京都事務所の伊与田です。
2016年4月に電力小売全面自由化がはじまって4ヶ月がたちます。私も、自宅で契約している電力会社を変えました(これからも各社の電力構成をチェックして、自然エネルギーに熱心な会社を探し、いいところがあればふたたび乗り換えたいと思っています)。
私が仕事にしている温暖化やエネルギーの観点からも、そして実際に乗り換えてみた経験からも、電力会社の乗り換えは非常におすすめです。
電力会社の乗り換えをおすすめする5つの理由
1. CO2排出の少ない電力会社を選べば、温暖化防止のチカラになる
化石燃料を燃やす火力発電所は大量のCO2を出します。例えば、日本で最も多くのCO2を出している中部電力碧南火力発電所の排出量は、なんと、年間2381万トンにもなるのです!ここは大規模で、CO2排出の多い石炭が燃料なので数字が非常に大きくなっています(もちろん他の火力発電所も碧南ほどではないですがたくさんCO2出してます)。
この数字、ピンとこない方もおられるかもしれませんが、日本の一般家庭のCO2排出量(平均)は、一世帯あたり5トンです。つまり、碧南の石炭火力発電所だけで日本の一般家庭476万世帯ぶんのCO2を排出している計算です。こうやって比べると、火力発電所の排出量がいかにおそろしい量なのか、おわかり頂けるかと思います。
しかも、今、日本には48基もの石炭火力発電所の新増設計画があります。計画どおりすべての石炭発電所が稼働すれば、年間約1億3700万トンものCO2が追加的に排出されるおそれがあります。これは一般家庭2740万世帯のCO2排出量に相当する、途方もない量です。
はっきり言いますけど、コンセントのこちら側の努力だけでは、CO2大幅削減は無理です。「コンセントのこちら側」の節電に加えて、「コンセントの向こう側」の対策が必要なのです。そのためには、石炭で電気をつくってしまうような電力会社ではなく、再エネ中心の電力会社を応援することが必要です。
ちなみに、「CO2の少ない電力会社を選びましょう」と言ってるのは別に私だけではありません。今年政府が発表した環境白書も、家庭ではCO2の少ない電力会社を選ぶよう呼びかけています。
関連記事:パリ協定採択から半年ー最新の環境白書が示す気候変動対策の課題
2. 原発を使わない電力会社を応援すれば、脱原発の流れを加速できる
言うまでもなく、原発には深刻な事故リスク、放射性廃棄物、社会的コストの問題があります。東京電力福島第一原子力発電所事故は未だに収束のめどはたっていません。今でも大勢の方が避難しておられます。各地の原発周辺地域の避難計画も十分整備されていません。3.11から現在に至るまでの世論調査の結果を見れば、脱原発を支持する国民が多数派です。
原発は発電時にCO2を出さないので温暖化対策になると主張する人もいます。しかし、原発なしでCO2は減らせます。実際、環境省が発表したデータによれば、原発利用率がゼロになった2014年度、日本のCO2排出量は前年から減りました(排出量の減少はリーマン・ショック以降初めて)。これは省エネの進展と再エネの伸び等によるものです。進めるべきは原発ではなく、省エネと再エネです。
市民社会は、原発も温暖化もない未来を望んでいます。原発を再稼働したいとか、原発を新しくつくりたいとか言っておられる電力会社とは早いところ縁を切った方がいいと思います。
おかしなことに、「温暖化対策のために原発が必要」と言ってる電力会社が、化石燃料の中でも一番CO2の多い石炭火力発電所をあちこちに新しく造ろうとしてるんですよね…。
3.再生可能エネルギー100%を応援できる
民主党政権下で2012年からはじまった再生可能エネルギー電力の固定価格買取制度(FIT)によって、日本でも太陽光を中心に再エネが伸び始めました。しかし、めざすべき「再エネ100%」にはまだまだです。特に、世界では有力な再エネである風力発電の導入量は、日本はG7中最下位なのが残念なところです。
ここはひとつ、消費者である私たちも再エネに積極的な電力会社を選びましょう!
