2026年4月24日~29日にコロンビアのサンタマルタで「化石燃料からの移行に関する第1回国際会議(the First Conference on Transitioning Away from Fossil Fuels)」(以下、サンタマルタ会議)が開催されます。この会議は、コロンビアとオランダの共催で、気候目標や最新の科学的知見に整合し、公正で秩序ある、公平な方法で化石燃料からの脱却を進める必要性を認識する国、自治体およびその他のステークホルダーが集まり、議論するための場として設けられました。

COPで行きづまる、化石燃料からの脱却の議論
国際社会が気候変動問題に取り組むための議論は、主に気候変動枠組条約の締約国会議(COP)で進められてきました。京都議定書やパリ協定といったルール作りもこの枠組みのもとで行われてきました。
2023年にドバイで開催されたCOP28では、「化石燃料からの脱却」「再生可能エネルギー3倍、エネルギー効率倍増」という歴史的な合意がなされました。しかしその後、化石燃料からの脱却を含む排出削減強化に向けた議論は、新興国や産油国からの反対が強く、具体的な成果を上げられないでいます。昨年ブラジルのベレンで開催されたCOP30では、80ヵ国以上から化石燃料からの脱却に関するロードマップ(工程表)の策定に賛同する声が集まりましたが、残りの締約国を動かすことがかなわず、COP合意に盛り込まれることはありませんでした。産油国がこうした議論に反対をしているのは事実ですが、それだけではなく、日本のように化石燃料を消費する国からの需要が減らないからこそ、化石燃料の輸出が産油国の経済を支えていることも忘れてはならないと思います。
さて、COPの合意はコンセンサス方式、つまり誰も反対しないことで採択されます。そのためCOP合意は国際社会の総意としての重みをもって実行されてきました。一方、一国でも反対すると決まらないという課題もあります。排出削減強化に向けた議論もその一例です。2021年にイギリス・グラスゴーで開催されたCOP26では、議長国イギリスは石炭フェーズアウトに意欲的でした。合意案には「排出削減対策がとられていない石炭火力の段階的廃止(phase out)」という非常に画期的な文言が盛り込まれましたが、最後の最後、閉会式でインドが「段階的廃止」という表現に反対し、最終的に「段階的削減(phase down)」と弱めた表現で合意することとなりました。この結果を受けて、COP26議長が涙を浮かべ悔しさをにじませた場面が、今でも記憶に残っています。
化石燃料からの脱却の議論をリードするコロンビア
パリ協定採択から10年が経過し、具体的な気候変動対策の「実施」を加速させることが必要です。一方で、COPでの合意はコンセンサス方式のため、具体的な行動に繋がりにくい側面もあります。そういったなか、有志国はCOP30で記者会見を開き、化石燃料からの脱却に関する議論の停滞に失望を示し、自ら化石燃料からの脱却を約束する「ベレン宣言」を発表しました。
24日から始まるサンタ・マルタ会議は、国連の枠組みとは別に開催されるもので、具体的な実施計画について議論をするための世界で初めての国際会議です。気候危機に直面する島嶼国などとともに、化石燃料からの移行の議論をリードしている国の一つがコロンビアで、世界最大級の環境NGOのネットワークであるCANが主催する「宝石賞」(COP期間中に気候変動対策に前向きな提案するなど、その日の国際交渉に希望の光を与えた国に送られる賞)を受賞するなど、COPでもその存在感を増しています。
コロンビアは化石燃料の生産が経済を支えてきた国ですが、2022年に大統領に選出されたグスタボ・ペドロ氏は、化石燃料の拡大を停止し、石炭、石油、ガスへの経済的依存を削減することを公約しました。化石燃料生産国ながら、化石燃料不拡散条約イニシアチブにも参加し、COPの場でも、科学的知見に基づき化石燃料から脱却していくことを強く訴えています。こうした国際交渉の場での野心的な姿勢は、今後、化石燃料が座礁資産化することを見越しての、現実的に国が生き残るための選択の結果でもあります。
「化石燃料からの移行」の議論に風穴を開けられるか:会議で注目したい点
サンタマルタ会議は化石燃料からの移行の道筋を具体化する会議として期待が集まっています。ここでは会議で注目したい点をまとめました。
1.化石燃料からの脱却に前向きな有志国の会議であること
まず、この会議は化石燃料からの脱却に前向きな国々が集まる会議であることがあげられます。本ブログ執筆時点で53ヵ国およびEUの参加が決まっています。中国やロシア、湾岸地域の産油国は参加しない見込みですが、ノルウェーなどの化石燃料を生産する国々も参加を予定しています。G7ではアメリカと日本以外の5カ国が参加を表明しており、化石燃料生産国である英国、カナダも参加します。そして、COP31議長国のトルコ、交渉議長を務めるオーストラリアも参加の予定です。これらの国々をあわせると、世界の化石燃料生産の5分の1を占める生産国と、世界の需要の3分の1を占める消費国が集まるということです。化石燃料を生産する国と消費する国が集まり、これからの化石燃料からの脱却にむけたソリューションや実効的な支援策を話し合う場となるのです。
そして国だけではなく、地方自治体やアカデミア、市民社会・NGOなども参加するプロセスが設けられています。会議主催者によると、NGO等の参加希望は2,608団体あったそうです。また、アメリカの連邦政府は参加しませんが、アメリカの非国家アクターの集合体である「アメリカ・イズ・オール・イン」からはカリフォルニア州などが参加するということです。
