2026年、国連気候変動枠組条約第31回締約国会議(COP31)の開催地となるトルコ共和国。世界中から注目が集まる中、現地の市民社会は、トルコ政府の気候・エネルギー政策をどう評価しているのでしょうか。トルコの環境団体が昨年末に発表したレポートや、今年1月に発表された世論調査の結果を見ながら紹介します。

この記事のポイント

  • 世論の総意: トルコ市民の9割が気候変動を実感。電源として支持されるのは「太陽光・風力」であり、「原発・石炭」には根強い反対がある。
  • 現地NGOによるトルコの政策への判定は「不合格」: 2025年の気候成績表では、排出量をむしろ増やす不十分な目標や、不透明な政策決定プロセスが批判の的に。

トルコの人々が選ぶエネルギー源は太陽光と風力─世論調査の結果

今年1月、トルコにおける気候危機・エネルギー政策に関する世論調査の結果が発表されました。この調査は、トルコの調査会社KONDAと、ニュースサイトのİklim Haber(気候ニュース)が、トルコ全土で1,980人を対象に戸別訪問インタビュー形式で実施したものです。2018年に開始されたこの世論調査は、今回で8回目となります。

  • 気候変動の存在: トルコ人の90%が「存在する」と回答。
  • 異常気象の実感: トルコ人の88%が洪水や干ばつなどの増加を指摘。2018年の76%から大幅に上昇しています。
  • 支持: 太陽光・風力が全年齢層・地域で圧倒的な支持を獲得。
  • 反対: 原子力(62%)と石炭火力(58%)が「最も反対する発電方法」の上位2つを占めています。

10人中9人が気候変動は「存在する」と回答

トルコでは10人中9人が気候変動が存在すると回答しました。一方で「気候変動は存在しない」と答えた人の割合は約9%でした。また、気候変動について「懸念している」とする回答は64%でした。

さらに、回答者の88%が、近年、洪水、嵐、猛暑、干ばつなどの異常気象が増加していると述べています。この設問が最初に測定された2018年3月の調査で、異常現象が増加していると回答した人の割合は76%でした。トルコでは近年、大規模な森林火災や干ばつ、豪雨災害などが多発しており、異常気象による悪影響がより身近に迫っています。どの現象が気候変動と関連すると思うかを問う設問では、森林火災・洪水・干ばつといった災害の増加と結びつける回答が最多で、続いて動植物の多様性の減少、水へのアクセスの困難化、食料価格の上昇が挙げられました。

最も好まれるエネルギー源は太陽光と風力

この世論調査では、トルコの人々のエネルギー選択に関する意見も明らかにされました。どのエネルギー源で発電された電力が使いたいかを問う質問では、太陽光と風力が最も好まれる選択肢として浮上しました。太陽光・風力は、すべての年齢層、教育レベル、居住地域で強い支持を得ています。対象的に、原子力発電と石炭火力発電は、最も望まれない選択肢でした。

İklim Haber – İklim Krizi Algı Araştırması - 2026に筆者加筆

原発と石炭火力への強い反対世論

最も反対する発電方法を2種類選択する質問では、回答者の62%が原子力発電所、58%が石炭火力発電所を選びました。2018年から実施されてきた過去の調査でも、原発と石炭火力はトルコの人々が最も反対する発電所として選ばれてきました。

İklim Haber – İklim Krizi Algı Araştırması - 2026に筆者加筆
◆ チェルノブイリの記憶と半世紀続く反原発運動

まだ原発を持たないトルコで反原発の世論が強い背景としては、1986年に発生したチェルノブイリ原発事故の影響が指摘されています。黒海を挟んでウクライナの南隣に位置するトルコは、黒海沿岸地方を中心に、深刻な放射能汚染を経験しています。日本が安倍政権時代に原発輸出を計画した黒海沿岸のシノップでは、毎年4月の「チェルノブイリの日」に合わせ、大規模な反原発デモが続けられてきました。

「チェルノブイリの日」にシノップで開催された反原発集会には1万人以上が集まった(2015年4月25日、筆者撮影)

