9月7日まで、政府は、第5次男女共同参画基本計画(素案)についてのパブリックコメント(意見募集)を実施しています。そこで、気候変動の視点からこの計画案について考えてみたいと思います。
男女共同参画基本計画って?
男女共同参画基本計画は、政府のジェンダー平等施策の基本となる行政計画です。男女共同参画社会基本法によって定めるものとされています。
第一義的には、構造的な女性差別や女性への暴力を根絶し、被害者をこれ以上増やさないようにすること、傷ついた被害者に対して必要なサポートが行われることを確保することが何より重要でしょう。ジェンダー平等は、持続可能な開発目標(SDGs)の主要な目標のひとつでもあります。
男女格差を測るジェンダーギャップ指数2020のランキングで日本が121位と極めて低い評価になっていることもあり、遅れを取り戻すため、実効性のある基本計画にすることが大切です。
なぜ気候変動・エネルギー政策と女性参画が関係するのか?
それに加えて、気候変動・エネルギーの視点でこの計画について考えることも大切ではないかと思っています。
それは、これまで気候変動・エネルギー政策の様子を見てきて、その政策決定のあり方が極めて男性支配的であった弊害に向き合う必要があると思うからです。
例えば、東京電力福島第一原発事故後、エネルギー政策の議論が行われた審議会では、委員の9割近くが男性でした。各種世論調査から、女性は男性に比べて脱原発を求める意見が多い傾向が明らかになっています。あえてシンプルに考えると、女性と男性のバランスをフェアに50:50にして議論したのなら、もう少し脱原発の声が強くなっていたはずではないか、と思います。本来、女性と男性を含むすべての人のためにあるべきエネルギー政策の議論は、男性がその議論をほぼ独占していることによって歪められてきた面があったのではないでしょうか。
パリ協定とジェンダー
日本が批准している気候変動に関するパリ協定の前文にはこう書かれています。
「気候変動が人類の共通の関心事であることを確認しつつ、締約国が、気候変動に対処するための行動を取る際に、(中略)男女間の平等、女性の自律的な力の育成及び世代間の衡平を尊重し、促進し、及び考慮すべき」
つまり、気候変動問題においてもジェンダー平等を推し進めることはグローバル・スタンダードなのです。
思い起こせば、国連気候変動交渉会議を傍聴していたとき、ふと「違和感」を持ったことがありました。しばらく考えて気づいたのは、各国政府を代表して発言していた人が7人くらい連続で女性だったのです。日本で会議をしたとき、7人連続で男性が発言することは珍しくなくとも、7人連続で女性が発言することはなかなかないことだと思います。
国連の場でもジェンダー平等は決して十分ではないのですが、それでも対策を前に進めようとしているし、変化は起こっていると感じます。
男女共同参画基本計画(素案)と気候変動
計画案における気候変動の記述
さて、そんなふうに思いながら、今回の計画案を見てみますと、気候変動に関連する記述もありますが、非常に少ないです。
まず、施策の基本的方向として、
「気候変動問題等の環境問題への対応において、女性をはじめとする多様な意見の反映や女性と男性に与える影響のち外への配慮が重要であることから、政策・方針決定過程への女性の参画拡大を図るとともに、具体的な取組に男女共同参画の視点が反映されるよう積極的に取り組む。」
そして、具体的な取組として、こう書かれています。
①気候変動問題等の環境問題の政策・方針決定過程への女性の参画拡大を図る。
②気候変動問題等の環境問題に関する施策の企画立案・実施に当たっては、男女別のデータを把握し、女性と男性に与える影響の違いなどに配慮して、取り組む。
決定過程への女性の参画拡大も、女性と男性の両方に配慮して取り組むことも、当然必要なことだと思います。
しかし、「基本的方向」と「具体的な取組」に書いてることを見比べると、具体性のレベルがほとんど同じに見えます(男女別のデータを把握というところだけ少しだけ具体的)。非常に曖昧な内容ですが、実際に何をやったらこの計画を実施したことになるのでしょうか?
