注目が高まる菜食メニュー

最近、レストランの「ヴィーガンメニュー」や、スーパーやコンビニで売られている「大豆ミート食品」を目にする機会が増えてきました。

ヴィーガンとは、動物性の食品をいっさい口にしない完全菜食主義のこと(注1)。欧米を中心に海外では、健康や美容、そして地球環境のためにライフスタイルに取り入れる人が増えており、日本でも少しずつ注目されるようになっています。

【注1】
ヴィーガンは、できる限り動物を搾取しない動物福祉の考えに基づいたライフスタイルで、動物性食品だけでなく、革製品や毛皮、動物実験を伴う化粧品などの利用を避けることも含みます。

ヴィーガンへの関心の高まりとともに、最近増えてきたのが大豆ミート食品。豆腐や味噌、豆乳など、植物性タンパク質が豊富な大豆製品は、健康志向の高まりで以前から注目されてきました。大豆ミート食品はそこからさらに進化し、大豆の味付けや加工を工夫することで、本物の肉と変わらない味や食感、見た目を実現した製品です。

スーパーやコンビニでも増えてきた大豆ミート食品。写真は筆者が試してみた大豆ミートのメンチカツと餃子。味も食感も、肉入りの本物とほとんど変わりません。大豆ミートだと言われなければ、本物の肉と区別がつかないほどです。

米国の人気レシピサイトが牛肉レシピ掲載を停止

ヴィーガンや大豆ミート食品が注目される背景の一つには、肉食や畜産業が地球環境に与える影響への懸念が高まっていることがあります。なかでも、牛肉の生産増大は気候危機の主要な原因の一つとして問題視されています。米国の人気レシピサイト「Epicurious」は今年、気候変動を加速させる牛肉を使った料理は持続可能でないとして、今後は牛肉レシピを掲載しないと宣言しました。

2019年、小泉環境大臣が国連気候行動サミットのため訪問したニューヨークで牛肉のステーキを食べ、「毎日でも食べたい」と発言し、国内外から批判されたのを覚えている方も多いのではないでしょうか。この出来事をきっかけに、日本でも気候変動と牛肉の関係が以前よりも知られるようになりました。

食肉の大量消費と気候変動

私たちが食べる肉は、どの程度、気候変動と関係しているのでしょうか。

食肉となる牛や豚などを育てる畜産業は、毎年CO2換算で71億トンの温室効果ガスを排出しており、世界の温室効果ガス排出量の約14%を占めています。実は畜産業は、飛行機や自動車など全世界の乗り物と同等以上の量の温室効果ガスを排出しているのです。

畜産業が排出する温室効果ガスの多くは、家畜の消化活動から生まれます。家畜がエサを消化するときに出るげっぷやおならに含まれるメタンガスには、CO2の20倍以上の温室効果があります。さらに家畜の排せつ物からも、メタンガスよりさらに温室効果が高い亜酸化窒素が生じます。

家畜のなかでも特に温室効果ガス排出が多いのが牛で、肉牛と乳牛を合わせて、畜産業からの排出の約61%を占めています。牛肉は1㎏あたり、CO2換算で23㎏の温室効果ガスを排出します。豚肉の場合は1㎏あたり7.8㎏、鶏肉は4㎏程度の排出とされています(注2)。

【注2】 東京新聞(2020年7月28日)で紹介された宇都宮大の菱沼竜男准教授(農業環境工学)による計算。食肉生産からの温室効果ガス排出量の計算については様々なモデルがあるが、いずれの場合も、同じ量の食肉を生産する際に、牛肉は豚肉の4倍、鶏肉の10倍以上の温室効果ガスを排出するとされる。ただし、同じ牛肉や豚肉でも生産方法や生産地の違いによって排出量が異なる。

畜産と環境破壊

温室効果ガスの排出のほかにも、大量生産のための工業型畜産は環境や地域社会に様々な悪影響を与えています。世界的な食肉の需要増加に合わせて牧草地を広げるための森林伐採は、CO2を吸収する自然の回復力を奪っています。