トルコでは、最初の原発建設計画が立ち上がった1970年代から反原発運動が続いています。これまでの原発建設計画は、住民の反対運動や政治・経済の不安定化などによって失敗してきました。日本によるシノップへの原発輸出も、住民の反対運動などを理由に、2019年に中止となりました。しかし現在、地中海沿岸のアックユでロシアのロスアトム社による原発建設が強行されており、1号機が完成間近とされています。

シノップの反原発デモで、原発輸出を計画する日本に対し、「福島の原子力災害はまだ続いている」と書かれた横断幕を掲げる人々。(2016年4月24日、筆者撮影)
◆ 欧州最大の石炭火力国

トルコでは過去10年で、石炭火力による発電量が2倍に増加しています。2024年に、トルコの石炭火力による発電量はドイツを抜き、「欧州最大の石炭火力発電国」となりました。

トルコの石炭火力発電所では、国内で産出される石炭(褐炭)も燃料として使用されています。トルコで産出される石炭は低品質でエネルギー効率が低く、大気汚染による発電所周辺での健康被害が問題視されてきました。また、石炭採掘のために森林や農地が破壊され、住民が土地を追われるといった問題も生じています。さらに、炭鉱での大規模な事故も繰り返されています。2014年に起きたソマ炭鉱爆発事故は、約300人が死亡するトルコ史上最悪の炭鉱事故で、政府や事業者による安全対策の不備を指摘する大規模な抗議デモにもつながりました。

エルドアン政権は石炭火力を推進し、2010年代には数多くの石炭火力発電所の建設が計画されましたが、その大部分は住民の反対運動や財政難によって中止されました。また、トルコの化石燃料反対運動は、大気汚染や土地利用を巡る「特定地域の運動」から、近年はよりグローバルな「気候正義運動」としての側面を強めていると指摘されています1

トラキア地方のシリヴリで、石炭火力発電所の建設に反対する住民たち。健康や農作物への影響を訴えていた。住民による直接行動や訴訟などの反対運動が続き、建設計画は2019年に中止された。(2017年6月4日、筆者撮影)

環境NGOがトルコ政府の気候・エネルギー政策の「成績表」を発表─2025年は「不合格」

続いて、現地の環境NGO の視点を通じて、トルコの市民社会がトルコ政府の気候・エネルギー政策をどのように評価しているのかを見てみましょう。

2025年12月30日、トルコの主要な環境NGO16団体で構成される「気候ネットワーク」(以下、「トルコ気候ネットワーク」)2は、2025年のトルコ政府の気候・エネルギー政策を評価するレポート「2025年気候成績表」を発表しました。

この「2025年気候成績表」において、環境NGOはトルコの政策を「不合格」と判定しました。温室効果ガス排出量を実質的に増加させる新たな気候目標を掲げていることや、石炭からの脱却を図る代わりに石炭火力発電企業への補助金を継続する政策をとっていることが、主な理由として挙げられています。また、COP31のホスト国として真の気候リーダーシップを発揮するためには、トルコが野心的な気候目標を設定する必要があると強調しています。

以下では、「成績表」の内容について、解説を加えながら紹介します。

批判の矛先1.「排出量を増やす」気候目標

トルコは2053年までに温室効果ガス排出ネットゼロを目指しています。2025年には、ネットゼロ目標に法的根拠を与える「気候法」が制定され、COP30では2035年に向けたトルコの新たな排出削減目標(NDC)が公表されました。しかし環境NGOは、これらが具体的な排出削減策を欠いており、排出量を減らすどころか、逆に増加させる内容になっている点を批判しています。

形だけの「気候法」

トルコでは 2025年7月に気候法が制定され、排出ネットゼロ目標や排出権取引制度に法的根拠が与えられました。しかしNGO側は、「化石燃料使用の廃止に向けた具体的な目標や、独立した監査機能が欠如している」と批判しています。また、法律の策定プロセスにおいて市民社会からの参加機会が考慮されなかったことも大きな問題とされています。

