近年、日本各地でそれぞれの地域の特性を活かして、再生可能エネルギーによる地域づくり、まちづくりに取り組む事例が生まれはじめている。

気候ネットワークでは、各地の先進事例についての調査を継続的に行ってきた。このブログでもこれらの先進事例について紹介していく。第1号となる本稿では、滋賀県湖南市の取り組みを紹介する。

1.湖南市の福祉と環境のまちづくり

滋賀県湖南市とは

湖南市は2004年に旧石部町と旧甲西町が合併してできた滋賀県の自治体である。琵琶湖の南東部に位置し、昔は宿場町として栄えたが、近年は高速インターチェンジの整備に合わせて県内最大の湖南工業団地ができるなど第2次産業が中心に発展してきた。

また日本の障がい者福祉の第一人者であり「社会福祉の父」とも呼ばれる糸賀一雄氏らが設立した近江学園が立地している。近年では乳幼児期から就労期まで一貫して行う発達支援のシステムを全国に先駆けて立ち上げるなどの取り組みを続けている「福祉のまち」として有名である。

市民共同発電所の先駆け

こうした障がい者福祉の流れをくみ、障がい者や高齢者が地域の中で普通に働き、普通に暮らせる共生型の社会を目指して、1981年に「なんてん共働サービス」が溝口弘氏によって創設された。1997年にこの「なんてん共働サービス」の屋根に全国で2例目となる「市民共同発電所」が設置されることになった。

この背景には小規模分散型の自然エネルギーの取り組みが「小規模・地域分散(密着)・双方向」で取り組んできた、なんてん共働サービスの考え方と共通するものであることが分かったことにあった。「てんとうむし1号」(4.35kW)と名付けられた市民共同発電所の設置にあたっては、設備費用400万円の内360万円を一口20万円の出資を募る形で集めた。

出資者には金銭的なメリットはほとんどないものの、COP3開催を目前に控え地球温暖化防止のための機運を高めていく取り組みとして、さらにはドイツなどで行われていた固定価格買取制度の成立を求める運動として理解を集めた。その後2002年にも、2号機となる市民共同発電所「てんとうむし2号」(5.4kW)が、1号と同様に一口10万円で出資を募り湖南市内の施設の屋根に設置されている。

こうした市民共同発電の取り組みは全国的にも注目を集め、滋賀県内、関西、そして全国へと広がりをみせていくことになった。

2.湖南市の自然エネルギーに関する取り組み

(1)コナン市民共同発電プロジェクト

その後しばらく新たな市民共同発電所の建設はなかったが、2011年に採択された「緑の分権改革」事業を契機に、福祉を軸とした地域自立・循環システムの構築に取り組み始める。地域循環システムづくりを推進していく主体として住民を中心とした「こにゃん支え合いプロジェクト推進協議会」を立ち上げ、市は包括的連携協定を結んでいる。この推進協議会の中で具体的な検討が行われ、「市民共同発電所プロジェクト」、「アール・ブリュット福祉ツーリズムプロジェクト」、「コミュニティルネッサンス(特産品開発)プロジェクト」の3つのプロジェクトが進められることになった。

市民共同発電所プロジェクトでは、2011年に制定され2012年7月からスタートする再生可能エネルギーの固定価格買取制度を活かして、事業性を持った地域経済にも寄与するモデルの模索が進められた。

2012年にはプロジェクトを具体化するための主体として「一般社団法人コナン市民共同発電プロジェクト」が設立され、溝口弘氏が代表理事に就任した。コナン市民共同発電プロジェクトは、地域内の公共施設や民間所有施設の屋根を借りて太陽光発電を設置し、そのための資金は市民からの出資によって調達し、配当を地域商品券によって行うことで地域内経済循環に寄与することを目指すモデルとなっている。2013年2月に初号機となるバンバン市民発電所(20.88kW)を、社会福祉法人「オープンスペース れがーと」および「バンバン作業所」の施設に設置した。その資金調達にあたってはトランスバリュー信託株式会社を通じて一口10万円で80口、出資者には元金と配当収入2.0%を加えて20年間にわたり地域商品券で還元する条件で出資募集を行った。その後も同様の手法によって資金調達を行い、現在までに合計4基、約167kWの市民共同発電所が建設されている。

コナン市民共同発電プロジェクトで設置した初号機(出典:筆者撮影)

(2)湖南市地域自然エネルギー基本条例

こうした市民共同発電所プロジェクトを後押ししたのが、固定価格買取制度の成立に合わせ2012年9月に制定された「湖南市地域自然エネルギー基本条例」だ。「自然エネルギーは地域のもの」を基本理念とし、地域の自然エネルギーの活用について、市、事業者および市民の役割を明らかにするとともに、地域が主体となった取り組みによる地域社会の持続的発展に寄与することを目的にした条例である。

