東京事務所の桃井です。現在、新型コロナウィルスの感染が広がり、状況がよくわからないまま政府の対応に振り回され、社会がパニックに陥っています。しかし、実際、私たちの身近に着実に迫っている気候危機は、社会的パニックになってもおかしくないほど深刻だと思います。
この数か月、私は横須賀の石炭火力発電所建設計画の問題に向き合うにあたって、横須賀の海で起きている実態を目の当たりにする機会がありました。以前にも千葉の漁師の方に話を聞いて、海で起きている事態の深刻さに背筋が凍る思いがしましたが、横須賀の漁師さんたちの話も本当に深刻で、危機迫るものがありました。そこで、この間に伺った話を一部ご紹介していきたいと思います。
神奈川県東部の三浦半島に位置する横須賀は、西側が相模湾、東側が東京湾に面し、豊かな漁場がある地域です。しかし今、横須賀の海でも気候変動の影響を受けて環境が激変し、これまでそこに生えていたワカメなど海藻類が全く芽吹かず、漁の対象となっていた魚貝類が激減しているといいます。その原因は海水温の上昇です。昨年5月に住民たちが国を提訴した横須賀火力発電所行政訴訟では、こうした海の窮状もあり、昨年11月、3名の海の関係者が裁判の原告に加わりました。
相模湾の深刻な磯焼け
原告の一人、西海岸に位置する秋谷の漁師・梶谷さんは、ワカメ漁を主に漁を営んできた方です。今年2月2日、私は弁護団とともに梶谷さんの漁場に訪れ、いつも漁をしている場所に船で案内していただきました。そこで見た光景はあまりにもショッキングでした。海水の透明度は高く、箱メガネを使うと水深3メートル以上ある海底もはっきりと見えます。しかし、本来ワカメが海底一面に芽吹くこの時期(冬場1月頃)に、海藻が一本も生えていないのです。海の底には岩礁が広がり、小さいウニがゴロゴロと転がっているだけです。いわゆる「磯焼け」です。ワカメに似た海藻、カジメやアラメも生えないそうです。少しでも海藻がある場所があれば連れて行ってもらえないかと尋ねても、「このあたりの海は全て磯焼けしていて、残念ながらそのような場所はない」と言います。
海の変化は10年以上前からみられて、全国的に「磯焼け」は問題となっていますが、この横須賀の海でもここまで海藻がなくなり、アワビやサザエといった貝類もいなくなるような酷い海になったのは、この2年くらいのことだということでした。たいてい年明け1月には、三浦半島の西海岸には強い西風が吹きつける気候で、地元では「大西」などと呼ぶそうです。この冷たい西風こそが海の温度を下げ、ワカメが芽吹くのに必要な風だったのが、気温の変化とともに風さえ吹かなくなったことが一番大きな原因で、水温は例年に比べて2℃ほど高いそうです。
破壊されてきた海にさらなる打撃
もう一人の原告・東海岸側に位置する安浦町在住の小松原さんは、後を継いだ息子さんとともに潜水漁業でミル貝、タイラ貝、ナマコなどを採り、漁を営んできました。これまでも海洋の埋め立てなどで海が変化するたびに漁は打撃を受け、浅場の自然海底が焼失したため、全国的に行われていたミル貝の潜水漁法は、今、この横須賀が日本で唯一の場所となり、水産試験場などからも注目されているそうです。ところが、東京湾でも海水温は上昇し、低い水温を好むミル貝、タイラ貝などが減り、漁獲量が激減しています。また、東京湾でも磯焼けの被害は酷くなっており、水温の上昇でカレイ、クロダイ、マダイ、カサゴ、メバル、スズキ、アナゴ、タコ、サヨリなどこれまで網漁で採っていた漁獲量が大激減しているということでした。この海域に定着していた魚介類が生息できなくなり、漁業者の被害は回復しがたいところにまで追い込まれているのが実態です。小松原さんの話でも、20年前から海の温度は徐々に上がってきているが、この2年で急激に変化しているともお話されていました。
私たちの食生活では、ワカメも海苔も昆布も欠かせない食材です。平均海水温が上がり、激変が進む海の危機は、漁業を営む漁師さんたちへの直接的な被害だけではなく、将来の私たちの食卓にも甚大な影響を及ぼすことになります。地元で漁業の被害が出ている中で、株式会社JERAは横須賀火力発電所の建設を本当にこのまま進めるのでしょうか。石炭火力を稼働させるのは一体誰のためなのでしょうか。世界の人々を気候パニックに陥れ、弱者を苦しめるだけの火力発電所が本当に必要でしょうか。裁判は国に対して着々と行われますが、その判断を待たずに、社会的企業であれば自ら決断してほしいものです。
なお、2020年3月23日(月)14時から横須賀石炭火力行政訴訟が東京地方裁判所の大法廷で行われます。どなたでも傍聴できますので、ぜひ見に来てください。
横須賀石炭火力行政訴訟
石炭火力を考える会/横須賀火力発電所建設を考える会
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