こんにちは。京都事務所の山本です。今回、日本初?と思われる、気候変動訴訟をテーマとした裁判ドラマについて紹介したいと思います。気候変動訴訟について詳しく知りたい方は、一原さんが寄稿してくださっている記事を参照してください。

今なぜ、気候変動「訴訟」?(第1回)

今なぜ、気候変動「訴訟」?(第2回)

今なぜ、気候変動「訴訟」?(第3回)

石炭火力新設ラッシュに立ち向かう市民

日本において提起された気候変動訴訟は、4件あります。現在も係属中のものとして、神戸石炭訴訟(民事・行政)、横須賀石炭訴訟(行政)の3つがあります。私は、神戸市において計画された神戸製鋼所の石炭火力発電所増設計画について、環境影響を懸念する住民の方々と一緒に活動してきました。

1−2号機しかなかった風景 今は3−4号機の姿が(2018年6月撮影)

訴訟提起に至る前の2018年に、神戸製鋼所の計画に対する公害調停を兵庫県公害審査会に申し立てる法的アクションが開始されました。温室効果ガス、大気汚染物質の巨大排出源である火力発電所は、計画段階において止めることが重要です。しかし、残念なことに環境アセスメント、公害調停では計画を止めることはできませんでした。また、神戸製鋼所は公害調停による協議が続いているなかで、発電所建設工事の手続きを開始したため、新たな法的手続きとして、2つの裁判が提起されました。

原告である住民の方々は、新たな石炭火力発電所の建設・稼働の差し止めを求める民事訴訟を提起しました。さらに、建設を認めた国に対する行政訴訟も提起し、いずれの裁判も係属中です。

神戸石炭行政訴訟 高裁判決に臨む原告・弁護団(2022年4月26日)

行政訴訟については、地裁、高裁において原告敗訴の判決が下されました。2度の判決のなかで裁判所は、原告の訴えである「気候変動による影響を受けない権利」について、裁判所に訴える権利を認めませんでした。現在、判決を不服として最高裁へ上告中となっています。

石炭火力の建設をめぐる裁判ドラマ

さて、今回、制作・公開されたドラマは、神戸石炭訴訟の行政訴訟を題材としています。ドラマ制作では、脚本の準備は、原告・弁護団を中心に、訴訟を支援する地元団体である神戸の石炭火力発電を考える会のメンバーで議論して作成しました。そして、ドラマ出演者だけでなく、演出(シーンの構想)、撮影も原告・弁護団を中心に、ドラマの企画趣旨に賛同してくださる支援者にも協力いただき、完成させることができました。撮影中も演技経験がない素人同士が、意見や感想を共有しつつ、うまく現場で調整しながら進めることができました。

そんな手作り感いっぱいのドラマのストーリーですが、大学の法学部に所属する2人の学生を中心に進みます。裁判実務という講義において、法廷見学の課題が出されます。たまたま、大学の講義で知った神戸石炭訴訟について、裁判期日のチラシを食堂で手にしたことから、裁判傍聴へ行くことにした…という形でドラマは始まります。

ドラマ「温暖化で争えない?発電所稼働をめぐる国との裁判」(本編)

※傍聴席からは、裁判官に向けて痛烈な野次が飛ぶシーンがありますが、実際の法廷ではNGですので、ご注意ください。あくまで演出です。

時間の経過と共に裁判を「知ること」が難しくなる

行政裁判が提起され4年が経過しました。しかし、原告、被告の双方が、どのような主張、反論をしているかについて、「知られていない」のが実情と思います。

行政訴訟では、原告側は、気候変動問題が深刻化するなかで、石炭火力発電所の建設を認めた国の判断は違法とし、「気候変動問題は人権侵害の問題であるから、裁判で訴えることができる」と主張してきました。一方、被告の国側は、発電所設置に関する審査は適法であるとし、「(気候変動対策は)政策の問題であるから、裁判所で争う権利はない」と原告の訴えを退けるよう求めてきました。

残念ながら、日本においては気候変動問題が人権問題であるという認識が低く、気候変動対策の当否を司法で争うことすらできないのが現状です。

判決について旗出しする原告・弁護団(2022年4月26日)

そうした、もどかしい気持ちを抱えながら、裁判支援を続けるなかで、裁判に市民が参加する際の障壁について、私が個人的に感じた2点を述べたいと思います。

まず、「裁判の傍聴」についてです。通常、裁判の期日は、平日の昼間に入ります。そのため、裁判の傍聴に参加できる人は限られてしまいます。実際、裁判の傍聴には、地元支援者の方々が中心で、シニアの方々が多く来られます。そのほかに、気候変動問題に関心を持つ大学生の方が来られることもありますが、傍聴に来るのは、限られた方になっているのが実情です。

次に、幸運にも?裁判を傍聴できたとしても呆気にとられることがあります。全ての期日ではありませんが、概ね、予め提出した書面の確認と、今後の進め方、日程に関する確認が行われる程度で終わります。「異議あり!」と、TVドラマのように、原告・被告双方の代理人による激しい議論が行われることは、ほぼありません。こうした静かな法廷のもと、弁論や証拠調べが書面を中心として審理が進行することを「書面主義」と言うそうです。

その結果、膨大な書面のやり取りが続く姿を、法廷で見ることになります。気候変動問題を身近に感じ、裁判に興味・関心を持った方でさえも、傍聴に参加しただけでは、原告・被告双方の主張を知ることさえ難しい状況です。また、裁判で提出された書面は、行政訴訟において提出されたものについては、全てHPに掲載されていますが、すぐに目を通せる量ではなく、大変な労力を要します。

裁判ドラマに込められた思い

神戸石炭訴訟の原告・弁護団は、できるだけ多くの方に裁判の進捗を知ってもらうべく、裁判期日終了後に解説や意見交換の場として、期日報告会を対面、オンラインを併用して開催してきました。

しかし、限られた時間で十分に伝えきれないこともあります。そこで、気候変動訴訟の法廷ドラマを通じて、より多くの方々に、気候変動問題は重大な人権問題であることを伝え、神戸石炭訴訟が目指すもの、日本の司法における課題について伝えていきたいと考えたものです。さらに、社会に広く訴えかけ、判決、政策を変えていく力にしていきたいという思いが込められています。

ぜひ、裁判ドラマをご覧になって、裁判の今を知っていただけたらと思います。そして、法廷で気候危機に立ち向かう原告・弁護団をご支援いただけますと幸いです。

神戸石炭訴訟では、訴訟サポーターを募集しています。

この記事を書いた人

Yamamoto