東京事務所の鈴木です。
熱中症注意情報が出てくる季節になりましたが、最近、海水浴に行かれた方はいますか?
6月16日に世界気象機関(WMO)が、5月の海面水温は2か月連続で記録を更新し、過去最高だったと発表しました。9日には、気象庁がこの夏にエルニーニョが発生したとみられると報じているので、今年の夏がどうなるかと思っている方もいるでしょう。気象庁・異常気象情報センターが「残念ながら、この夏も例年より高温で猛暑日が増える可能性がある」とコメントして早々、6月17-18日には各地で真夏日が観測されました。
今回は、気温の上昇にも深く関係している海水温の上昇とエルニーニョについてまとめてみました。
海面水温が下がらない
海面の平均水温は、2023年3月以降、過去最高を記録したまま下がらない状態が続いています。最近では台風予報の際に、いかに海面温度が高いかを示す図が出てくるので、日本近海から台風が発生する海域の水温分布がやけに赤くなっているのを見たことがあると思いますが、世界各地の海でかつてない程、海水温の上昇が記録されています。WMOは全世界の海面水温が昨年の同時期と比べて平均0.2℃上昇していると指摘。0.2℃だけでそんなに騒ぐの?と思うかもしれませんが、地球の海の表面積を考えると、海に吸収された熱エネルギーは膨大な量になります。
例年、南半球が冬に向かって海が冷えてくる3月を境に地球全体の海面の平均海面温度は下がり始めるのですが、今年は下がりませんでした。ここ数年、真夏になる前から台風が発生するようになっているのは、海水温が下がるべき時に下がらないことも一因です。気象衛星や洋上ブイをはじめ、さまざまな海洋観測機器によって集められているデータにより、世界的な海水温の異常がリアルタイムにつかめるようになっていることで、こうした海水温の異常が世界中の海に広がっていることが明らかにされています。
海面水温の上昇傾向はずっと続いている
高温が広域に広がっているとして、この現象はここ数年だけのことなのか、気になります。
米国のモントレー湾水族館研究所(MBARI)が分析した海面水温の長期的な経年変化を見ると、1980年以降、長期的に上昇傾向にあることが明らかになっています。
地球の平均気温の上昇より小刻みな変動があるものの、上昇傾向にあることは明らかです。
熱エネルギーの蓄積が増えれば海水温は上昇する
海は、地球全体に蓄積した熱エネルギーの約90%を吸収しています。海水温の上昇(上図)と対応するように1990年代半ば以降の海洋貯熱量(海洋に蓄積される熱エネルギー)が増加していることが示されています(下図)。温暖化によって増え続けている熱エネルギーは、どこかに消滅しているわけではなく、海に吸収され、海水温の上昇を招いているのです。
海水温上昇による影響
海水温の上昇による影響は、過去ブログで取り上げたサンゴの白化だけではありません。極域では氷棚の崩壊が急速に進み、赤道海域に点在する島々では海面上昇で国土の喪失に直面しています。海水温が高くなることがなぜ海面上昇につながるのかと言えば、海氷が溶けることで水の体積が増えるだけでなく、温度が上がることで水の体積が膨張し、海面水位が高くなるからです。世界の7割の面積を占める海洋の温度変化は海面上昇による海岸の浸食や高潮の頻発化など広範囲かつ深刻な影響を及ぼしています。
魚のように移動できる種は、温度上昇に耐えられなくなれば水温の低い海域に移動するので、漁獲量や捕れる魚種は変わってきます。沿岸海域の魚の分布が変われば、海からの水産資源に大きく依存する私たちの胃袋と財布にも影響することになりますが、それ以上に、その海域の生態系全体を変えてしまう可能性が懸念されています。長期的な海水温の上昇によるサンゴの白化は「目に見える」変化です。一方、温度変化により栄養が十分に得られず生物の生産性が低下するといった「目に見えにくい」変化も海の生態系にとってはより大きな変化の引き金になるのです。
例えば、海水温の分布が変わり、海の微生物にとっての栄養供給として重要な役割を担っている湧昇流(深海の栄養に富んだ冷たい海水が上がってくる流れ)が止まってしまうと、微生物(海洋プランクトンなど)の栄養が絶たれることになり、当然、微生物をエサとする生物(魚など)も生息できなくなります。海水温の変化は海の食物連鎖鎖という循環にも影響するのです。
2023年、エルニーニョ現象の影響は
今年は、ラニーニャ現象から一転し、4年ぶりのエルニーニョ現象が発生しましたが、エルニーニョ監視海域に膨大な熱量が蓄えられていることから、秋にかけてもエルニーニョ現象が続く可能性が高い(90%)とみられています。ちなみに、このエルニーニョ現象の解析ですが、気象庁は16日に、過去データを解析し直し、エルニーニョ現象の発生時期について1979年秋~79・80年冬と、1993年春~秋の期間を追加したと発表しました。衛星観測データや高精度解析を行うことで、エルニーニョ現象の発生時期を見直すなど、海面水温と地球規模の現象への影響については日々研究・分析が行われています。
エルニーニョ現象は海水温の変化ですが、雨や雪の降り方、風の吹き方、気温や気圧配置といった大気の状態に多大な影響を及ぼします。一般的にエルニーニョ現象が発生したとき、日本では冷夏や暖冬になりやすいと言われていますが、今年はラニーニャ現象の影響が残るとみられているため、予想がつきにくいようです。とはいえ、過去の観測などからエルニーニョ現象発生時は熱帯低気圧積算エネルギー(ACE)が大きくなる傾向があることは分かっているので、台風の数は少なくなる一方で、中心気圧が低くなり、台風の規模自体が大きく強く、しかも寿命が長くなる(なかなか衰えない)恐れがあり、注意が必要です。
海水温の上昇傾向が続き、温度の高い時間が長期化しているという事実は、サンゴを含むすべての海洋生物種の存続を脅かすだけでなく、人間の生活にも大きな影響を与えるのです。
強烈な台風に備えて、今のうちから防災用品と食料の備蓄を確認しておくのが賢明かもしれません。
おまけの余談
研究者が「エルニーニョ/ラニーニャもどき」と呼ぶエルニーニョ/ラニーニャ現象に似て非なる現象があるのですが、今回いろいろなレポートを見ている中で、エルニーニョ南方振動(ENSO)などと並んで「El Niño Modoki」と英語でもそのまま「モドキ」と書かれているのを見つけてちょっと楽しくなりました。
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