京都事務所の山本です。

石炭火力発電の問題をわかりやすく解説するパンフレット、「このままでは日本は石炭だらけに?」はご覧いただけましたでしょうか?まだの方は、ぜひご覧ください。

4/20、神戸製鋼所の石炭火発建設計画に対して、公害患者の方々との話し合いの場が設けられ、同席させていただきました。この日は、「患者の声を聴く場」として行われ、2人の患者が被害を訴えました。石炭の問題に触れつつ、簡単な報告をしたいと思います。

 次々と明らかになる石炭火力発電所の建設計画

 さて、これまでの調査で明らかになっている新規の石炭火力発電所の計画は、46基、2331万kWに上ります。これらが全て建設され、稼働した場合、CO2排出は約1億4,000万トン-CO2に上ると推計されます。これは京都議定書の基準年である1990年の日本の排出量の1割以上です。

日本政府の長期目標である2050年80%削減のためには、温室効果ガス排出量を2億5,200万トン(90年比)程度にまで抑えることが求められます。新規建設による排出はこの半分以上を占め、2050年まで運転を続ける可能性があります。つまり、石炭火力発電を増やすことは、長期間のCO2大量排出を固定化してしまい、将来の温暖化対策をより難しいものにしてしまいます。

石炭の問題は、温暖化だけじゃない!

石炭は、他の化石燃料と比べて多くのCO2を排出してしまいますが、問題はそれだけではありません。PM2.5(微小粒子状物質)や硫黄酸化物(SOX)、窒素酸化物(NOX)、水銀などの人体に有害な大気汚染物質も排出されます。

世界を汚くする石炭魔人

世界を汚くする石炭魔人

現在の火力発電所は、公害が激しかった1970年前後と比べて、環境規制の強化や、脱硫・集塵技術の進展や設置により見た目には大きく改善されました。

しかし、新たに発電所が建設されることで、汚染物質を大気中に放出することには変わりありません。特に大阪市西淀川区をはじめとする地域は、自動車排ガスと周辺地域の工場や発電所の煤煙と合わさって、複合大気汚染による公害が発生し、多くの方が呼吸器系疾患で苦しめられました。

1989年には西淀川区だけで公害患者が2,733人にものぼり、患者たちは「手渡したいのは青い空」を合言葉に公害のない未来をつくるため、厳しい裁判を戦い、和解を勝ち取りました。そうして、戻りつつあった青い空を「再び汚されたくない!」そんな想いを伝えるために、石炭火力発電の新設計画を打ち出している神戸製鋼との話し合いに臨みました。

話し合いの様子

神戸製鋼と公害患者の話し合いの様子

患者たちの想い

神鋼の発電所から最も近い地域に住む川野さんは、公害患者の認定から40年。喘息発作のせいで大きく人生に制約を受けたことを話されました。激しい発作が出ると夜も眠れないほどで、家族にも迷惑をかけてしまったといいます。治療薬や医学の発展もありようやく外出できる範囲は広がったが、それでも発作が出てしまわないか不安を抱えながら生活を送られています。

「神戸のまちを良くしたい。大気を汚染して欲しくない。誰もが安心できるまちにしたい。」

川野さんは、計画を見直すよう強く求めました。

西淀川公害患者の家族を代表して、山下さんが話をされました。山下さんの夫は、喘息を抱えながらも懸命に働かれていたそうです。しかし、45才の時に大発作に見舞われ意識不明の状態になり病院に運ばれました。意識のないはずの夫の顔からは大粒の涙が溢れ、それを見るだけで胸が張り裂けそうになったといいます。

「二度と公害は引き起こしてほしくない。このままでは青い空を手渡すことができなくなってしまう」

山下さんも、神鋼側へ訴えかけます。

患者の声を受けて

神戸製鋼の担当者は、「公害の被告企業の一つであったことは認識・理解している。お二人の話を聞いて、返す言葉もない。」と言われました。

石炭火力発電が「地産地消」!?

今回、高炉を廃炉にして新たに石炭火力発電所を建設する件については、公害が発生した当時とは環境基準値が厳しくなったこと、公害防止技術が発展したこと、儲かればなんでもして良いという時代ではなくなったことについて、神鋼の担当者から紹介がありました。また、自動車の排ガス削減の一環として、鉄の軽量化技術が貢献していることについて話がありました。

なぜ石炭なのかという問いについては、国のエネルギー基本計画においても重要なベースロード電源として位置付けられている点、エネルギー安全保障を考慮したベストミックスにおける石炭の役割、電力の安定供給という社会要請に応える点が挙げられました。

立地場所については、電力の消費地に近く、コンマ数%で発電効率の向上を目指す中で、送電ロスの1~2%の低減はメリットとして大きい。電力の大消費地にも近いことから、「電力の地産地消」にもつながるとのことでした。

石炭火力発電は地産地消とはいえない

果たして石炭から生み出されたエネルギーは「地産地消」と呼べるものでしょうか?

石炭は化石燃料であり、環境への負荷が大きいだけでなく、海外からの輸入にも頼るものです。私たちが理想とする環境への負荷が少ない、地域の資源(自然エネルギー)を活用した「地産地消」とは程遠いものです。

神鋼側は、1基2000億円の建設費の30%が環境対策で、定められた規制値もしっかりとクリアすると言いますが、既設の発電所の2倍相当の設備容量の発電所を建設するということは、環境負荷もほぼ倍になるということです。また、電力の大消費地は、人口密集地域でもあり、より多くの人が影響を受けるということでもあります。

気候ネットワークでは、次の通り、神戸製鋼の計画について、環境アセスメント制度のもと、意見書を提出しています。

【意見書】神戸製鋼が計画する神戸製鉄所火力発電所(仮称)設置計画について(計画段階環境配慮書への意見)

今後へ向けて

今後、環境アセスメントが進むことで明らかになる部分もあります。引き続き、石炭火力発電の計画の進捗状況を見ながら、今後も適宜話し合いをしていくことを神鋼側と再確認して話し合いを終えました。

気候ネットワークでは、今後も石炭火力発電に関する問題点や、調査・研究を行い、脱石炭火力発電の活動を続けます。石炭問題に関する最新情報は、sekitan.jpにて発信中です。ぜひご覧ください!

イベント「ほんまに大丈夫なん?エネルギー・地球温暖化問題~増え続ける石炭火力発電所建設計画とその問題点~」

なお、7月29日(水)には、大阪市のエル・おおさかにて、石炭問題を考えるためのイベント「ほんまに大丈夫なん?エネルギー・地球温暖化問題~増え続ける石炭火力発電所建設計画とその問題点~」も開催します。詳細は近日中にご案内する予定です。ぜひこちらのイベントにもご参加ください。

※トップの画像はイメージです。

この記事を書いた人

Yamamoto