世界は今、危機の只中にあります。
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、世界の感染者数は619万人、死者数は37万人を超え(2020年6月2日時点)、今もなお増え続けています。2020年11月の気候変動枠組条約締約国会議(COP)も、パンデミックのため、2021年11月へと延期されました。
人々の関心はこの新しい危機に集中していますが、気候変動というもうひとつの「古い」危機も依然深刻です。気候災害は世界各国・各地域で猛威を振るっており、適応可能な限界を超えて人々の暮らしや生命、そして経済・社会・文化の基盤に甚大な損失と被害を与えています。温暖化で永久凍土が溶けて氷に閉じ込められていた病原菌が解き放たれる恐れがあるともいわれています。
病原菌に限らず、気候変動は、貧困、格差、差別、紛争、暴力、自然破壊といった他の深刻な問題の「脅威を倍増させる(threat multiplier)」との指摘もあります。
コロナ危機と気候危機、この二つの危機にどのように向き合うべきでしょうか。
二つの危機にどう向き合うか?
「#気候も危機」オンライン気候アクションの反響
コロナ禍による緊急事態宣言の中、4月24日金曜日、気候危機の解決を求める日本の学生や若者でつくる「Fridays For Future(未来のための金曜日)」のメンバーがオンラインで気候アクションを実施しました。あのグレタ・トゥーンベリさんがオンラインでの気候ストライキを呼びかけたことに応えたものです。
人々の関心がパンデミックに集中している中、ソーシャルメディア上で「#気候も危機」というハッシュタグを用いて、気候変動に対する関心を持つこと、気候危機の解決に不十分な日本の排出削減目標「26%削減」を見直す必要性を訴えました。「#気候も危機」はTwitter上でトレンド入りし、水原希子さんら著名人もアクションに参加し、メディアでも反響を呼びました。
「今は気候変動どころではない」?
他方で、Twitter上では、「今は気候変動どころではない」という声も散見されました。確かに、COVID-19によって苦しみ、最愛の人を喪った人が、いま気候危機を訴えるメッセージに複雑な心情を抱くことは理解できます。
しかし、「今はそれどころではない」という言葉には注意が必要です。なぜなら、被害を免れえる特権的立場の人々が、現実に苦しんでいる被害当事者の口を塞ぐ言説として機能してきた面があるからです。それは、マイノリティへの差別やジェンダーの不平等などに傷つき、勇気を出して声をあげた人たちが浴びせられ続けた言葉でもありました。
「今はそれどころではない」の裏で失われるもの
コロナ禍が始まる前から、気候災害によって生命を落とした人や、住む場所を追われた人々はたくさんいました。WWFによれば2019〜2020年のオーストラリアの山火事では12億5000万の生物が死んでいます。産業革命前からの気温上昇が約1℃の現在でもこの大惨事です。対策をとらなければ今世紀末には約4℃もの気温上昇し、破滅的な事態を招くと懸念されています。
それにもかかわらず、「今はそれどころではない」とでもいうかのように、気候変動は政治の優先事項から除外されつづけてきました。今もそうです。将来コロナ禍がおさまったとしても、社会のリーダーたちが気候変動対策に本腰を入れるとの確信はありません。
この状況に対して、ますます深刻化する気候変動と共に生き、将来にわたって被害当事者となることをなかば運命づけられている若者たちが声をあげることは、この上なく正当であると言わねばならないと思います。
台風・豪雨・猛暑の季節へ…。
外出自粛の中の気候災害に対処できるのか?
2020年4月、千葉県鴨川市では、パンデミックのため外出自粛が呼びかけられている中、豪雨によって土砂災害が警戒される事態となり、避難勧告が出されました。
この事例は、コロナ禍のさなかに気候災害が発生することの恐ろしいジレンマをいみじくも示したものだと思います。人の密集を避けるためにリスクのある自宅に居続けるか、それとも気候災害から身を守るために感染リスクの懸念のある避難所に移動するかという困難な選択が、この夏、私にも、そしてあなたにも、つきつけられるかもしれないのです。
これから、2020年も豪雨や台風、猛暑の季節がやってきます。すでに異常気象が日常になっている感のある現在、コロナ禍のさなかであってもCO2排出量の大きい石炭火力発電の新増設計画を続け、気候変動対策を先送りにし続けている日本社会は、二つの危機に対処する準備ができているのでしょうか。
「#すべての危機と闘う」覚悟を
FridaysForFutureに参加する世界中の若者たちは、「#FightEveryCrisis(すべての危機と闘う)」とのハッシュタグをつけたメッセージをTwitter上に投稿しています。
気候変動もコロナ禍同様に人を死に至らしめる危機ですから、「コロナか気候か」の二者択一は、だれかとだれかの生命を二者択一しようとしていることにほかならないのではないかと思います。
様々な危機が同時多発的に襲う複合リスクを思えば、気候変動が実際に「脅威を倍増させている」現実に向き合えば、そして持続可能な開発目標(SDGs)が謳う「誰も取り残さない」という理念を心から願うならば…。
この二つの危機に向き合うために私たちに必要なのは、すべての危機と闘う覚悟ではないでしょうか。
(気候ネットワーク京都事務所:伊与田)
この記事を書いた人
- 気候ネットワークに所属されていた方々、インターンの方々が執筆者となっております。
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