こんにちは、京都スタッフの広瀬です。
11月に全国小水力発電大会が京都で開催され、エクスカーションに参加しました。奈良コースで体験し、学んだことや、地域の人々によって復活したつくばね発電所の取組を紹介します。
「つくばね発電所」の始まり
面積の95%以上を森林が占めている奈良県吉野郡東吉野村では、1914年(大正3年)から約50年間水力発電事業が行われていました。地域に電力を供給するために、家庭や製材業に売電したのは、小水力発電「つくばね発電所」でした。
東京の都心部に電灯がほぼ完全普及したのは大正元年頃だと言われているので、東吉野村での発電事業が当時の先進的な事例であったことが分かります。
水の神様がいる丹生川上(にうかわかみ)神社で地域の歴史と人々の思いを知る
近鉄大和八木駅から約1時間マイクロバスに揺られて最初の目的地、丹⽣川上神社に到着すると、つくばね発電所を案内いただく東吉野水力発電株式会社のスタッフの大谷さんや関係者の方々が、私たちを迎えてくださいました。
丹⽣川上神社は水の神様が祀られており、中社に祀られている大きな祈雨止雨祈願絵馬は、昭和38年、黒部ダム竣工を記念し、東京電力株式会社、関西電力株式会社より奉納されたとのこと。地域を支えてきた小水力発電を稼働させるために、水は貴重な資源だったため、雨乞いには黒馬を、雨止めには白馬が献上されたとのことでした。
神社の見学後、境内では、東吉野水力発電株式会社、社長の森田康照さんからお話を伺うことができました。
森田さんのお話からは、復活したつくばね発電所の事業が次の世代の人々に引き継がれながら地域を豊かにしてほしいと願っていること、地域の未来に期待していること、そして、仲間の大切さや復活に協力された方々への感謝の気持ち、地域を愛する気持ちが力強く伝わってきました。
東吉野村のコミュニティの場となってきた神社での見学や交流は、小水力発電の歴史や地域の方々の思いを知る貴重な機会となりました。
取水施設で観た自然と人が共存する光景
次に、小水力発電には欠かせない取水施設へ移動しました。つくばね発電所横に流れている日裏川から1.4キロメートル上流にある取水口には、秋が深まる11月ということもあり、色とりどりの落葉が透き通った水面に浮かんでいました。発電所を保守管理されている大谷さんは、取水口に溜まる落葉が水をせき止めないよう、毎日欠かさず除去作業を行っているとのこと。自然相手の大変な作業には違いないのですが、人と自然が重なり合った美しい光景に見えました。今年(2022年)に話題になった映画ヴェンデで、その美しさがありのまま、表現されていたことを思い出しました。しかし、天候は穏やかな日ばかりではありません。特に台風シーズンには、設備を守るため、やむを得ず発電を停止して対策されることがあるそうです。2017年の台風による豪雨の影響では、取水口に大きな被害が発生し、取水口から沈砂地タンクまでの用水路が土砂で完全に埋まり、約1週間発電が停止してしまったことがあったそうです。沈砂池タンク内の土砂を排出する作業を協議会メンバーの方や関係者の皆さんが行われたとのこと。日々、自然と共存する苦労を改めて知ることになりました。
復活までのプロセスと発電技術を学ぶ
東吉野村は林業の衰退などで過疎化が進み、1960年代に約8000人だった村の人口は、2010年代には2000人以下に減少しました。そこで、2013年、地元有志者らが村の活性化を目指し、 「つくばね発電所」の復活プロジェクトを開始することになりました。その後、「東吉野村小水力利用推進協議会」と「株式会社CWS(ならコープグループ)」の共同出資により「東吉野水力発電株式会社」を設立。金融機関からの借入と市民ファンドにより資金を調達し、2017年より発電を開始しました。発電所の管理・運営は「東吉野水力発電株式会社」が行い、現在もFIT(再生可能エネルギー固定価格買い取り制度)を活用した売電事業を行っています。FITで売電された電気は、ならコープの新電力会社、「株式会社CWS」で特定卸供給を行い、電気を顧客に供給されることで再エネ比率を高めるとともに、エネルギーの地産地消を実現しています。
つくばね発電所の年間発電量は、62万4000kWh、173世帯分の電気使用量を賄っています。発電施設内で仕組みと技術を学びました。
取水口から取り込んだ水は、導水路、ヘッドタンクを経て有効落差105メートルの水流を利用して発電します。水量は毎秒0.1立方メートルで、小容量の水流でも効率よく発電できるクロスフロー式水車が発電するという仕組みです。
導水路は大正時代に築かれた旧設備を最大限活用して配管を更新、発電設備は現代の技術が力を発揮し、昔の約2倍の最大出力82kWの発電ができる設備となっています。
水路工事の際には大正時代、高価だったコンクリートを有効に使うため、平らな野石を集めて導水路の蓋が造られた跡が見られたとのこと。先人の工夫や苦労が伝わってきました。
売電収益を運用した地域を豊かにする取組
売電で得た収益約2,000万円は基金運用され、東吉野村の林業の活性化や環境教育と交流の場づくり、地元の様々な活動に役立てられています。
つくばね発電所の事務所で運営されている「つくばねっ子村」で、ランチをいただきながら、その様子を見学させていただきました。
東吉野村は「生き生きと笑顔あふれる村」となることを推進し、地域を豊かにするための取組を行っていて、その一つが、発電事務所を拠点に活動している ⼦ども⾷堂「つくばねっこ村」です。2019年から営業を開始し、移住者や村⺠が出会う新たな場づくりを目的に運営されているそうです。
昼食をお世話になった子ども食堂の運営者でもある小嶋さんから、子ども食堂を起ち上げたきっかけや、設備環境を整えるまでの試行錯誤などが伝えられました。Q&Aで紹介します。
Q.小嶋さんは、もともとこの地域にいらっしゃったのですか?
