はじめまして!6月から気候ネットワークのスタッフになった田中です。

ここ1年ほど、コロナ禍で在宅時間が増えたこともあって、自分の住んでいる地域(兵庫県西宮市)の市政ニュースや県政ニュースをじっくり読む時間が増えました。「実はこんな取り組みをしていたんだ」と気づくことも多くて、最近では西宮市が「ゼロカーボンシティ」を宣言していたと知りました。

地方自治体が「脱石炭」!?

こんなふうに、日本でも地方自治体がそれぞれ温暖化対策に取り組んでいます。気候ネットワークのオフィスがある京都市は、2021年3月に日本で初めて脱石炭国際連盟(Powering Past Coal Alliance, PPCA)に加盟しました。

PPCAとは、国、自治体、企業・組織がメンバーとなり、パリ協定の目標達成に向けて石炭火力発電からの脱却とクリーンなエネルギーへの転換を推し進める国際的な連盟で、41の国、41の地方自治体、59の企業・組織等が加盟しています(2021年9月15日現在)。

石炭火力発電のCO2排出量は天然ガス火力発電の約2倍と、非常に大きいものです。パリ協定の1.5℃目標のためにはすべての化石燃料からの脱却が必要ですが、脱石炭は特に急がれるとの科学者の提言を受けて、世界的な脱石炭連盟ができたのです。

さて、自治体が石炭火力発電からの脱却、つまり石炭火力発電の段階的廃止(石炭フェーズアウト)を促進するとは、具体的にはどう取り組んでいるのでしょうか?

韓国の自治体・忠清南道による脱石炭への挑戦

石炭フェーズアウトに向け意欲的な活動をしている自治体の一つが韓国中部に位置する忠清南道(チュンチョンナムド)。忠清南道はアジアで最初にPPCAに参加した自治体です。ここで忠清南道の取り組みの一部を紹介したいと思います。

韓国で石炭火力発電所を最も多く抱えるまち

忠清南道は、韓国にある石炭火力発電所(60)のうち半数(30)を抱える、国内最大の温室効果ガスを排出する自治体でした。同時に、石炭の燃焼は深刻な大気汚染を引き起こし、忠清南道の住民はより環境にやさしいエネルギーへの転換を強く支持していました(※石炭火力発電所の数は2020年当時のもの)。

石炭火力発電所の閉鎖へ。自治体どうしの連携と国への働きかけ

2017年、忠清南道は「2050エネルギービジョン計画」を発表し、石炭火力発電所の早期閉鎖などを表明しました。

2050エネルギービジョン計画の概要
  • 2026年までに14基の既存の石炭火力発電所の早期閉鎖
  • 再生可能エネルギーによる発電割合を2050年までに7.7%から47.5 %へ引き上げる
  • エネルギー消費を減らす
  • 劇的に大気汚染を緩和する
  • これらの影響を受ける労働者と地域に対しては公正な移行を約束

一方、エネルギー政策は国が権限を持つため、自治体単独で決められるわけではありません。そこで、他の地方自治体と連携し、共同声明の発信や、議員向けワークショップの開催などを通じて、国レベルのアクションへと押し上げていきました。

こうした活動が実を結び、韓国政府は2019年11月、忠清南道で最も古い保寧(Boryeong)石炭火力発電所の1-2基の閉鎖を決定(2020年12月に実際に閉鎖)。地域経済や雇用への影響を最小限にする措置もとられることとなりました。

お金の流れを変える。石炭ダイベストメントへの働きかけ

もう一つの取り組みが、石炭火力発電所へのお金の流れを変えることでした。キーワードは「ダイベストメント」。インベストメント(投資)の反対の意味で、投資撤退のことを表します。

2020年に忠清南道を含む56の地方自治体によるイニシアチブで、自分たちの資金を預ける銀行の選定基準に「石炭からのフェーズアウト」を追加することを宣言しました。石炭火力発電に流れていたかもしれないお金を、これ以上そこに行かないようにする意見表明とも言えます。これは、韓国政府が海外の石炭火力発電所向け投融資への新たな資金援助を止める後押しにもなりました。

国際的な「脱石炭」のネットワークづくり

こうした国内での動きに加えて、忠清南道は国際的なネットワークづくりにも積極的に取り組んでいます。2018年1月にアジアの地方自治体としては初めてPPCAに加盟して以降、脱石炭のための国際会議を主催するなど活動を広げています。

韓国国内では忠清南道を皮切りに、その後7つの地方自治体がPPCAに加盟し、それら地域に点在する石炭火力発電所は韓国国内の約80%になっています。2021年9月には、他の地方自治体と共同で、韓国政府に対してPPCAの加盟や環境にやさしいエネルギーへの転換を求めました。

地域から「脱石炭」を広げ、国を動かす

自治体による石炭フェーズアウトと聞いて想像していた以上に、忠清南道がさまざまな角度から石炭フェーズアウトへの流れを作り、他の自治体へと輪を広げ、国を動かしたことは目から鱗でした。そのきっかけになったのが忠清南道に住む人たちであったことも忘れてはならないですね。

世界に広がるPPCA:脱石炭のトレンド

PPCAはどんどん新たなメンバーが加盟しています。2021年6月には、スペインや、ポーランド国内の自治体や企業など新たに12のメンバーが加わり、世界的な石炭フェーズアウトへの取り組みが進んでいます。

日本でPPCAに加盟しているのはまだ京都市のみなので、これから日本でもPPCAに加盟する地方自治体や企業・組織が増え、再生可能エネルギーへの移行や石炭火力発電からのフェーズアウトが広がっていくことを期待しています。

自治体の動きは私たちの生活に密接に結びついています。忠清南道の事例を見て、自分の住むまちのことが気になった方は、ぜひ、お住まいの自治体が脱石炭に向けてどんな取り組みをしているのかを調べたり、PPCAへの加盟について問い合わせてみてください!

▼参考ウェブページ

South Chungcheong, South Korea

South Korea’s leaders meet to build momentum towards coal phase-out

South Korea’s cities and provinces pave the way for faster coal phase-out

South Korean provinces call on the government to join the PPCA

*これらのページはPPCAのウェブサイトのコンテンツです

この記事を書いた人

Tanaka