041年の自分の年齢を計算してみてください。冷や汗が出てきて涼しく感じるかもしれません。
熱中症による搬送者数と死亡者数は増加傾向
Lnacetでは「熱波に関連する死亡(heat-related mortality/death)」と広義にとらえていますが、やはり最も身近なのは熱中症です。総務省消防庁が7月30日に発表した7月22日-28日の1週間に全国で熱中症で救急搬送された人の数は12,666人で、この夏初めて1万人を超えました。年齢区分では高齢者が過半数を占めているのと、発生場所を見ると最も多いのが「住居」であることには、頭に入れておかねばと思うことです。そして、日本でも熱中症による死亡者数は増加傾向にあり、2022年に熱中症で亡くなったのは1477人で、このうち8割を超える1274人が高齢者でした。
熱中症による死亡者数は自然災害による死亡者の7倍⁈
ここで「猛暑」以外の自然災害の死亡者数を見てみます。近年は毎年のように洪水・豪雨や台風などの自然災害が発生していますが、よほど大きな災害が起きなければ、自然災害による年間死亡者数は、全年齢の合計で200人以下です(内閣府の防災白書による人数)。となると、防災上で言うところの「自然災害」の7倍もの人が熱中症で死亡していることになります。猛暑は、まさに災害といえるでしょう。東京23区内で今年7月に確認された熱中症死者数は123人(8月4日時点の速報値)に上り、7月としては2018年以来、6年ぶりに100人を超えたそうです。
気候変動適応情報プラットフォームによれば、熱ストレス超過死亡者数および熱中症搬送者数は、どのシナリオでも将来増加すると予測されています。先のLancetの予測も踏まえると、今後ますます高齢者には厳しい夏になっていくと思われます。
Lancet Countdownは、医学系ジャーナルですが、健康被害をもたらす気候変動の原因として、エネルギー起源のCO2排出の増加を挙げています。そのうえで、2023年はじめに提示された世界の石油・ガス大手20社の戦略によると、2040年までのCO2排出量がパリ協定の目標値を173%上回ることになることに対して警告を発しています。
熱中症リスクの増加は、すでに現実です。気候変動は若者の未来に影を落とすものであると同時に、人(特に高齢者)の生命を脅かすものでもあるのです。
体力のある高齢者を目指して頑張らなければならない世の中とは、やれやれです。
Lancet Countdownとは
国際的な医学誌ランセットが主宰する、世界35の大学、主要学術センターおよび世界保健機関(WHO)、世界気象機関(WMO)、欧州疾病予防管理センター(ECDC)をはじめとする国際機関に所属する120名以上の科学者・医療従事者らが集まり、気候変動が健康に及ぼす影響、および気候変動対策が健康にもたらす新たな機会を独自に監視する国際研究事業。2023 年版レポートは、世界 52 の研究機関・国連機関に所属する 114 名の科学者・医療従事者の専門知識を結集し、包括的な評価をまとめたもの。
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