不十分な排出削減目標

トルコは2025年のCOP30で、2035年に向けた新たな排出削減目標(NDC)を公表しました3。しかし環境NGO側は、実質的な削減計画がないことや、政府が目指しているのは「増加傾向の中での削減(BAU比削減)」であり、2035年まで排出量の増加を許容する目標設定になっていると批判しています。トルコ政府は2035年までに4億6,600万トン(466Mt CO₂ eq)の排出削減を目指すとしていますが、このNDCが達成されたとしても、2035年の排出量は2023年比で16%増加することになります4

批判の矛先 2. 再エネ拡大の裏で続く石炭支援と原発建設

トルコでは再生可能エネルギーの導入が予想を上回る速度で進んでおり、特に太陽光発電は過去2年半で設備容量が倍増するなど、急速な拡大を見せています。2024年には、風力と太陽光による発電量が初めて、国産石炭による発電量を上回りました5。しかし、その裏で「化石燃料からの脱却」が進んでいないことが大きな課題です。石炭火力からの排出量は、トルコの総排出量の20%を占めています6

トルコの電源構成(2025年)
Ember, Electricity Data Explorerより筆者作成
風力・太陽光発電が拡大の一方、自然破壊への懸念も

トルコの風力および太陽光発電の容量は2025年も増加を続け、11月末時点で38.8GWに達し、発電の22%を賄いました。この進展はエネルギー転換に向けた希望のように見えます。一方で、2025年7月に採択された第7554号一括法は、保護地域を含む自然エリア、牧草地、森林における再エネ開発の環境影響を考慮しておらず、生態系、生物多様性、地域の生計にリスクをもたらしています。

止まらない石炭補助金

市民社会が強く反発しているのが、石炭火力発電企業への新たな優遇措置です。年間1億3300万ドル(約200億円規模)もの公的資金が汚染源である石炭企業への支援に使われています。

新規石炭火力への固執

アフシン・エルビスタン石炭火力発電所への新規ユニット建設に対し、専門家が「公益性がない」と判断したにもかかわらず環境影響評価が承認されるなど、脱石炭の潮流に逆行する動きが続いています。アフシン・エルビスタン盆地はトルコで最も大気が汚染されている地域の一つであり、地域住民は何年もの間、不健康な環境を強いられています。

国内での石炭採掘

トルコは国内で産出する石炭(褐炭)を火力発電に利用しています。輸入石炭発電と国産石炭発電の設備容量(発電所の規模)はほぼ同等ですが、輸入石炭による発電の方が約50%多く発電しています。トルコの国産石炭は低品質でエネルギー効率が悪いため、同じ量の発電のために、より大量消費が必要で、CO2排出も多くなります。

国内での石炭採掘は、環境破壊や地域社会との対立も引き起こしています。トルコの鉱業関連法は、自然保護区や文化遺産を採掘に開放しています。トルコ南西部ムーラ県では、石炭火力発電所への燃料供給のため、アクベレンの森を伐採し、石炭を採掘する許可が事業者に与えられました。それ以来、住民や環境団体が抗議活動を続けてきましたが、政府側は憲兵隊を動員して大規模な伐採を強行しました。2026年1月には土地が強制収用されるなど、住民たちの生活基盤が破壊されています7

原発への懸念

 トルコ初の原発が、ロシアのロスアトム社によって南部のアックユで建設されています。完成は何年も遅れていますが、1号機が完成間近と発表されています。トルコ政府は原子力を「脱炭素電源」として推進し、アックユに加えてシノップやトラキアでの新たな原発建設と、小型モジュール炉(SMR)の導入も計画していますが、市民社会は大きな懸念を抱いています。原子力エネルギーは、事故のリスク、放射性廃棄物問題、長い建設期間に加えて、今なお最も高価な発電方法の一つです。アックユ発電所で生産される電力に対して政府がロシア企業に支払いを保証している価格は、市場の電力価格のほぼ2倍です。アックユ原発はロシアが建設・運転・所有する契約(BOO契約)のため、エネルギー安全保障上も問題があります。