牧草地や飼料生産地の拡大は、熱帯地域の森で昔からの生活を営む住民から土地を収奪し、野生生物の生息域を奪うことで生物多様性を劣化させています。ほかにも、家畜の飼料生産が消費する大量の水や、家畜の排せつ物による水質汚染、家畜から人への伝染病のリスク拡大、抗生物質やホルモン剤の過剰使用、大量生産のための飼育環境が家畜与える苦痛などが問題視されています。

まだ大きな食肉消費の格差 ~先進国は食肉消費を半分に減らすべき~

世界人口の増加や、新興国の人々の所得上昇により、食肉の需要は拡大し続けています。世界の肉の消費量は、過去20年で2倍以上に増加し、2018年に3億2000万トンに達しました。2028年までに、世界の肉の消費はさらに13%増加すると予測されています。

他方で、食肉の消費量には国によって大きな格差が存在します。1人当たり平均の年間食肉消費量は、米国とオーストラリアでは100㎏以上、ドイツでは60㎏、日本では31㎏、アフリカ諸国では17㎏ほどです。アフリカ諸国では今後、食肉需要の急増が予測されていますが、増加のほとんどは人口増加によるもので、1人当たりの消費量は今後10年で0.5㎏しか増えないと見られています。途上国では今も多くの人にとって、肉は高価なぜいたく品です。

表の縦軸は食肉消費量、横軸は国別の平均所得。豊かな国と貧しい国では、食肉消費量にも大きな差が存在します。 出典:”Meat Atlas 2021: Facts and Figures about the Animals We Eat,” https://eu.boell.org/en/MeatAtlas

肉の大量消費が地球環境に与える負荷の大きさを考えると、世界全体の食肉消費量をこれ以上増やすことは持続可能ではありません。環境NGOのグリーンピースの分析では、地球温暖化をパリ協定の目標である1.5℃に抑えるには、現在の肉や乳製品の消費を、世界平均で今の半分にする必要があるとされています。一方で、生活が貧しく、肉をほとんど食べることができていない途上国の人々にも、より豊かな暮らしを獲得し、必要な量の肉を食べる権利があります。そうだとすれば、肉を大量に消費している先進国の人々が、肉を食べる量を現在の半分以下に減らすしかありません※。

※日本の食肉消費量は米国の約半分である一方、主食であるコメを生産する水田からメタンガスが排出されるという問題もあります。どの国も一律に食肉の消費を減らすのが正解とは限らず、それぞれの地域に適した方法で持続可能な食生活・食糧生産を考える必要がありそうです。

ヴィーガンにはなれなくても、できることはたくさん

日本の人々は欧米諸国ほど食肉の消費が多くはありませんが、食生活の欧米化が指摘されるなど、伝統的な食文化と比べると多くの食肉を消費するようになっています。食肉消費量を抑えていく余地は十分にあると言えるでしょう。また、欧米の人々に対して食肉消費を減らすよう求めていくこともできます。

とは言え、慣れ親しんできた食生活を今すぐ変えるというのは、多くの人にとってハードルが高いのも事実。地球環境や健康に良いと言われるヴィーガンに関心があっても、それを自ら取り入れることには抵抗を感じる人も少なくないでしょう。

ですが、ヴィーガンにはなれなくても、今より少しだけ食肉の消費を減らして菜食中心の食事を目指すという方法でも効果はあります。例えば、週に1日は肉を食べない日にしてみたり、環境負荷が大きな牛肉よりも、負荷の少ない鶏肉を選ぶのはどうでしょうか。普段は菜食中心で、友人との外食の際は肉や魚を食べるといった柔軟なベジタリアンスタイルを取り入れる人は、「フレキシタリアン」や「ゆるベジタリアン」とも呼ばれ、その人数も増えてきています。

「ミートフリーマンデー」(Meat Free Monday)は、元Beatlesのポール・マッカートニーが提唱した、毎週月曜日は肉食を控えようというキャンペーン。無理なく食肉消費を減らす取り組みとして広がっており、日本でも東京都庁の職員食堂などで導入されています。

