2026年5月20日(ニューヨーク現地時間)、国連総会は国際司法裁判所(ICJ)による気候変動に関する国家の義務についての勧告的意見を支持する決議を、賛成多数で可決しました。この決議の採択に至るまで、太平洋の若者を始めとした市民社会の活動と、そこに耳を傾けてきたバヌアツ政府の奮闘がありました。このブログでは、気候ネットワークインターン生の今中咲幸が、決議に至るまでの背景、そしてこの決議によって何が変わり得るのかについて考察します。
1. 国際司法裁判所の勧告的意見とは?
国際司法裁判所(International Court Justice)は国連主要機関6つのうちの1つの国際法廷として、国連の主要機関や各種機関から諮問された法的問題について勧告的意見(Advisory Opinion)を出すことがあります。それ自体に法的拘束力はないですが、今後のICJの判決に援用されたりと国際的にその問題に対して大きな進展をもたらすきっかけにこれまでもなってきました。
2. 勧告的意見の発表に至るまでの経緯
この動きのきっかけになったのは、太平洋諸島8カ国出身の南太平洋大学法学部生27人からなる若者団体によるキャンペーンでした。太平洋諸島フォーラム等と協働しながら国際法を発展させ、環境条約と基本的人権に関する法的義務を統合し、気候変動による被害に対する国家の責任を明確にするため、国際司法裁判所に気候正義を問うことが目的でした。太平洋島嶼国では、年々気候変動を起因とされる災害の増加や海面上昇の影響で居住地や文化の喪失が危ぶまれています。このような状況下で、地域社会の草の根から国際政府に至るまであらゆるレベルにこの気候変動問題を問いかけて戦うことを使命に活動していました。
太平洋島嶼国を中心とする国々の支持を受け、キャンペーンはニューヨークに移り、国連総会での投票に向けて、各国大使館、市民社会、学者からの支持を集めるための活動を実施しました。中でもバヌアツ政府は、国連総会決議案の交渉を主導するために中核となる国々を集め、3回の非公式協議も開きました。このようなバヌアツの学生と政府の動きによって、2023年の国連総会決議(77/276)で全会一致でICJへ勧告的意見を求めることに成功し、2025年7月に勧告的意見が発出されました。
3. 国連総会決議で支持を求める動き
2025年7月の気候変動に関する国家の義務についての勧告的意見は、全ての国に気候変動対策を講じる義務があり、対策を怠った場合には国際法違反になりえる可能性があるという見解を示した気候変動問題への対応を急速化させる歴史的進展でした。さらに勧告的意見をより強固なものにするため、バヌアツ含む国々は国連総会で勧告的意見を歓迎する決議案を提出しました。
今回、太平洋島嶼国のバヌアツを主導とする50カ国以上の共同提案国によって提出された決議案は、総会が国際司法裁判所の勧告的意見を受け入れて国連加盟国に温室効果ガス排出から気候系や環境を守る法的義務の遵守を求めること、明確化された法的義務に沿った気候変動対策の強化や化石燃料の規制・国際協力・現在および将来世代の権利保護の義務を求めること、世界的な判決の運用化を促進させること、そして国連事務総長に対して実施状況を第82回総会で報告することを求めることという、法的原則と実際の運用とのギャップを埋めるといった内容が含まれています。
■時系列
| 2019年 | 太平洋島嶼国8カ国出身の南太平洋大学の27人の学生が集まり、気候変動と人権問題を国際司法裁判所に提訴する動きを始めた | |
2023年 | 3月 | バヌアツが国連総会にICJからの勧告的意見を求め、満場一致で採択された(決議77/276) |
| 8月 | ICJは気候変動に関する国家の義務に関する命令を発し、規定に従い書面陳述と意見書を求めた | |
2024年 | 3月 | 各国および認可された国際機関から過去最多となる91件の書面による陳述書を受理した。※勧告的手続において提出された件数としては過去最多 |
| 12月 | ICJが口頭諮問を開催し、92カ国と11の機関が声明をあげた | |
| 2025年 | 7月 | ICJが気候変動問題に関する勧告的意見発出 |
2026年 | 5月 | バヌアツが国連総会に決議案を提出 |
| 20日 国連総会決議 |
4. 国連総会決議採択の瞬間
結果は、日本を含む141カ国の賛成と8カ国の反対、28カ国の棄却で出席および投票する過半数の賛成票を獲得し決議案(A/80/L.65)が採択されました。