特に、決定過程への女性の参画については、「参画を図る」というだけでは進まないことは、これまでからも明らかです。女性と男性の比率が限りなく50:50に近づくよう、実効性あるいは強制力のあるルールが必要です。また、数値目標も必要ではないでしょうか。
環境問題に意見を言うには、産業政策・エネルギー政策にも意見を言う必要がある
さらに、環境問題の大きな原因となる産業政策やエネルギー政策の多くは、環境省の所管ではなく、経済産業省の所管です。特に、日本の温室効果ガス排出量の約9割はエネルギー起源CO2ですから、日本の気候変動政策とエネルギー政策はほぼ表裏一体です。
このため、環境問題に関する政策への女性の参画を拡大するというときは、環境省だけでは不十分です。基本計画には、環境省が担当する環境政策だけでなく、経産省が担当する産業政策やエネルギー政策の決定過程への女性の参画を拡大するということも明記することが必要だと思います。
第4次男女共同参画基本計画の環境の記述は、「環境政策に関する各種会議等の構成員について、女性の参画拡大を図る」は環境省の担当と書かれていますが、その延長では不十分です(※今回の第5次の計画案では担当する省庁の記載すらなく、どこの誰がやるのか不明で、そこも問題です)。
「女性には専門家が少ない」?
「審議会で女性を増やせといっても、そもそも産業政策やエネルギー政策の専門家の女性が少ない」という声も聞こえてきそうです。しかし、それ自体、構造的なジェンダーバイアスの産物です。
男性は、自身が男性であることが理由で工学部に進学することを躊躇したり、他の人から再考を促されたりすることはないでしょう。しかし、女性はそうではありません。工学部どころか、「女性は大学に行かなくてよい」という人もまだいます。女性も男性も大学に行ってもいいし、行かなくてもいいし、それは各自の選択なのですが、それが性別によって偏る構造があるのが問題です。
同様に高等教育・研究や企業の採用でも、ジェンダーギャップの改善がまだまだ必要な状況です。分野は違いますが、東京医科大学などの入試での女性差別などは、女性がこの国で専門職としてキャリアを始め重ねていくことの難しさを示す例です。
女性に教育や研究の場で様々なハンデを負わせ、「専門家が育ちにくい」構造をそのままにしておきながら、「専門家がいない」と放言するなど、許されないのではないでしょうか。
「1人も女性のいない審議会等をなくす」!?
また、これは気候変動に限らない話ですが、女性の政策決定過程への参画について、本当に驚いたのがこちらの記述です。
「国・地方公共団体問わず、女性が1人もいない審議会等をなくすよう、取組を進める」(P.17)
もちろん、現状として女性が1人もいない審議会がまだあることは極めて問題ですし、これを解決することは、第一歩としては必要です。
しかし、ジェンダー平等への取組を加速すべき中で、「1人も女性のいない審議会をなくす」とは、めざしているレベルがあまりにも低すぎて言葉を失います。
SDGsをひくまでもなく、本来は50:50なのがフェアであるべき姿であるはずでしょう。にもかかわらず、「1人も女性のいない審議会をなくす」とは、裏を返せば「1人でも女性がいればとりあえずOK」ともとれるような表現です。
これが行政計画に入るのだとしたら、むしろ、男性が政策決定プロセスの大部分をほぼ独占している現状を今後も容認するようなものではないでしょうか。国民の約半数を占める女性の意見が政策に反映されにくい現実について、公共の行政が現状追認することは許されません。女性を約半数にする/近づけるという書きぶりにし、数値目標も盛り込めないものでしょうか。
削られた「環境」。ジェンダー主流化はどこに?
長く男女共同参画の政策課題をフォローされている方から、こんな指摘も聞きました。「これまでは基本計画の分野のひとつに「環境」があったのに、それが今回のバージョンから削られてしまった。内容も大幅に減らされた。これは大きな後退だ。」
第4次の基本計画を見てみると、「地域・農山漁村、環境分野における男女共同参画の推進」という分野がありましたが、今回の計画案では「地域における男女共同参画の推進」に変わりました。単に分野名から削られたというだけでなく、環境問題に係る男女共同参画の取り組み内容も、先述の通り曖昧になりました。見比べると、強化するどころか、むしろ削られ、弱められたと言えます。
このことは、政府が今年改定した「SDGs実施指針」において、ジェンダー平等はすべての課題の取り組みにおいてを主流化する必要のある分野横断的課題としたこととも整合しないと思います。
男女共同参画基本計画(案)のパブリックコメントは9月7日まで。ぜひ意見提出を!
このように、気候変動という視点から見ても問題が多い計画案。先日のオンライン公聴会を視聴していたら、性暴力、選択的夫婦別姓、女性の政治参画、LGBT+、男性の育児休暇といった様々なテーマの意見が紹介されていました。若い人たちの間でもジェンダーに関する関心は高いようです。
ぜひあなたも、あなたの視点で、この基本計画案に対する意見をまとめ、出してみてください(締切は9月7日)。
内閣府男女共同参画局「第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)」についての意見募集
スタッフ:伊与田
※この記事の意見は筆者個人の意見であり、団体を代表するものではありません。
この記事を書いた人
- 気候ネットワークに所属されていた方々、インターンの方々が執筆者となっております。
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