原発も温暖化もない、再エネ100%社会へ
持続可能で公平な社会を築くには、再エネ100%をめざしていく必要があると思っています。
- 再エネ100%社会は、発電時のCO2排出がゼロですので、危険な温暖化を防止することにつながります。異常気象や海面上昇などの危機にさらされている人々の暮らしをまもることになります。また、急速な気温上昇で危機にさらされているサンゴなど、かけがえのない自然環境、生態系をまもることにもなるのです。
関連記事:海での温暖化現象:グレートバリアリーフの危機的状況 オーストラリア政府の対策はホントに大丈夫?
- 再エネ100%社会となってすべての原発の廃炉が済めば、事故リスクもなく、放射性廃棄物を新たに排出することもありません(すでにある核のごみの処理が必要なのは変わりませんが)。
- また、再エネ100%社会になれば、当然、石炭火力発電にともなって排出される硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、ばいじん、PM2.5、水銀といった汚染物質の大気中濃度が減ります。そうなれば、人々の健康リスクを減らすこともできます。
- 再エネ100%社会は、化石燃料やウランの調達のための燃料費がいらないので低コストです。それに自然エネルギー関連産業の成長によって、既存の化石燃料や原発産業よりも多数の雇用が見込めます(実際、ドイツではそうなっています)。なお、日経の報道によれば、2014年の日本の環境産業の市場規模は約105兆円、雇用者数は256万人を超えたとのデータを環境省がとりまとめたそうです。
先ほど、コンセントの向こう側で石炭発電が増えたらCO2がぐっと増えると書きましたが、逆に言えば、電力会社が自然エネルギーに切り替えたら、家庭のCO2排出量を大幅削減できます。家庭のCO2排出の約5割が電気由来ですから、コンセントの向こう側が変われば、家庭の総CO2排出量は半減します。
4. 電気代が安くなるかもしれない
電気使用量や契約プランにもよりますが、電力会社を切り替えれば電気代が安くなる可能性があります(高くなる場合もあります)。ふつうの多くの人にとっては、これは電力会社乗り換えの最大の理由になるでしょう。
え?単価が安いからって電気をたくさん使ったら良くないんちゃうのって?
まさにその通りです。そもそも、電気というエネルギーは、他の形で存在したエネルギーを(ムダを出しつつ)電気という形に変えた、貴重なものです。その点を考えても、電気をたくさん使えば使うほど割安になる料金プランが打ち出されている現状は極めて問題です。これでは、省エネ・節電を進める流れに逆行してしまいます。
逆に、単なる値段だけではなく、電気の「質」に着目する人もいます。「再エネ電気なら、多少高くても買います」という人は増えています。私も、多少単価が高くても、再エネの電気を買おうと思います。
参考:「少し高くても自然エネルギーを選びたい」パワーシフト宣言3600人の声
電力会社の切り替え+さらなる節電=電気代が安くなる!
むしろ電力会社の切り替えをきっかけに、さらにもう一歩節電を進める余地がないか考えてみたいと思います。例えば、照明や家電製品の買い替えのとき、最高の省エネ性能のものを選べば、相当の節電と電気代節約が可能です。例えば、家庭の中でも電力消費の多い冷蔵庫。2007年製の冷蔵庫(年間電気代=15,230円)を2015年製の冷蔵庫(同=6,700円)に変えれば、年間で1万円近く電気代が節約できますし、省エネ・CO2削減も大きく進みます。
5. 切り替えは意外に簡単
どうやって電力会社を選ぼうか?