条例が制定された背景には、固定価格買取制度の制定によって、特に太陽光発電からの電力を売電することで収益を上げるビジネスが成立するようになったことで、各地で大規模な太陽光発電事業の計画が持ち上がり始めたことにある。こうした大規模な発電事業の主体は多くは首都圏企業であり、これら大企業によるエネルギー事業では、地域固有の資源である再生可能エネルギーを活用したとしても売電収入は地域外に流出することになり、固定資産税を除き地域経済効果がほとんどないことが問題視されるようになっていた。

そこで湖南市では2012年4月に地域エネルギー課を発足させ、外部の専門家等からのアドバイスも受けながら検討を進めた。その後半年にわたって条例案の作成・検討、市の総合政策会議への付議、市議会全員協議会への概要説明、法規審査会、市環境審議会で意見の聴取、パブリックコメント、滋賀県議会温暖化・エネルギー対策特別委員会での報告等を実施した。その後、2012年9月議会に、湖南市地域自然エネルギー基本条例案を提案し、審議を経て、可決・成立した。  湖南市の同条例では、前文で制定理由を明確化し、第1条「条例の目的」で自然エネルギーが地域固有の資源であることを宣言し、第3条「基本理念」で地域経済に寄与する自然エネルギー利用のあり方、その他「市の役割」、「市民の役割」、「事業者の役割」、「連携の推進」などが盛り込まれている。

こうした自然エネルギー利用の考え方を示した条例は全国では初めてで、地域の自然エネルギー利用を先駆的に進めていくための新たな方策として全国からも大きな注目を集めることになった。実際この湖南市の条例制定をきっかけに、その後、再エネ政策推進に関する条例を制定する自治体は増加している。例えば、土佐清水市(高知県)、洲本市(兵庫県)、宝塚市(兵庫県)、湖南市(滋賀県)、新城市(愛知県)、多治見市(岐阜県)、飯田市(長野県)、小田原市(神奈川県)、八丈町(東京都)など、現在20以上の自治体が同様の条例制定を行っている。

3.エネルギーの地産地消により地域内経済循環を生み出す

福祉と環境のまちづくりに取り組む湖南市では、条例に基づき地域を主体にした再生可能エネルギー普及に取り組んでいる。2015年2月に「湖南市地域自然エネルギー地域活性化戦略プラン」を策定し、エネルギー・経済の循環による地域活性化の推進を基本方針に掲げている。さらに2015年10月に策定した総合戦略の中で政策パッケージに位置づけ、地域の自然エネルギーを活用した地域活性化の推進を具体的な施策としている。

こうした地域活性化策として自然エネルギー利用に取り組む中で現在注目を集めているのが、2016年5月に市と民間、商工会で設立した地域電力会社「こなんウルトラパワー」である。「湖南市地域自然エネルギー地域活性化戦略プラン」に掲げる基本方針の実現を事業目的とし、湖南市域におけるスマートエネルギーシステム導入検討事業として具体化が進められ設立された。

事業内容としては、小売電気事業、熱供給及び熱利用事業、新事業やまちづくり事業等地域振興に関する事業を行う。同社は湖南市と包括連携協定を結び、2016年10月から市の60施設への電力供給をスタートさせている。市ではこれにより公共施設の電気代として年間1000万円程度の削減を見込んでいる。電力調達は市内の市民共同発電所や太陽光発電施設を中心に市場調達と常時バックアップを組み合わせて行っており、市内調達分の割合は55%程度になる。

今後は2017年度には供給対象を民間企業に広げるとともにモニター家庭での試験的供給を行い、2018年度から一般家庭への本格販売を実施していく予定だ。また、一般家庭の太陽光発電からの電力買い取り、一般需要家獲得のためのふるさと納税の特典として湖南市産の電力を供給する新たな事業展開や、市民ファンド出資者への電力サービス事業等を予定している。さらには電力供給にとどまらず、事業範囲を地域での雇用が期待できる地域熱供給事業への拡大や地域内外での省エネサービスの展開についても検討されている。

4.まとめ

湖南市では市民共同発電をきかっけに福祉とエネルギーの協働が生まれ、そこから地域づくりへとつながる動きが広がっていった。その背景には、先進的な取り組みを生み出す市民の存在と、それを支え導く行政との支え合い=協働の関係性が見られる。

今後は市民、事業者、企業、金融、大学、行政と、多様な主体による協働のもとでエネルギーと経済を域内で循環させ、地域活性化につなげる自立的なまちづくりが進んでいくことが期待されている。

この記事を書いた人

気候ネットワーク
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気候ネットワークに所属されていた方々、インターンの方々が執筆者となっております。