決議案 A/80/L.65 に対する投票結果 出典:UN Web TV
一方、なにごともなくスムーズに採択されたわけではありません。サウジアラビアなど中東諸国が直前になって決議案へ修正を求めてきたため、修正案に対する投票も行われました。修正案はICJの勧告的意見を受け入れつつも、化石燃料生産国の立場から緩やかな移行を求めたものでした。しかし修正案は賛成50カ国、87カ国の反対、日本を含む20カ国の棄却で不採択となりました。よって、決議案(A/80/L.65)の全ての内容が承認されたのです。

A/80/L.65 の修正案、A/80/L.66 、A/80/ L.69/Rev.1 に対する投票結果 出典:UN Web TV
5. 決議結果への評価
私は、今回の結果には2つのポイントがあると考えます。
① 国際的な気候変動対策のさらなる加速への期待
1つ目は、これが世界の気候変動対策を大きく前進させる強力なエンジンになるという点です。国連総会というほぼ全世界の国々が加盟する会議で採択されたことにより、国際司法裁判所(ICJ)が発出した勧告的意見の重みは一層強まりました。また、この決議案は、単なる理念の掲示にとどまらず、国際法上の原則と実際の行動との間にある「ギャップ」を埋めるための具体的な報告書の提出を求めるものでした。決議案が採択されたということは、各国政府が勧告的意見を具体的な行動に移す意思を示したということです。今後、このICJの勧告的意見の内容が、世界の気候変動対策における礎になることを期待します。
② 投票行動で見えた日本の姿勢
2つ目は、日本の外交的姿勢についてです。歴史的な圧倒的多数の賛成国の中に、日本がしっかりと名を連ねたことは大いに評価すべき決断だったと感じています。
一方で、日本は決議案そのものには賛成したものの、原子力発電や炭素回収技術(CCS)の活用などを盛り込んだ修正案(多排出国やエネルギー転換に慎重な国々が支持した案)の投票にあたっては棄権票を投じました。この決議案は否決されましたが、GXをはじめとする国内の政策で原子力発電やCCSの活用を進めている日本にとっては、反対票を投じたくない、複雑な背景があったのではないかと推察します。
総じて、気候変動問題への対応において、世界も日本も、大きな一歩を踏み出したと評価できます。色々な政治的駆け引きや国内の課題はあるにせよ、今回の採択全体を振り返れば、気候正義の実現に向けて、国際社会が歴史的な一歩を共に踏み出すきっかけになったと捉えます。
6. 本決議の可能性
今回、バヌアツや太平洋島嶼国の声が国連に届いたことは、今後の事例にも関わる画期的な流れであったと思います。2025年の国際司法裁判所の勧告的意見の発表に続き、国連総会で採択されたことから、国際社会全体の気候変動問題に対する対応の義務化がより迅速に実行されていくこととなったでしょう。
過去に国連総会決議に採択された例として第3回1948年世界人権宣言があげられます。第3回国連決議では、第二次世界大戦において特定人種の迫害や大量虐殺等の人権抑圧をしていた経験から、後の法的拘束力のある世界人権規約採択につながる、人権問題を国際社会全体の問題として取り組むための大きな指針となっていました。
気候変動は、環境問題の枠にとどまらず、私たちの生存や尊厳を脅かす「人権問題」です。持続可能な未来を確かなものにするためには、国際社会が法的拘束力のある指針を定め、各国の迅速な対応を促す仕組みづくりが不可欠です。実効性のある法制度が確立することを期待します。
参考
- International Court of Justice Climate Ruling Follow-Up Resolution Is a Test of Climate Leadership at the UN, CIEL
- International Court of Justice's climate opinion: States must support the United Nations General Assembly resolution operationalising it, FIDH
- General Assembly Strengthens Fight against Climate Change, Adopting Contentious, Yet Broadly Supported Draft among Several Texts on Myriad topics, United Nations
- ICJ勧告的意見Q&A, 気候ネットワーク
- Our Journey, PISFCC
この記事を書いた人

- 気候ネットワークに所属されていた方々、インターンの方々が執筆者となっております。
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