こんにちは。京都事務所の伊与田です。九州の大豪雨は本当に深刻ですね…。豪雨の他にも各地で観測史上最高気温など気象の記録が更新されており、やはり気候は尋常じゃない段階に突入していると感じます。

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政府が閣議決定した最新版『平成28年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書』

環境白書とは?

パリ協定の採択から約半年がたとうとしていた今年5月31日、政府は「平成28年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」(以下、環境白書)を閣議決定しました。ご存知の通り、白書は、政府の各年の各分野の状況や施策をまとめた年次報告です。つまり、環境白書を読めば、現在の日本政府が考える環境問題の状況や対策の見通し、進捗、課題が把握できるはずです。

環境省ウェブサイト:平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書(PDF版)

平成28年版環境白書にみる気候変動問題

平成28年版環境白書は気候変動に関するパリ協定の採択をうけて、地球温暖化が大きく取り上げられています(気候変動に取り組むNGOとしては一応嬉しいことです)。ざっと目を通した中で私が印象に残ったポイントを独断と偏見で書き連ねていきたいと思います。

日本政府が考えるパリ協定の意味や国内の温暖化対策についてわかりやすくまとめられている

環境白書の「パート1 地球温暖化対策の新たなステージ」からはパリ協定の概要や日本政府のポジション、交渉の流れや各国の排出削減目標などが図表でわかりやすくまとめられています(外務省のウェブサイトでパリ協定の全文の仮訳が公開されていますが、条文そのままだと要点を抑えるのは難しいですよね)。

国内の温暖化対策についても、5月に閣議決定された「地球温暖化対策計画」に沿って、わかりやすく書いてあります。日本の温暖化対策についてざっくりと知るには役に立つ資料だと思います。

ただし、環境白書に書いてある対策が十分かどうかはまったく別問題です

問題の危機感やリーダーシップ発揮への決意は伝わってこない

中には良いことも書いてあるのですが、全体として日本政府としての気候変動問題への危機感やリーダーシップ発揮への決意が伝わってこないのは残念です。いくつか印象に残ったところと、それに対するコメントをまとめてみました。

日本の今後の温室効果ガス排出削減目標として、「2020年までに2005年比で3.8%削減」「2030年までに2013年比で26%削減」「2050年までに80%削減」を改めて示している

日本が持っている2020年、2030年の排出削減目標はパリ協定の長期目標の達成には不十分です。当然、引き上げる必要があります(当たり前ですが、政府の環境白書には、日本の排出削減目標が国際的に強く批判されていることは書かれていません…)。また、2050年の80%削減は、最低ラインとして維持し、さらなる引き上げを検討すべきです。

2050年の長期目標に関連する話では、COP21合意によって求められている長期の温室効果ガス低排出戦略も重要です(G7サミットでもこれを早期に策定・提出することが約束されました)。日本ではまだ検討が始まっていませんが、能力も責任もある先進国として、「低排出」ではなく「脱炭素」の長期戦略を早急に打ち出すべきだと思います。

 「現状のINDC(引用注:2020年以降の温暖化対策の国別目標案)から予想される温室効果ガス排出量では、2℃目標を達成することが難しい」、パリでの合意に基づいて「2020年(平成32年)までに各国がNDCの提出・更新を行うことが求められています」と記している

ぜひ日本政府として、「2030年目標を引き上げて更新・再提出します」とはっきり言ってほしいと思います。そして、2030年目標の引き上げの議論では、ぜひ環境NGOの提言を参考にしていただきたいと思います。

気候変動問題に取り組むNGOネットワーク"Climate Action Network Japan(CAN-Japan)"は、気候変動の科学、国際的な公平性、実現可能性を踏まえ、「1990年比で2030年までに40-50%削減」という目標を提言しています。

「パリ協定の今後のスケジュール」というグラフでは2018年の部分に「発効?」と書いてある

出典:平成28年版環境白書

出典:平成28年版環境白書

この環境白書の閣議決定の1週間前、伊勢志摩サミット首脳宣言では、G7として2016年中の発効をめざして努力するとしていますが、反映が間に合わなかったんでしょうね。G7サミット議長国たる日本政府は、首脳宣言に従い、早急にパリ協定批准の手続きを進め、2016年中の発効に貢献する必要があります(そのためには臨時国会で優先的に議論を行い、遅くとも11月中に批准を済ませる必要があります)。

「省エネを通じて最終エネルギー消費量を減少させるとともに、家庭が再生可能エネルギー発電を行ったり、CO2排出係数の小さい電気を販売する電力会社から電気を購入したりすることで排出係数を低減させることでも、各部門のCO2排出削減に大きく寄与することが期待されます」と記している

省エネは当然ですが、電力小売全面自由化を受けて、CO2の少ない電気を選ぶように家庭に呼びかけているのはいいことだと思います!私の自宅の電気も、パワーシフト・キャンペーンのウェブサイトを参考にして、再エネ導入に熱心と思われる電力会社に変えました(将来的に再エネ100%の電力会社が誕生したらそちらに切り替えたいと思っています)。

でも、国内で48基もある石炭火力発電所の新増設計画を止めなければ、普通に考えてCO2排出係数は悪化するでしょう(最新型の石炭火力発電でも、既存の天然ガス火力の約2倍のCO2を排出!)。脱石炭を進めるキャラクラー「アンチコールマン」の言うとおり、安いだけで汚い電気を買わないよう注意しましょう!

 

…すこし脱線しました。

政府の環境白書にはまだまだ他にもたくさんの論点がありますが、以上に見てきたように、政府の環境白書は、パリ協定で合意された排出ゼロをめざす意思がいまいち見えず、物足りないと言わざるを得ません。

『市民版環境白書2016 グリーン・ウォッチ』発表!

さて、先月5月、環境分野で活動する市民団体の連合体「グリーン連合」は、『市民版環境白書2016 グリーン・ウォッチ』を発表しました。

グリーン連合ウェブページ:『市民版環境白書2016 グリーン・ウォッチ』
*このウェブページからどなたでも無料で閲覧・ダウンロードいただけます

これは環境問題に取り組む市民の目から厳しく現状や政府の施策をチェックしたものです(気候ネットワークのメンバーも執筆に参加しています)。また、日本の環境政策が国際的に遅れている現状や、日本の対策が遅れる根本的な原因についても分析しています。

日本でも実現した「原発ゼロとCO2削減の両立」

例えば、グリーン・ウォッチでは、2014年度の日本の原発利用率がゼロであったにもかかわらずCO2が前年比減少している(=CO2削減と原発ゼロが両立した)」ことを明示しています。ところが、私が読んだ限りでは、このことは政府の環境白書には見当たりませんでした。

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出典:環境省のデータより伊与田作成

おまじないのように繰り返される「温暖化対策のためには原発が必要」というフレーズ。しかし、原発利用率がゼロになった2014年度に前年比排出減が実現したという事実は、日本でも原発なしでCO2が減らせることを実証したものです(あんまりみんな口に出さないですけど…)。結局のところ重要なのは省エネ強化と再エネ普及なのです。

他にも、グリーン・ウォッチには、政府の環境白書にはない様々なデータや分析が盛りだくさんです。ぜひ政府の環境白書とグリーン・ウォッチを読み比べて頂ければ嬉しいです(いずれも無料で閲覧・ダウンロードできます)。

環境省ウェブサイト:平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書(PDF版)

グリーン連合ウェブページ:『市民版環境白書2016 グリーン・ウォッチ』

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気候ネットワーク
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気候ネットワークに所属されていた方々、インターンの方々が執筆者となっております。

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