「たくさんある電力会社から選ぶのが大変」、「手続きが面倒」という声も聞きます。たしかに私もどこにしようか、どんな手続きが必要かというので躊躇しました。でも、安心してください、簡単ですよ。
私は、自然エネルギー中心の電力会社を応援する「パワーシフトキャンペーン」のウェブサイトを参考に、各社のウェブページを見比べて選びました。パワーシフトで紹介されているどの会社の自然エネルギーも発展途上ではあるのですが、原発と石炭発電をガンガン進めている関西電力さんよりはクリーンだと思っています。
手続きはびっくりするほど簡単
企業によって少し違いがあるかもしれませんが、私の選んだ電力会社の場合、インターネットで必要事項を入力し、クレジットカード支払いの設定をしただけ。もちろん約款などは確認する必要がありますが、手元に過去の検針票(あるいはオンライン明細)があれば、申込み手続き自体は5分でできます(これまで契約していた電力会社への解約申込みは必要はありません)。
え?これだけでええの?と思いましたが、申し込みの後、数週間くらいで契約変更の通知はがきが来て、期日になれば自然と契約が切り替わってました。携帯電話会社の切り替えより簡単ですね。
*住んでいる地域や企業によってはもう少し時間がかかったり、もう少し複雑な手続きが必要な場合もあります。詳細はご自宅の地域でサービスを行っている電力会社にお問合せください。
結論:電力会社を乗り換えよう。
そんなわけで、私としては、新しい電力会社を選ぶことを全力でおすすめしたいと思います。理想の選択肢がないため躊躇されている方もいらっしゃいますが、少なくとも原発かつ石炭火力を推進し、温暖化対策に後ろ向きな既存の電力会社よりはクリーンだと思います。既存の電力会社も新しい電力会社も、市民の声を聞いて再エネ100%をめざす決断をしてほしいと思います。
個人的には、再エネを頑張りたい新電力会社を勢いづかせるために、まずは乗り換えをしてみることが大切なのではないかと思います。ずっと様子見していると、「消費者は電力会社を乗り換える気がない」という風に市場に受け取られ、新電力会社の再エネ投資の判断が慎重になってしまうかもしれません。もっと大勢の人が再エネ普及を求めて乗り換えれば、電力会社間の再エネ100%への競争を促すことができるんじゃないかと思っています。
さあ、この夏、あなたも電力会社を乗り換えましょう!
余談:ガス会社が石炭火力発電!?
多くの人が電力会社乗り換えの選択肢に入れているであろう、大手ガス会社の話です。東京ガスや大阪ガスは、これまで「ガスは(他の化石燃料よりも)クリーンなエネルギー」と宣伝してきたはずなのに、電力自由化をにらみ、ダーティな石炭火力発電に手を染めようとしています。
パワーシフトキャンペーンではこれを問題視し、東京ガス、大阪ガスに対して、石炭発電をやめるよう訴えるアクションを展開しています。みなさんもぜひアクションに参加してください。
参考ページ
デンキを選べば社会が変わる!パワーシフトキャンペーン
再生可能エネルギー中心の電力会社を選ぶよう呼びかける市民によるキャンペーンです。原発や化石燃料から再エネへの「パワーシフト」な電力会社を順次紹介しています。
レポート「日本の温室効果ガス排出の実態 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度による2012年度データ分析」(2015年10月19日)
本文で紹介した碧南火力発電所の排出データの出典はこちらのレポートです。レポートの5ページ目に日本で最も排出量の多い30事業所のランキングが掲載されています。
資源エネルギー庁『省エネ性能カタログ2016夏』
家電製品の省エネがどこまで進んでいるのか?どれだけのCO2排出を減らせるか?どれだけ電気代を節約できるか?について考えることのできる冊子です。
この記事を書いた人
- 気候ネットワークに所属されていた方々、インターンの方々が執筆者となっております。
最新の投稿
- 活動報告2024年12月16日誰もが気になるアメリカの動向への対応
- インターンの声2024年11月6日【後編】気候ネットワーク国際交渉担当の職員に聞く!- 気候ネットワークの役割と日本への期待 -
- インターンの声2024年11月6日【前編】気候ネットワーク国際交渉担当の職員に聞く!- COP28の成果とCOP29への期待 -
- インターンの声2024年8月28日自然エネルギー学校・京都2024第2回開催報告