きょう10月13日は「国際防災の日」。でも、365日、毎日が防災の日であるべきであるかのような状況が続いています。「気候災害が深刻化している」と言うのもむなしくなるような危機が相次いでいます。
ニュースで「観測史上●●」、「記録的●●」といった「異常な」言葉を「日常的に」聞かされ、感覚が麻痺してしまいそう…。それはまるで、増え続けるコロナ感染者数の数字に、慣れてしまってきたかにみえる今の社会の姿と重なります。
最新科学が明らかにする気候危機
もう科学は明確です(真鍋淑郎さんらが今年のノーベル物理学賞を受賞されたことも話題になりましたね)。
今年8月に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告(第1作業部会)は、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断定していえます。
さらに、「人為起源の気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象及び気候の極端現象に既に影響を及ぼしている」とも述べています。極端な高温(熱波を含む)が1950年代以降、ほとんどの陸域で頻度及び強度が増大してきた一方、極端な低温(寒波を含む)の頻度と厳しさが低下してきたことはほぼ確実と評価しました。とりわけ過去10年間に観測された極端な高温の一部が、気候システムに対する人間の影響なしに発生した可能性は極めて低いとされます。
岸田文雄首相は、今年9月の自民党総裁選の折に「気候変動は、人間の経済活動によるものと考えているか」との問いに対して「科学的検証が前提だが、そうした部分もあると考えている」と回答しています。残念ながら、日本においては政治が科学を受け止めていないと言わざるをえません。
今年も世界中で相次ぐ気候災害の現実
アフガニスタンの気候危機
現在、深刻な混沌と危機の中にあるアフガニスタンの北東部では7月末に集中豪雨による洪水が発生し、100人以上が死亡、100人以上が行方不明となったと報じられています。
同国での気候危機は新しい話ではありません。同国で灌漑事業に尽力したペシャワール会の故・中村哲さんは2018年の同会報138号で「アフガニスタンでも気候変化は深刻化し、ことはまるでダメ押しのように、空前の規模の干ばつの再来。沙漠化だけでなく豪雨被害も勢いを増しているのが近年の特徴で、既存のマルワリード用水路も保全に青息吐息」と書いています。
アフガニスタンの干ばつの要因として、温暖化を背景とする急激な気温上昇と春の降雪量減に伴う山の夏の残雪の喪失による渇水等があげられています(河野、2019)。気候変動を背景とする深刻な干ばつで政情不安定となり内戦が起きたと分析されるシリアのこともあわせ、気候危機の解決なくして平和は実現できないと思わされます。
インドと氷河:洪水・雪崩のリスク
今年2月、インド北部ウッタラカンド州では氷河が崩壊。地すべりと洪水が発生し200人以上が死亡しました。専門家はこの災害に温暖化が影響した可能性もあると指摘しています。さらに4月にもウッタラカンドでは氷河が決壊して雪崩が発生し、複数の死者や行方不明者が出ています。
日本の一人あたりCO2排出量は約8.5トン*だが、インドの場合は1.7トン*。先進国と比べてほとんどCO2を出していない途上国の人々が深刻な被害を受けるという不正義がここにもあります。
フィリピンを繰り返し襲う台風災害
4月、台風スリゲによってフィリピンで45万人が被災するなど甚大な被害を受けました。この台風は最大風速約84メートルを記録し、4月の台風の中でも最も勢力の強い台風となったと報じられています。これまでも同国では気候災害がたびたび発生しており、甚大な被害が繰り返されています。なお、フィリピンの一人あたりCO2排出量は1.2トン*です。
先進国も気候災害とは無関係でいられない
オーストラリアを襲う水害
先進国も3月、オーストラリア南東部では豪雨によって「100年に1度」とも言われる水害が発生したと報じられています。オーストラリアでは長期間にわたる干ばつや大規模な森林火災も発生しており、豪雨とあわせて懸念が深まっています。オーストラリアは最もCO2排出量の大きい化石燃料「石炭」の生産国としても知られており、その最大の輸出先は日本です。
北米を襲った記録的熱波
6月には米国とカナダで記録的な熱波が発生し、多数の死者がでました。西部ブリティッシュ・コロンビア州カナダの観測史上最高気温となる49.6℃を記録し、同州は、通常の約3倍である719件の突然死が報告されたと発表しています。
猛暑においては、熱中症、脳梗塞や心筋梗塞のリスクも高まると専門家は指摘しています。世界気象機関(WMO)は、「温室効果ガスによる気候変動は、このような熱波を少なくとも150倍も発生しやすくした」と、27人の科学者による研究成果を紹介しました。
米国とハリケーンと山火事
8月には「過去170年で最強レベル」とも言われるハリケーンアイダが上陸し、ルイジアナ州に甚大な被害をもたらしました。53万戸が停電。熱帯低気圧になった後も猛威をふるい、ニューヨーク市でも甚大な水害被害が出ました。犠牲者のほとんどが家賃が安い半地下に住む低所得者だったと報じられている通り、気候危機は先進国でも貧しく弱い立場に置かれた人に集中的に被害をもたらします。気候災害はまさに格差の問題であり、人権の問題なんだということを改めて認識させられます。
他方、カリフォルニア州のタホ湖周辺では、8月中旬から山火事が相次いで発生。住民ら2万2000人に避難指示が出ています。これまでにもカリフォルニアでは山火事はたびたび発生していますが、この山火事は「過去最悪」とも報じられています。
私たちは慣れてはいけない
日本でも、度重なる気候災害に、各地で被災し、亡くなったり、行方不明になったり、あるいは避難生活を送っておられる方が大勢おられます。日本のリーダーたちは、「観測史上●●」「記録的●●」と繰り返される気候災害のニュースにその感受性を鈍らせ、科学的知見を無視して化石燃料の利用拡大を許してきたかのようです。
セーブ・ザ・チルドレンの最新の報告書は「2020年生まれの子どもは、 1960年生まれの人と比べて;2倍の森林火災、2.8倍の農作物の不作、2.6倍の干ばつ、2.8倍の河川の氾濫、6.8倍の熱波に見舞われることになる」とのショッキングな見通しを明らかにしています。気候危機の見て見ぬふりはもうできないはずです。
気候災害のニュースに人一倍触れている私も、自分自身に言い聞かせています。私たちは慣れてはいけない。頻発する気候災害に「気候変動の影響か」と訝りながら他方で炭素排出源である化石燃料インフラを維持拡大させる過ちを、これ以上繰り返してはなりません。
*一人あたりCO2排出量はIEA”CO2 Emissions from Fuel Combustion 2020”による
参考:河野仁「アフガニスタンにおける干ばつと洪水−気候変動の影響」『天気(306)』日本気象学会、2019年。
この記事を書いた人
- 気候ネットワークに所属されていた方々、インターンの方々が執筆者となっております。
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