連続オンラインセミナー「2030年の私のために、今できること」第6回は (株)ヒューマンフォーラム 進化型古着屋“森”ディレクターの井垣敦資さんをお迎えし、「環境」×「ファッション」をテーマに熱い想いを語っていただきました。

ファッション・古着業界の現状

ファッションってそもそも何?

井垣敦資氏  ㈱ヒューマンフォーラム 進化型古着屋”森”ディレクター 兵庫県姫路市出身。ファッション業界で23年、数々のブランドに携わり現在は「進化型古着屋 森」、RECIRCLE STUDIOのディレクションを⼿がける。2020年 12⽉より京都のユースカルチャーを発信するメディアOUT in KYOTO編集長

最近のファッションで思い浮かべるのは、ファストファッション、流行、トレンドなど華やかなイメーだと思います。反面、ファッション産業は石油産業に次いで環境を汚染していると言われ、ネガティブなイメージを持つ人もいるかもしれません。一般的に、特定の人に受け入れられ普及した社会現象や生活様式をファッションと言います。ファッションの語源はラテン語factioで、もともとは「作ること」「事を成す」という意味です。社会情勢や時代の空気とともに移り変わる、これがファッションの醍醐味です。原料から流行の服へと変化する過程で色々な付加価値を発生させ、大きく経済を動かすのがファッション産業です。ちなみに、アパレルという言葉は、フランス語のappreiller(適合させるという意味)に由来します。ファッションとアパレルは似ているようで意味は違います。1950年代以降、アパレルとは既存服の市場のことを言います。

アパレルの需給バランスを年代別に見ると

2018年、国内生産と海外からの輸入を合わせ29億着の服が日本で調達されています。1990年は11.9億着なので、過去30年で約3倍に調達数量が増えたことになります。消費数量は、2018年は13億着、1990年は11.5億着なので大きくは増えていません。1年間で1人あたり23着の服が作られ、消費されるのは13.5着です。つまり、たくさん作られ、あまり買われずに、捨てられている、これがアパレル業界の現状です。

不要になった服はどうなる?

家庭で不要になった衣料の70%は燃えるごみや燃えないごみとして処分され、30%はリユース・リサイクル目的で回収されています。リユース・リサイクル目的のうち、11%を占めるのが市町村による資源回収や、補助金を受けた団体が実施する集団回収です。最近では店頭での回収、消費者がネットオークションや、リユースショップを通じて直接売ることも増えてきています。

海外に輸出される中古衣料

消費者から回収された中古衣料は古紙問屋業者を経て、故繊維業者から再販売や輸出されています。中古衣料の日本の総輸出量は1990年で5.4万トン、2018年には約5倍の24万トンに増えています。中古衣料はアメリカ、イギリス、ドイツなどからも輸出されています。つまり、たくさん作られ、あまり売れなくて、国内では処理しきれずそれを輸出しているのです。一方、パキスタンやマレーシア、ガーナ、ケニアなど中古衣料を多く輸入しています。日本が高度成長期には繊維産業で国が栄えたように、国の発展のためには繊維産業は欠かせません。しかし、良質な古着が海外から輸入されているアフリカの国々では繊維産業はなかなか発展していません。なぜなら、丈夫でスマートな中古の服を着ていたほうがいいという価値観になっていて、アフリカの繊維産業が盛り上がらないという現状があるからです。これが古着業界で起こっていることです。

USEDを拡張する進化型古着屋“森”の取組み

これまでシーズンごとに新しいトレンドを作ってカラーや素材を打ち出し、消費を促してきました。マーケットが求めるからどんどん作るのがファッション産業の構造でした。しかしコロナによって、今ファッション産業が変わろうとしています。

京都市北部の京北町にて。モデルは全て古着を着用。㈱ヒューマンフォーラムはこの町で13年前から無農薬米を栽培し、同社が運営するmumokuteki cafe で提供している。

長く洋服を着ることを文化に

単純に、みんなが長く洋服を着るのがいいと思うことで、ファッション産業が変わるだろうと考えました。そして、古着を扱っている僕たちがもう一度立ち返って、“森”でやりたい古着のありかたを始めたのが2019年3月です。僕たちも少なからずコロナの影響を受け、2020年12月に大阪から京都に移転しました。“森”が普通の古着屋と違うのはRE;CIRCLE STUDIOというリメイクスタジオが店内にあることです。そこでは洋服のお直しやカスタマイズをお客さんから受けたり、汚れたり破れたりした洋服をリメイクしアップサイクルして商品として出し直しています。“森”で大事にしているのは、「洋服を長く着ることを文化にしたい」という思いです。このファッション産業に対する全く違う価値観でビジネスをやっていけるのかという話もあります。しかし、いくらファッションがサステナビリティ、トレーサビリティを追求し、色んな新技術を駆使したとしても、みんなの価値観が変わらない限りそれは続いていくのではないかと僕たちは考えました。そして、扱っている古着に意味をもう一度持たすために6つのREを提供することにしました。

