東京事務所の鈴木です。
2016年に、世界遺産グレートバリアリーフのサンゴ礁の白化現象が大きな話題となりました。その後も、毎年夏になると海水温の上昇などによるサンゴ礁の被害が報道されています。引き続き危機的状況にあることが調査研究によって明らかとなっています。
グレートバリアリーフの被害状況:最新の調査から
2016年はサンゴ礁群の約3割が死滅
世界的なサンゴの白化現象は、1998年と2002年にも発生していましたが、2016年の被害が突出していました。2018年4月に科学誌natureに掲載された論文には、2016年の記録的な熱波が、これまで考えられていたより広範囲に及んでいると述べられています。2016年にかつてないほどの壊滅的被害を受けたグレートバリアリーフのサンゴの白化現象は、リーフに生息していた3,863ものサンゴ礁群の29%を死滅させました。サンゴ礁の回復には時間がかかりますし、熱帯の海の生態系にどのような影響をもたらすかが懸念されています。
世界気象機関(WMO)によれば、人間による化石燃料燃焼・CO2排出等の影響で、2016年の地球平均気温は、産業革命前と比べて1.1℃高かったそうです。さらに温暖化が進み、地球の温度が2℃以上上昇した場合、熱帯の海が海洋生物を育む力が損なわれ、結果として海洋全体の生態系に大きな影響をもたらすと警告を発している研究者は少なくありません。
オーストラリアのジェームズ・クック大学(James Cook University)を拠点とするサンゴ礁研究センターのTerry Hyghes所長は、「グレートバリアリーフでは2016年3~11月の9カ月間で約30%のサンゴが死滅した」と発表しています。Hyghes氏の研究チームは、2016年に海水温が上昇してサンゴに共生する褐虫藻が抜け出してしまい、サンゴが白化する現象が観察された後、人工衛星を使って2,300キロにおよぶグレートバリアリーフの被害状況を観測しました。上空からの観測により、2016年の3月から4月の間に白化現象が広域で生じていることがわかりました。
熱波による白化現象が、サンゴの大量死につながった
また、同チームは高温による被害の詳細を見るため、同年3月と4月、さらに8ヶ月後により広範囲な海中調査も行いました。その結果、特に海水温が高かった北部での被害が大きく、約3分の1が熱波襲来から間もなく死滅。他の海域では、褐虫藻に去られたサンゴがゆっくりと死滅していたこと、サンゴの中でも枝状やテーブル状など複雑な形を形成する比較的成長の早い種の被害がひどかったことなどがわかったのです。研究チームは、熱波による白化現象が、サンゴの大量死につながったと結論付けています。
サンゴの大量死は、多様性に富んだサンゴ礁を劇的に変化させました。現在、海水温の上昇を耐え抜いたサンゴが生き残っています。多くの種が失われ、サンゴ自体の多様性が乏しくなってしまっただけでなく、そこに生息する海洋生物に多大な影響を与えているのです。
サンゴ礁の未来
グレートバリアリーフ以外の海域のサンゴ礁が同じような惨状に陥るか、海水温の上昇に適応して生き残るかは、わかりません。サンゴの適応力は固有種の生活史や熱耐性、生息する環境によって異なるからです。地球温暖化は明らかにサンゴ礁にとって「ストレス」ですが、新しい環境に順応しているサンゴがいることも立証されつつあります。一方で、海水温が極端に上昇する頻度はかつてより高くなっているだけでなく、海洋の酸性化や海面上昇といった別のストレスもサンゴの生息・回復に影響をおよぼしています。
リーフの約3分の1が白化してしまったほどの2016年に白化を免れたサンゴはわずか10%にも届きませんでした。以前の海水温上昇時に生じた大規模白化での際に40%以上が免れたのと比べても被害の大きさが明らかです。それでも、生き残ったサンゴは温度耐性が高いなど、死滅した種に比べて温暖化に強い種であるとも言えます。残ったサンゴを早急に保護し、サンゴ礁の回復を図らなければなりません。
グレートバリアリーフは、熱帯サンゴ礁での温暖化被害の象徴にすぎません。その他のさまざまな海域のサンゴは、表面的に見えない水中下で、じわじわと、しかし着実に温暖化の脅威にさらされています。だんだんと上昇する海水温からサンゴ礁を守り、最大限回復させるためには、温暖化を抑制するべく、温室効果ガスの削減に取り組むといった統括的な管理と、サンゴの植付による再生の促進のような地域の管理の両方が不可欠です。
オーストラリア政府の取り組み
最後に、オーストラリア政府のグレートバリアリーフ保護の取り組みを紹介しておきます。研究結果を受け、2018年4月28日、オーストラリア政府は、気候変動の影響からグレートバリアリーフを守るために新たに5億豪ドル(約413億円)を拠出すると発表しました。この予算案はグレートバリアリーフの保護に対する支出としては過去最大です。その後の5月9日、情報サイトCNETが、オーストラリア政府の2018年度予算にグレートバリアリーフ研究基金(GBRRF)への4億4380万豪ドルと、グレートバリアリーフ海洋公園局(GBRMPA)への5600万豪ドルが割り振られたと報じています、この資金は、白化現象への対策とともに、サンゴを食い荒らすオニヒトデへの対策も含めたグレートバリアリーフの保護活動に使われます。貴重な生態系であり、ユネスコの世界自然遺産でもあり、観光資源でもあるグレートバリアリーフがオーストラリアにもたらす経済効果を考えれば、まだ少ないのかもしれませんが、これでサンゴの研究・保護・再生が進むことを期待します。
しかし、局地的な保護活動を行ったとしても、地球全体で温暖化が進めば、根本的な解決にはならないのではないでしょうか。現在、各国政府が掲げる温室効果ガス排出削減目標がすべて達成されたとしても、今世紀末までの平均気温上昇は3℃ほどになってしまうと言われています。繰り返しになりますが、サンゴという種の多様性を次世代に伝えるためには、サンゴの適応策だけでなく、温室効果ガスの大幅削減が必要でしょう。
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