今年5月に気候ネットワークに入職しました菅原です。1年半ほどスペインのバルセロナに滞在していたので、そこで感じたことを振り返ってみました。

居住区に溶け込んだ緑の空間

バルセロナ市は、地中海に面した、コンパクトで人口密度が高い、スペイン第2の都市です。ガウディを始めとする、有機的なデザインの建築物や、自由でゆったりとした雰囲気が素敵なところです。

現地の人々は外で時間を過ごすのが好きで、道には飲食店のテラス席や、公共のベンチがたくさんあります。私が特に好きだったのが、街中に植わっている多様な木々です。見た目が美しいのはもちろんのこと、日差しの強いスペインでは木々が提供する日陰が欠かせません。

Les Corts地区にある広場

Les Corts地区にある広場

居住区によく見られる広場は、近所の人々にとって重要な生活の一部となっています。夕方、バルのテラス席でビールを飲みながらリラックスする大人や、周りで遊ぶ子供たち、ベンチでくつろぐお年寄りなど、近所の人々の集合リビングルームのようだな、と思っていました。

さらには、このように外でゆっくり時間を過ごすのは、とても理にかなっていると感じました。人口が密集しているバルセロナ市内では、アパートは古く小さいものが多く、また海に接しているため夏は蒸し暑くなります。十分に日陰があり、風の通る屋外スペースは、日々の暮らしに欠かせないものになっています。

バルセロナは、他のヨーロッパ都市に比べて大型の緑地公園は多くないため、限られたスペースを最大限に活用する必要があります。居住区に緑の公共空間が混ざり合い、人々がのんびり過ごす風景は、一見とても素朴だけれども、省エネ、適度な暑さ対策、人とのふれ合い、健康、持続可能性という様々な観点で大きな意味を持つと思います。

La Sagreraエリアの住宅街

La Sagreraエリアの住宅街

気候緊急事態宣言とこれからの取り組み

スペインは、気候変動の影響により、毎年のように激しい熱波にさらされています。今年は、7月末時点で2100人が熱中症により亡くなっています。干ばつや山火事の被害も深刻で、今年はすでに22万ヘクタール以上が焼失してしまいました。これは、過去10年間平均の倍の面積にもなります。

この気候危機の中、バルセロナ市は、国の気候変動対策はパリ合意を守るには不十分であるとし、2020年に気候緊急事態宣言を出しています。

宣言書の表紙には、「これは訓練ではない(英訳版で、This is not a drill)」と大きく書かれ、2030年までのGHG排出50%削減、そして2050年までの脱炭素に必要な対策項目がまとめられ、そこには不公平で非持続可能な経済活動モデルやライフスタイルの見直しも含められています。

特に、バルセロナはまだまだ車の交通量が多いので、CO₂排出の約3割を占める交通・モビリティ部門はこれからの課題です。バスサービスの強化、路面電車線路や自転車レーンの拡大、車の交通量の削減が挙げられています。ほかにも、バルセロナ港での電力化や再生エネルギーの導入、空港面では短距離飛行機の廃止検討などが挙げられています。

1車線が歩行者用のスペースとなった道路

1車線が歩行者用のスペースとなった道路

また、都市モデルの改革として、公共スペースや歩道の緑化にもさらに力を入れています。私がよく通っていたMeridiana通りは、他エリアに比べ緑が少なかったため、強化エリアにあてられ、歩道の拡張と緑化整備で大規模な工事が行われていました。

Meridiana通り中央に作られた歩道

Meridiana通り中央に作られた歩道

バルセロナ市では、2020年にコロナ禍で厳しい外出規制が実施された際、市内の草花は、人から干渉されることなく、のびのびと成長していたそうです。前年の2019年と比べ、蝶々は7割以上増加し、今まで市内では見られなかった種も観察されたという調査結果があり、都市における自然との共存の大切さを認識する機会となりました。現在、虫や鳥、コウモリ用の住処を用意するなど、生物多様性を念頭に置いて緑化が進められているので、今後の街並みの進化が楽しみです。

これからの未来像

少し時代を遡りますが、格子状のレイアウトで有名なアシャンプラ地区は、19世紀後半にバルセロナ整備拡張計画として作られました。正方形を面取りした八角形の建物ブロックが特徴的ですが、これは当時、都市計画を担当したイルデフォンソ・セルダが未来社会は路面電車中心になっているだろうと想像し、電車が角を回りやすいようデザインしたからです。

出典: FA Failed Architecture

出典: FA Failed Architecture - Behind Four Walls: Barcelona’s Lost Utopia

また、建物ブロックの内側は、現在、中が駐車場や倉庫、追加のアパートで埋められていますが(写真左)、本来のセルダの計画では、建物はLもしくはコの字型で、内側に共同の中庭があるはずでした(写真右)。近年、この失われたスペースを少しずつ取り戻す試みも行われています。

現在、バルセロナは気候変動対策を行いながら、一人ひとりにとって、本当に住みやすい街、生きたいライフスタイルとは何なのか、真剣に向き合っているのではないでしょうか。単に排出削減対策としてだけでなく、そういった未来像を持って取り組んでいるからこそ、大きな改革ができるのだと思います。

この街の一角で目にした、人間味や緑あふれ歩きたくなる街並み、シンプルだけれど充足感あるライフスタイル  ―これからの脱炭素社会へつながる1つのヒントを見つけた気がします。

 

<参考>

https://www.rtve.es/noticias/20220725/incendios-ultima-hora/2355461.shtml

https://www.barcelona.cat/emergenciaclimatica/en

https://www.theguardian.com/environment/2021/jan/31/bat-boxes-greened-streets-and-insect-hotels-barcelona-embraces-its-wild-side-aoe

https://failedarchitecture.com/behind-four-walls-barcelonas-lost-utopia/

この記事を書いた人

菅原 怜
菅原 怜
気候ネットワーク京都事務所スタッフ