RE;THINK   意味を捉える、ストーリーを作る

アランセーターには安全と大漁を願う女性たちの祈りが込められている。

たとえば、古着のアランセーター。アランニットはフィッシャーマンニットとも呼ばれ、荒れた海に漁へ出る夫の安全と大漁を祈ってアラン諸島の女性たちによって編まれたニットです。もしも漁師が亡くなった時、着ているセーターで誰か判るように、家紋のように家庭ごとに編み柄が違います。こうやってストーリーを与えることで、服に対しての愛着が湧くと僕たちは考えています。古着の可能性を伝えていく場として、店頭でお客さんとのコミュニケーションも大切にしています。

RE;MAKE   再び作る

“森”店内のリーサークルスタジオでリメイクもしています。アランセーターの汚れているところ、破れているところを継ぎ合わせて、パッチワークのニットにアップサイクルしています。今、人気があるのが、京都紋付さんと協業して、黒より黒い深黒染(しんくろぞめ)です。ベージュの汚れたセーターも、黒染めによってきれいに生まれ変わりました。

RE;CIARCLE STUDIOでアランニットをパッチワークでアップサイクル

黒染めにより、新黒に生まれ変わった

RE;NTAL   共有する

洋服を長く着ることに共感してもらいたいという思いから、レンタルサービス、サブスクリプションサービスを始めました。森メンバーズは月額5000円で古着を5点レンタルできます。リペアやお直しが1点まで無料、黒染めが特別価格でできます。今はコロナでワークショップができませんが、藍染め、リネンの機織りなどのワークショップにも無料で参加できます。

RE;CREATE   未来のUSEDを作る

リクリエイトは、未来のビンテージを作ること。mori kinseiというブランドで、国内で、カットソーとコートを作っています。10年着られるカットソーを目指し、肉厚の生地でよれない、のびないように首回りを何回もサンプルアップして作りました。匂いやシミや黄ばみが出ないように、抗ウイルス加工を施しました。コートも10年20年着てほつれたら直すということを文化にしたいという思いで時間をかけて作っています。“森”はただの古着屋ではありません。洋服を長く着る文化を創るために、いろいろなサービスや商品を開発しているところです。

これからの世の中に対して、大事な話

次に最近のファッション業界全体についてお話します。コロナになってから、特に都心部でも、大企業の倒産や閉店が起きています。例えコロナがなかったとしても、こうなっていたのかなというのが僕の個人的な意見です。成長し続けなければならないという経済の下、売れないものも欲しいと思わせ、大量に作って、消費し、捨てるということをしてきました。しかし、それは持続可能ではありません。これまでの経済が限界に来ているように思えます。そうではない社会のあり方を模索していく必要性が、特にファッション業界にはあると思っています。だから僕たちは、古着に意味を持たせて長く着るという価値観にシフトする啓蒙活動をやろうとしているのです。

ファッションだからできること

ファッションは時代の空気を捉えて作り出す物だと僕は思っています。生活必需品のみ売れるということが、今マーケットで起きてきています。しかし、個人的には意味のあるもの、ある種無駄なものも大事だと思っています。機能性や利便性だけではなく、誰かに語りたくなるようなストーリーがあるもの、愛着を持って着続けられるものはきっと皆さんにもあるはずです。それを探してほしいのです。ものを選ぶこと、買うこと、あるいは逆に買わないことも、深く動機を考えることが大切です。むちゃくちゃ好きなもの、応援したいものにお金を使うことは、これからの世の中を形作っていくと思います。ファッションにはこれからの時代に必要な価値観を伝播していく力があります。ファッションの語源は「事を成す」です。ファッションを通じて持続可能な社会を、僕たちの観点から提案し続けていきたいと思っています。

セミナーご参加のみなさま、ありがとうございました!

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株式会社ヒューマンフォーラム:https://www.humanforum.co.jp/進化型古着屋"森”: https://mori-store.net/