~破滅的な結果を待つ猶予はありません。私たちは今すぐ、人為的な気候変動に対処する必要があります。~
今年、フィンランドの作家イーダ・トゥルペイネンによる『極北の海獣』を読み、強い感銘を受けました。この物語は、科学的な発見から一般の人々がその事実を受け入れるまでに生じるタイムラグや、生き物同士の力関係を見事に描き出しており、非常に力強いメッセージを持っています。過去3世紀を舞台にした物語ではありますが、人類が環境に与えた損害への責任を受け入れるというテーマは、企業の破壊的な行動や政府の怠慢によって気候危機が急激に悪化している今日においても、極めて重要です。
| 小説の概要 | 日本語版の表紙 |
| 「極北の海獣」(原題:Elolliset) 2023年出版 著:イーダ・トゥルペイネン フィンランド語、約30言語に翻訳 日本語訳:古市 真由美 |
発見からわずか27年で絶滅に追い込まれた海生哺乳類
この小説は、1741年に博物学者であり神学者のゲオルク・ヴィルヘルム・シュテラー(ステラー)によって、ベーリング海のコマンドル諸島周辺で初めて記録された大型海生哺乳類、ステラーカイギュウの物語を中心に展開します。ステラーカイギュウは更新世(約258万年〜1万年前)から数万年にわたって生息していたと考えられていますが、シュテラーに記録されてからわずか27年後(1768年)には乱獲により絶滅してしまいました。
ステラーカイギュウの絶滅後、物語は1800年代から1900年代にかけて、ロシア領アラスカからヘルシンキのフィンランド自然史博物館へと渡った骨格標本の修復作業を描きます。ステラーカイギュウやその物語と独自のつながりを持つ複数の登場人物を紹介することで、人間が自然界の生命とどのように関係を築いていくのかを痛ましく描き出しています。

出典:Helsinki Times (Outi Pyharanta)
人為的な気候変動が引き起こす種の絶滅
人間の活動によって多くの種が絶滅の危機に瀕していることは広く知られていますが、それでもなお、科学的に記録されてからわずか数十年で人間が一つの種を完全に滅ぼしてしまったという事実は衝撃的です。小説では、ステラーカイギュウが一頭もいなくなるまで乗組員たちに資源として搾取し尽くされ、絶滅に追いやられた経緯が描かれています。
シュテラーたちがステラーカイギュウを搾取してよい資源と見なしていたように、現代の企業もまた、破壊的なレンズを通して自然界を見続けています。環境破壊を避けるための科学的な知識を持っているにもかかわらず、同じような行動が繰り返されているのです。
人為的な気候変動もまた絶滅を加速させています。気温や海面の上昇、そして激甚化する気象パターンが、野生生物が適応できるスピードをはるかに超えて自然の生息環境を変化させているからです。
自身の生存を直接脅かしているにもかかわらず、気候変動を悪化させる人間の行動は今も続いています。地球温暖化が急速に進む中、異常気象により多くの地域で生活環境が危険で耐え難いものになっています。
私たちはすでにその現実を目の当たりにしています。今年も、世界各地で発生した猛暑、干ばつ、山火事、洪水などが絶えずニュースになり、その度に地域社会の基盤に深刻な影響を与えています。こうした被害は、世界の温室効果ガス排出にほとんど関与していない脆弱な立場にある人々に、不当に重くのしかかっています。
責任が最も軽い人々が最も苦しむという「気候不正義」が世界中で起きています。私たちの地域社会のために、そして気候変動の被害を最も受けやすい人々のために、政治的な意思決定者に対して気候正義と十分な気候変動対策を求め、声を上げ続ける必要があります。

出典:Inside Climate News (Dong Jianghui/Xinhua)
科学的証拠と広範な認識があってもなお、気候変動の大きな要因であり続ける化石燃料
人々の健康や生活環境へのリスクが科学的に証明され、広く知られているにもかかわらず、化石燃料産業の企業は利益を優先し、地域社会に直接的な害を与え続けています。さらに、多くの政府は気候変動を緩和するための目標達成に遅れをとっています。具体的な公約を掲げない国もあれば、日本も含めて大規模で長期的な化石燃料プロジェクトへの資金提供を続けている国もあります。
『極北の海獣』のような文学作品に記録された過ちを繰り返さしてはなりません。科学的に指摘されている過ちを犯し続けてもなりません。各国政府は気候変動の最大の要因である化石燃料産業に向き合う必要があります。国連によると、化石燃料からの排出が世界の温室効果ガス排出量の約68%、CO2排出量のほぼ90%を占めています。これらの排出は、主に電力や熱を生み出すための石炭、石油、ガスの燃焼に起因しています。
一方で、消費者が求める電力や熱は、温室効果ガスを大量に排出しない再生可能エネルギーで賄うことが可能です。そうすれば、気候変動への影響や、絶滅の危機に瀕している種への負荷を減らすことができます。環境を保護しようとするならば、各国は一刻も早く化石燃料から脱却し、社会にクリーンなエネルギーを提供できる再生可能エネルギーの導入に注力しなければなりません。気候変動対策の遅れは、さまざまな自然システムがティッピング・ポイントを超える事態を招き、地球規模の不安定化を引き起こすとともに、将来世代に深刻な負担を強いています。乱獲や化石燃料の燃焼など、人間に短期的な利益をもたらす行為は、私たちの地域社会に取り返しのつかない結果をもたらします。こうした破壊的な活動を継続する選択は、政府や企業が、気候変動によって悪化する自然災害や異常事態にすでに直面している地域社会の声に耳を傾けず、目先の利益を優先している姿勢の表れです。
しかし、現代の政府や企業はすでに気候変動とその原因に関するすべての情報を手にしており、手遅れになる前に行動を起こす選択肢を持っているということです。私たちは、政府や企業に対し、実効性のある気候変動対策を求めて声を上げ続ける必要があります。知識を得てから行動に移すまでのこのような遅れは決して許されるものではなく、すでに不可逆的な結果をもたらし、年々事態を悪化させています。
人為的な気候変動による破壊と喪失を理解するためのツールとしての文学
このように根深く構造的な気候不正義に向き合うとき、膨大な統計データに圧倒されてしまうことは少なくありません。だからこそ、文学は気候変動アクションのための不可欠なツールになり得るのです。
フィンランド文学振興協会(FILI)のインタビューで、トゥルペイネンは、文学は私たちがさまざまな問題に立ち向かい、それに伴う感情をより深く理解する助けになると指摘しています。彼女は例として、生物多様性の喪失に関する統計データを見ただけでは悲しみを感じにくいという点を挙げ、文学は細部を通して大きな問いを投げかけることで、気候変動や生物多様性の喪失などが引き起こす感情に向き合うための優れた手段になり得ると述べています。私もトゥルペイネンに同感です。『極北の海獣』のような小説は、「人間の強欲さは避けられないものだ」という冷笑的な考えに抗い、人類がどのように自然との関係を築いてきたのか、その背景を理解する手助けになると考えています。

出典:Helsinki Literary Agency
『極北の海獣』を読むことは、私たちの周囲で起きている喪失や破壊をめぐる悲しみを整理するための一つの方法になるかもしれません。これらの感情を行動に移すためには、自ら声を上げ、化石燃料の継続的な使用を推進する政府に対して、それが容認できないことであり、取り返しのつかない結果をもたらすということを伝える必要があります。
地域レベルで今すぐできるアクションの一つとして、まもなく開催される「Climate Action Week」への参加があります。東京で開催される今後のイベントについては、こちらをご確認ください。

是非ご参加ください。
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