欧米や中国では、約6~7割の人が気候変動対策のために食肉の消費を控えたことがあり、8~9割の人が食肉消費を減らすことに関心を持っているそうです。
出典:”Meat Atlas 2021: Facts and Figures about the Animals We Eat,” https://eu.boell.org/en/MeatAtlas

持続可能な食料生産への挑戦

温室効果ガス排出を減らし、食料生産を持続可能にするためには、消費者だけでなく生産者も努力する必要があります。国連食糧農業機関(FAO)は、一部の畜産農家によって取り入れられている既存の方法を採用するだけでも、畜産業による温室効果ガス排出を最大30%削減できると指摘しています。その方法には、家畜のエサを消化時に温室効果ガスを生じさせにくいものに変更すること、消化器官からの温室効果ガス発生量が少ない種類の牛を飼育すること、家畜の健康管理を改善すること、家畜の排せつ物を適切に処理することなどが含まれます。消費者が食肉の生産現場に関心を持ち、食肉の消費を減らしたり、適切な方法で生産された食肉を選んだりすることは、畜産業の改善を後押しすることにもつながります。

さらに欧州では、食肉の消費量を抑えるために、食肉への特別な課税である「肉税」(Meat Tax)を導入する検討が進んでいます。肉税の議論が先行してきたデンマーク、スウェーデン、ドイツに加え、今年はイギリスでも肉税導入の検討が始まりました。

非営利団体のTAPP Coalitionが2020年にフランス、ドイツ、オランダで実施した肉税に関する意識調査では、回答者の12%が肉税導入に反対した一方、55%が肉税導入に賛成しています。

オックスフォード大学の研究チームが2016年に行った試算によると、世界各国で平均して、食肉の価格が牛肉で40%、ラム肉で15%、鶏肉で8.5%、豚肉で7%、鶏卵で5%、それぞれ上昇するよう課税すれば、年間10億トンの温室効果ガスを削減できるとされています。

一方、生活必需品である食肉への課税は、低所得者ほど重い負担となってしまいます。そのため、食肉への課税と同時に、植物性の食品への減税や持続可能な食料生産への支援も含め、慎重な議論が求められます。

欧州などでは今後、肉税導入に向けた議論が本格化していくと考えられます。自分自身の食生活の見直しに加え、私たちの食生活や畜産業をより持続可能なものにするために社会でどのような取り組みが必要か、国としてどのような政策が必要なのか、これからの動きに注目しましょう。

スーパーのマルエツで売っていたミンチタイプの大豆ミートで麻婆豆腐を作ってみました。大豆ミートは味の濃い中華料理に向いていると思います。

<参考資料>

FAO [2013] “Tackling Climate Change Through Livestock: A Global Assessment of Emissions and Mitigation Opportunities,” http://www.fao.org/3/i3437e/i3437e.pdf

FAO “Key facts and findings,” http://www.fao.org/news/story/en/item/197623/icode/

Heinrich-Böll-Stiftung, Friends of the Earth Europe, and BUND [2021] ”Meat Atlas 2021: Facts and Figures about the Animals We Eat,” https://eu.boell.org/en/MeatAtlas

グリーンピース・ジャパン [2021年7月5日]「牛のゲップだけじゃない。肉の大量消費が引き起こす10の環境問題まとめ」https://www.greenpeace.org/japan/sustainable/story/2021/07/05/52110/

週刊エシカルフードニュース(2021年3月10日)「『肉税』に賛成?反対?欧州での議論を追う」https://www.ethicalfood.online/2021/03/101805.html

週刊エシカルフードニュース(2021年11月15日)「肉税騒動で揺れるイギリス 国境炭素税の導入はあり得るのか」https://www.ethicalfood.online/2021/11/151339.html

東京新聞(2020年7月28日)「バカにできない?肉の生産で出る温室効果ガス」https://www.tokyo-np.co.jp/article/45380

この記事を書いた人

森山 拓也
森山 拓也
気候ネットワーク東京事務所職員。