こんにちは。東京事務所の桃井です。
うちの事務所も新型コロナウィルス対策で全員自宅勤務を続け早1か月になりました。早くこの事態を終息させるためにも、今はがまんして家にとどまることが大事そうです。

忘れられた!?パリ協定スタート

さて、このコロナの猛威で、ニュースも話題もほぼそれ一色。パリ協定のことなどまるで世の中から忘れ去られてしまったかのようです。それでなくても何かと日本では忘れられがちな気候変動問題。2020年4月新年度を迎えて、日本でもパリ協定が実質的にスタートしているはずですなのです。

ところが、パリ協定に逆行して着々と進められているのが各地の石炭火力発電所の建設です。地元の人たちが反対の声をあげてきたにも関わらず、今月から試運転が開始されるのが北海道釧路市で建設が進められてきた11.2万kWの石炭火力発電所です。本当は先月28日に釧路でこの問題を扱ったシンポジウムを予定していましたが、コロナでやむなく延期となってしまいました。そこで、このブログで問題をあらためて紹介しておこうと思います。

CO2排出はこれ一基で釧路市全体の25%に相当

CO2排出量は、釧路火力発電所建設事業環境影響評価書によると、年間51.2 万t-CO2 もあります。釧路市全体の温室効果ガス排出量が200万トン強であることから、約4分の1に相当する量です。しかも、環境影響評価書で公表されている数字は、あくまでもバイオマス混焼30%を前提に、CO2排出係数を590g-CO2 / kWhと設定しているので、バイオマス分を差し引いて算定されたもので、通常の石炭火力よりもかなり抑えめに計算されているので、実際の排出量はこれよりももっと増えるでしょう。

釧路市の温室効果ガス排出量の部門別排出推移

釧路市の温室効果ガス排出量の部門別排出推移

出典)釧路市地球温暖化対策地域推進計画より

釧路市との公害防止協定の緩い規制値

もう一つ重大な問題があります。釧路市と釧路火力発電所の公害防止協定が進められ、3月末の市議会でその内容が伝えられています。その内容はあまりに緩い基準でした。しかも市議会では、単なる協定書の「報告」にとどまり、修正は行われませんでした。

その水準をわかりやすくするため、同規模の石炭火力発電所・仙台パワーステーションの協定と比べた表を作成してみました。硫黄酸化物(SOx)は4.5倍、ばいじんは2倍、窒素酸化物(NOx)は2.5倍、騒音もいずれの時間帯も高いことがわかります。

<参考>
仙台パワーステーション株式会社 仙台パワーステーションの公害防止に関する協定書
釧路市と釧路火力発電所の公害防止に関する協定書

ちなみに、この石炭火力発電所の周辺でも小中学校や病院などがたくさんあります。周辺に与える影響が心配です。

 

 

“地産地消”で炭鉱も復活!?

釧路は、日本で唯一炭鉱が残っており、一度は閉山されたその炭鉱をあらたに国の補助金などを使って復活させようという計画が進んでいます。石炭火力発電所の建設計画はその炭鉱復活とともに進められていました。炭鉱の町ではこれを歓迎するムードが高く、地元に建設して“地産地消”の発電所として運用しようという機運もあったようです。しかし、釧路市や北海道の肝いりで進められる炭鉱事業は、巨額の予算が投じられ、強引に進められてきた印象はぬぐえませんし、それも座礁資産になる可能性すらあります。その詳細については、石炭.jpのサイトで紹介していますので、併せてお読みください。→こちらから

”現在世代の責任”とは?

釧路市は、国立公園に指定されている釧路湿原や阿寒湖をはじめとした多彩でかけがえのない自然に恵まれており、この豊かな環境を保全し、未来を担う子供たちへ残していくために、地球温暖化にいち早く対応する現在世代の責任として、今できることから取り組むことが大切であると考えております。

これは2011年に策定された「釧路市地球温暖化対策地域推進計画」に書かれている蛯名大也市長(現市長)の言葉です。この言葉に照らして、釧路の”炭鉱復興”や石炭火力発電所が本当に未来の子どもたちに残すべきものなのか、今一度考えなおしてもらいたいものです。