台風・豪雨の被害に遭われている皆様に心よりお見舞い申し上げます。
近年の台風や豪雨は、日本各地に甚大な被害をもたらしています。今月のスーパー台風・台風19号では、交通網、住宅、工場、農業などビジネスに破滅的な被害がありました。農林水産関係だけでも、被害総額は1000億円以上。86人にのぼる人命も奪われました。
激化する台風に、「もしや地球温暖化の影響?」との声も聞こえてきます。では、台風と地球温暖化にはどんな関係があるのでしょうか?
台風を短時間で激化させる地球温暖化
今回の台風19号について、研究者が注目したのは、熱帯低気圧からカテゴリー5の猛烈な台風になるまで、たったの24時間しかたっていなかったということです。コロラド州大学のKlotzbach博士によれば、こんな短時間でこんなに台風が強くなったのは、この23年間で初めてのこと。
Source: US Navy Joint Typhoon Warning Center
様々な研究で、台風やハリケーン、サイクロンが、近年、その威力を短時間で急激に増すようになっていることが指摘されています。そして、複数の研究によって、それが地球温暖化と関係することが明らかにされています。地球温暖化が進み、海水温が上昇すれば、それだけ急速に台風の威力が増すことになります。ある研究によれば、現在のところ「100年に1度」レベルの嵐の激化は、2100年までに、「5〜10年に1度」というレベルになる恐れがあるとされています。
今回の台風19号が日本に上陸する数日前からその深刻さが明らかになっていたのは、我々にとって重要なことでした。なぜなら、予め予報をおこない、それを周知し、事前に防災対策をしたり避難したりする時間があったからです(それでも死者が出るのは避けられませんでした)。
しかし、今後地球温暖化が進行すれば、十分な時間的余裕をもって予め台風の上陸を予測し、対策をしておくことが困難になるかもしれないのです。最悪なのは、弱かったはずの嵐が上陸する直前に急速に強い台風に成長するような場合です。そのようなケースでは、自治体も住民も対策や避難ができないまま強烈な台風の直撃を受ける恐れがあります。
風の強さと地球温暖化にも関係が
また、台風19号の極めてひどい強風は、地球温暖化によって世界的に嵐がその強さを増すという傾向に合致するものです。科学者は、地球温暖化がさらに進めば、海面水温の上昇によってスーパー台風がより一層ひどくなると予測しています。
実際、10月上旬、西太平洋の海面温度は、例年よりかなり高い状態にありました。
西太平洋の海面温度(2019年10月6日)
(色は、長期の平均気温との違いを表す。黄色→橙色→赤色となるにつれて、普段よりも高温であることを示す)
(source: Climate Signals, using Nasa data)
気温上昇による台風の強大化を防ぐには、その根本原因である温室効果ガス排出量を急いで減らす必要があります。
国連事務総長、千葉・神奈川の被災者が求める「脱石炭」
国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は、「納税者が一生懸命おさめた何兆ドルもの税金を、ハリケーンを巨大化させ、熱帯病を広め、紛争を激化させるような、死にゆく化石燃料産業に渡すのは終わらせる。そのためにもっと前進する必要がある」と言っています。
日本の私たちは、このメッセージに謙虚に耳を傾けなければなりません。
なぜなら、日本の政府および企業は、地球温暖化の最大の原因である、最も大量のCO2を排出する石炭火力発電所を国内外で未だに増やしているからです。そこには、私たちの税金も使われています。グテーレス氏は、石炭の環境負荷を問題視し、「2020年までに新規の石炭火力を確実になくすために、前進する必要がある」とも話しています。しかし、日本には、2020年以降に完成し、動き出すような石炭火力発電所の新増設計画がいくつもあるのです。
台風19号で被災した千葉や神奈川のある住民グループは、「台風に伴う竜巻被害も甚大で、今までにないような破壊的な事象が身近に起こっていることを目の当たりにしました」、「石炭火力発電所の新規建設を中止するとともに、既存の石炭火力発電所も2030年までに廃止するよう、政策・事業を見直しすることを求めます」との声をあげています。
もっとひどい気候災害が当たり前になる前に
最近、私は自問自答を繰り返しています。
強い台風や豪雨がきて、「温暖化の影響かも?」って言いつつ、石炭火力発電も温室効果ガス排出もそのまま放置するという過ちを、私たちはいつまで続けるのでしょうか?
「実際に被害が出て復興もままならない中、そんなことを言うなんて不謹慎だ」という人もいるかもしれません。しかし、誰もがその被害に関心を向けている今でないと、政治家たちは真剣に受け止めないでしょう。台風が去れば、被害の深刻さも、復興の困難さも、緊急の温暖化対策の必要性も忘れ、すぐに元通りになるでしょう。これまでがそうでした。
国連気候行動サミットでスピーチを行ったグレタ・トゥーンベリさんが話題になっていますが、科学に学び、「気候危機」に向き合うよう呼びかけている将来世代にとって、気候災害は大きな懸念のひとつです。
大量に化石燃料を燃やすことでそのような過酷な運命を次世代に押し付け、このような気候災害の根本の原因に目を向けない政治家は、「不謹慎」というよりもむしろ「無責任」です。今こそ科学的知見に学び、気候災害の根本原因に目を向け、対策を強化する必要があります。
「子供らを被害者に 加害者にもせずに
この街で暮らすため まず何をすべきだろう?」(Mr. Children”タガタメ”)
この記事を書いた人
- 気候ネットワークに所属されていた方々、インターンの方々が執筆者となっております。
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