A.関東からの移住者です。東吉野村の水がきれいだったので、ここに住むことにしました。
Q.子ども食堂を起ち上げられたきっかけは?
A.自然豊かな場所でありながら、外遊びする子どもが少なく、コロナ禍で交流が途絶えそうだと感じていました。少しでも地域を元気にしたいという思いで、子ども食堂を起ち上げました。子ども食堂では、四季折々のイベントを企画したり、夏は子どもが川遊びできるお手伝いをしたり、使わなくなったものを必要な人に渡す場となったり、子どももおとなも交流できる場所になっています。
Q.子ども食堂の設備はどのように整えられましたか?
A.シンクなどは新たに調達せず、地域で取り壊される空き家から提供いただき、地域の方々に移動の協力をしてもらい、キッチンが完成しました。古いシンクは子どもたちがピカピカに磨き上げ、壁や天井等は地域の方がDIYでリフォームしました。取り壊される古民家からは、まだ使える吉野杉を使った廃材が沢山出てきて、それを集めてリユースする活動を行うことにもつながっりました。
東吉野村では、このほかにも発電所周辺の⼭林を発電事業収益で購⼊し、広葉樹も交えた新たな森作りの取り組みを始めるなど、発電所が起点となった村づくりの新たな事業もスタートしています。
東吉野村小水力利用推進協議会の方からは、次のような印象深いお話をいただきました。
「小水力の活動がきっかけで、気候変動問題やエネルギー問題が重要なことだと気づいた。将来世代が希望をもって生きていける社会づくりに貢献できるのであれば、この経験を他地域へ広げるためのお手伝いをしたい。」
つくばね発電所の取組が、地域に雇用を生み出し、若い世代が移住するきっかけとなり、地域全体が、元気になっている様子が伝わります。地域の方々の表情は、希望に満ち溢れていました。
エネルギーの地産地消が産み出すもの
小水力発電は、川に流れる水を使用するため、CO2や廃棄物を出しません。燃料も不要で、純国産エネルギーとして活用できます。又、太陽光や風力発電とは異なり、季節、時間帯によらず24時間安定的に発電することができる利点があります。作り出したエネルギーを売電すればその収益を地域が得ることになります。
日本は雨量が多く急勾配の河川が多いため、水力発電に適している場所が多くあります。また大型の水力発電所を設置するためには貯水のための大規模なダムを建設する必要がありますが、小水力発電であれば、その必要がありません。
東吉野村に流れてくる水源となっている大台ケ原の嶺続き山脈は、屋久島に並んで日本で最も雨量が多い地域です。その特性を活かしたつくばね発電所は当時の地域経済を支え、伝統文化を築くプロセスの中で大きな役割を担ったことに違いないでしょう。脱炭素社会を目指す現代のつくばね発電所も、単に発電施設としてだけではなく、電力自給自足の村となり、一般材木・良質材木の販売促進や定住促進・雇用の創出を着実に実現し、中山間地活性化のモデルを導き出しています。東吉野村のような事例をヒントに多くの地域で魅力あるエネルギーの地産地消が実現されていくことを願っています。私も、気候ネットワークで取り組む気候アクションに活かしていきたいです。
気候ネットワークのニュースレター148号にて、三重コース、福井コースのエクスカーション報告が掲載されていますので、是非ご覧ください。
※ご参考(つくばね発電所が取り上げられたイベントと、映画の紹介)
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