2.交渉の場ではなく、化石燃料からの脱却を前に進める場であること
そして、この会議はコンセンサスに縛られる場ではなく、交渉の場でもなく、「行動」を促すことに焦点を当てた場であることがあげられます。主催のコロンビアやオランダの担当者は、化石燃料からの脱却に消極的な国を説得する場ではないということを明確に示しています。あくまでも脱化石燃料に前向きな国々が足並みを揃え、COPのプロセスとは別に脱化石燃料を前進させる場であることを強調しています。会議のウェブサイトには、「意欲のある国々、地方自治体、関連するステークホルダーのコアリションが、持続可能な社会・経済を構築するために化石燃料からの脱却を進める実行可能な道筋を特定し、前に進める具体的なプロセスを開始することと」が会議の目的であると述べられています。また、COP30議長が主導するロードマップとは補完し合う関係の会議であることも述べられており、同時並行でそれぞれの活動がお互いに良い影響を与え合う構図が目指されているようです。
これまでに、会議の3つの重点分野(下記)に関する意見の提出やオンラインでの対話プログラムが実施され、現地会議に向けた準備が進められてきました。

出典:会議ウェブサイト https://transitionawayconference.com/methodoloy
化石燃料からの移行に関する第1回国際会議の位置づけ(会議ウェブサイトより、気候ネットワーク仮訳)
3.より具体的な「実施」に焦点を当てたテーマ設定
今回の会議の重点分野として挙げられているのは以下の3つです。
- 化石燃料への経済的依存を克服する
- 化石燃料の需要と供給を変革する
- 国際協力と気候外交を前進させる ※各国の化石燃料からの脱却に対する法的・制度的制約としてのISDS条項など、グローバルガバナンスの影響についても含まれる
この3つの重点分野を見ていると、経済的側面に焦点が当たっており、より「実施」を意識したテーマ選びだなと思いました。COPでは温室効果ガスの排出削減について議論され、そのなかで化石燃料をどうするかという話になるのですが、この会議は化石燃料からの脱却そのものに焦点をあてています。会議に参加する53ヵ国が、今回の会議を経て化石燃料からの脱却を打ち出し、そのための具体的な計画を立てることで、企業などを動かし、世界の気候変動対策は大きく動くかもしれません。
そして今年2月のアメリカ、イスラエルによるイラン攻撃以降の中東情勢の緊迫化と過去最悪と言われるエネルギー危機に直面していることは、より一層、この会議が開催されることの重要性を感じさせます。コロンビアのトーレス環境・持続可能大臣は「私たちは世界的な中東での紛争によって引き起こされた危機に見舞われている。このことは、私たちがこれ以上化石燃料への依存を続けるわけにはいかないことを示している。ガスが高騰しており、肥料ひいては食料価格にも影響する。ガス不足も深刻化する。こうしたなかでエネルギー主権を実現する道筋について議論することが重要である」とClimate Home Newsによるイベントで述べています。
また、市民社会・NGOでは化石燃料から再エネへの転換に向けた資金支援や債務の問題(途上国では債務の返還のため自国の資源である化石燃料を輸出して資金を捻出せざるを得ず、債務の返還が優先されることにより、国内の気候変動対策や教育、保健分野に十分な資金が投入できない状況になっていること)への関心も高まっています。サンタマルタ現地では、会議にあわせて市民社会・NGOによるPeople's Summitも開催されますので、こちらもぜひ注目してください!
経済的に安定し、安心して暮らすためにも化石燃料からの脱却が必要
再生可能エネルギーの技術が進展し、コストも下がってきており、かつてない規模で拡大しています。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)は、2025年に世界の再エネ導入容量が過去最高の692GWとなり、国内の再エネでエネルギー安全保障を強化できることを示すと報告しています。
危機に瀕する1.5℃目標、そして中東情勢の緊迫化と過去最悪と言われるエネルギー危機に直面し、私たちの社会はこれにどう立ち向かうかが問われています。2050年に向けた道筋は中東以外から化石燃料を調達する手段を探ることだけでも、石炭に回帰することでもありません。化石燃料への依存から早期に脱却し、再エネ中心の社会へとトランジションしていくために、いまから再エネ拡大のために資金やリソースを投入し、出来る限りの手を打つことです。その際、誰一人取り残さない「公正な移行」を実現することも重要です。
化石燃料からの移行に関する会議は、すでに第2回がツバルで開催されることも明らかになっています。今回、サンタマルタでの会議で具体的な道筋を議論し、化石燃料からの脱却の議論に風穴を開ける第一歩となる成果が出ることを期待しています。
気候ネットワークでは、市民社会・NGOの一員としてサンタマルタ会議をフォローしています。5月15日にはサンタマルタ会議の結果や今後の展望についてのウェビナーを開催します。詳しくは以下のイベントページをご覧ください。
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