(本ブログ記事は気候ネットワーク通信<第153号>2023年11月号掲載記事を転載したものです。)

気候ネットワークは9 月30 日から10 月2 日にかけて、長崎・松島スタディツアーを開催しました。これまで気候ネットワークでは気候変動の問題や、長崎でのGENESIS松島計画の問題についての認知向上、そして本計画への反対の気運を盛り上げるため、昨年7月の長崎大でのシンポジウム、今年2月の長崎大学でのPatagonia の映画「NEWTOK」上映会への協力とワークショップの開催等を行ってきました。今回のスタディツアーはこれまでのようにグローバルな視点から見たGENESIS 松島計画の問題をイベント参加者と共有するものとは変わり、立地地域とその周辺にある炭鉱跡、陸上風力、石炭火力発電所を巡ることで、よりローカルな視点からGENESIS 松島計画の問題や地域の実態に即した公正な移行を参加者と共に考える機会となりました。

1日目

スタディツアー初日、集合場所であった長崎空港と長崎駅で集合した長崎大学の学生、大学教員、NGO スタッフ、メディア、そして一般からの参加者で構成されたツアー参加者とスタッフ一同は、貸切バスで西海市に移動しました。スタディツアー中のレクチャーやディスカッションの会場となった雪浦地区公民館にて参加者とスタッフの自己紹介の後、初日のレクチャーとして長崎市のゼロカーボン化に関する活動に取り組んでいる高校生・大学生で運営されている「ecoN ながさき」のメンバーである長崎大学生と、長崎県内において自治体の温暖化対策実行計画(以下温対計画)の策定に関わった大学教員の方から、その取り組みの中で経験したことについてお話いただきました。

この日のレクチャーでの共通点としては、ecoN ながさきが関わっている長崎市や、大学教員の方が温対計画策定に関わった自治体、ひいては長崎全体において、気候変動対策に関する切迫感が弱いことがあります。長崎市や大学教員の方が関わっている自治体はそれぞれ2050 年CO₂実質排出量ゼロに取り組むことを表明するゼロカーボンシティ宣言を行っており、2030 年に、基準年度は異なりますが、43 ~ 46% のCO₂ 排出削減を目標として掲げています。にもかかわらず切迫感の薄さから温暖化対策実行計画の市民への周知すら消極的であり、今後より難しい対策が迫られる2050 年カーボンニュートラルに向けた具体的な取り組みにも腰が重いといった点が指摘されていました。

2日目

ツアーの二日目は池島の炭鉱施設の見学ツアーへの参加の後、佐世保市にある長崎鹿町ウィンドパークへの視察を行いました。2001 年に閉山した池島炭鉱は元炭鉱労働者のガイドによる案内で坑内を見学することができます。参加者からは過酷な状況で採掘を行っていた炭鉱労働者への尊敬の気持ち、石炭というもの自体が持つ存在感に対する驚き、そして炭鉱内での機械の故障や事故などに備えて施されていた様々なフェイルセーフの仕組みへの関心を示す声などが聞かれました。その次に視察した長崎鹿町ウィンドファームは現地までのアクセスが不便な山の頂上に設置されており、参加者からはそのような場所に風力発電施設が設置されていることへの驚きや、設置されている風車のタービンを製造した日本企業がすでにタービン製造から撤退してしまったことを残念に思う声などが聞かれました。

池島炭鉱と長崎鹿町ウィンドパークから雪浦地区公民館に戻って行われたレクチャーでは気候ネットワーク研究員の伊東さんから、GENESIS 松島計画の問題点についてお話がありました。伊東さんからは、GENESIS 松島計画で既存の松島火力発電所に付加される設備(ガス化炉、ガスタービン、排熱回収ボイラー)の説明や、具体的な計画の中身についての説明が行われました。参加者からはGENESIS 松島計画の実施によるCO₂ 削減効果の小ささ(気候ネットワーク試算で約5.6%)や、他の新設石炭火力発電所と比べても大きく劣る大気汚染物質の削減対策、そして計画において将来的に実施するとしているCO₂ 分離回収や水素混焼の不確定な実現可能性について、驚きやこの計画を実施するJ-Power に対して疑問を呈する声が多く聞かれました。

3日目

ツアー最終日は松島火力発電所を展望出来る場所から視察しました。ツアー中のレクチャーや夕食時、そしてその後のディスカッションなど、ツアー中の様々な場面で松島火力発電所とGENESIS 松島計画については幾度も話題となりましたが、参加者からは改めて目にした松島火力発電所の建屋の大きさや、大量に積まれた石炭に対する驚きの声が上がりました。スタッフから改めて松島火力発電所とGENESIS 松島計画について説明を行った後には、有志によるアクションが行われました。

松島火力発電所の視察後に雪浦地区公民館に戻って行われた振り返りでは、GENESIS 松島計画の環境アセスメントの現状についてスタッフより説明を行った後、参加者から今回のスタディツアーの感想と今後どのような形でツアーでの経験を活かしていきたいか、お話いただきました。参加者からはGENESIS 松島計画の問題を周囲に伝えたいとの意見や、今後西海市や長崎での公正な移行をどのように進めるべきか考えを深めたいとの意見、再エネの環境や経済の影響も調べていきたいなど多様な意見が出されました。

最後に

その後ツアーとしては参加者と長崎駅、長崎空港で別れ、無事に終了となったのですが、改めて今回のスタディツアーの視察や参加者との対話を通じて最も強く感じた点は、立地域における視点が近視眼的になっているということです。現在立地地域は人口流出、少子高齢化といった問題や、石炭火力発電所の立地によって生じている雇用への影響など、GENESIS 松島計画が無い将来を描きづらい状況があります。一方で2030 年目標、2050 年カーボンニュートラルといった削減目標とその達成は、今後予想される温暖化の進行、地球沸騰化と共にますます強く求められることが想定されます。そのような状況の下ではGENESIS 松島計画のような実施されたとしても限られた温室効果ガスの削減効果しか有しない計画は、その意義が私たちのような気候変動問題に切迫感を持つ人々からだけではなく、社会全体からもより厳しく問われることになると思われます。

また、現状では政府のGX 政策を始めとする石炭火力発電の延命策によってGENESIS 松島計画は下支えされています。しかし、再エネの拡大と火力発電の稼働率引き下げ要請もあり悪化傾向にあり、九州地方の石炭火力発電の事業環境は、地域の将来を担うことが出来るほど安定的なものではありません。このような状況においては地域においても池島炭鉱で行われていたような、将来起こりうる事象を冷静に見据えるフェイルセーフな考え方が必要となるのではないでしょうか。今回のスタディツアーが、地域社会としての公正な移行を共に考えるきっかけとできるよう、今後も活動していきたいと思います。

GENESIS 松島計画についてもっと知りたい方はこちらへ
https://act-matsushima.jp/

この記事を書いた人

Miyajiri