批判の矛先3. 「公正な移行」と市民参加の欠如

気候変動対策は単なる技術的な問題ではなく、社会的な公正さが求められますが、ここでも課題が山積しています。

意思決定からの排除

「気候変動・適応調整委員会」などの重要な意思決定機関に、ビジネス界の代表はいても、気候専門のNGOやシンクタンクは参加を認められていません。

労働者への配慮不足

「公正な移行」という言葉は政策文書にあるものの、具体的な計画や労働者の雇用を守る仕組みは未だ存在しません。石炭産業からの脱却に伴う社会的痛みをどう和らげるかが不透明です。

4. 既に現れている影響:農業と災害

政策論争が続く一方で、気候危機の影響は待ってくれません。

農業への打撃

異常気象と干ばつにより、2025年の第3四半期には農業部門が前年比12.7%も縮小しました。食料価格の高騰を招き、市民生活を直撃しています。

自然災害の激化

過去52年で最低の降水量を記録する一方、大規模な森林火災が発生するなど、気候変動への「適応」策の遅れが致命的な被害をもたらしています。

2026年COP31開催国としての責任

トルコは2025年の気候・エネルギー政策において合格点を得られませんでしたが、2026年にはCOP31の開催国となります。現地の環境団体は、これを「汚名返上の重要な機会」と捉えています。

トルコ気候ネットワークは、開催国としてのリーダーシップを発揮するために以下の転換を求めています。

  1. 石炭からの明確な脱却(フェーズアウト)スケジュールの策定
  2. 排出量を確実に減らす野心的な気候目標の設定
  3. 市民社会を排除しない、参加型の政策決定プロセス

COPの「ホスト国」という立場だけでリーダーシップは生まれません。トルコが真の気候リーダーになれるのか、それともグリーンウォッシュ(見せかけの環境対策)に終わるのか。世界やトルコの市民社会に何を示すのかが問われています。


筆者コメント:かつて日本の原発輸出計画についてトルコを取材した際、市民たちが語った「私たちの土地や未来を壊させない」という言葉が印象に残っています。COP31開催国となるトルコの動向は、エネルギー政策で揺れる日本にとっても、決して他人事ではありません。

「火力も原子力もいらない。風力と太陽光で私たちは十分!」と書かれたプラカード。(2016年7月11日、アックユ原発前の抗議活動で筆者撮影)


  1. Aydın & Turhan [2025], “What Does It Mean to Win? Revisiting Environmental Movements in Turkey”, In: Dinç & Hünler, The Republic of Turkey and its Unresolved Issues, https://doi.org/10.1007/978-981-96-1583-4 ↩︎
  2. 2025年1月に結成されたトルコ気候ネットワークは、トルコの主要な環境NGO・市民団体のネットワークです。Avrupa İklim Eylem Ağı (CAN Europe)、ClientEarth(クライアント・アース)、Greenpeace Türkiye(グリーンピース・トルコ)、İklim için 350 Derneği (350トルコ)、WWF-Türkiye(WWFトルコ)をはじめとする16団体が参加し、気候危機を回避するため、現実的で科学に基づいた目標と国家政策の策定に貢献することを目指しています。 ↩︎
  3. Republic of Türkiye The Second Nationally Determined Contribution (NDC 3.0) https://unfccc.int/sites/default/files/2025-11/The%20Second%20NDC%20of%20T%C3%BCrkiye.pdf ↩︎
  4. トルコの2023年のGHG排出量は552.2 Mt CO₂ eq(トルコ統計局)。NDCでは、2035年にBAUレベルの1,109 Mt CO₂ eqから466 Mt CO₂ eqを削減し、排出量を643 Mt CO₂ eqに収めるとしている。 ↩︎
  5. Ember [2025] “Türkiye Electricity Review 2025” https://ember-energy.org/latest-insights/turkiye-electricity-review-2025/ ↩︎
  6. Domestic coal is far from providing a baseload in Türkiye ↩︎
  7. Birgün[2026年2月11日], “Akbelen direnişi ve termik santrallar” https://www.birgun.net/makale/akbelen-direnisi-ve-termik-santrallar-691848 ↩︎

この記事を書いた人

森山 拓也
森山 拓也
福島原発事故や大学院時代に取材したトルコの反原発運動をきっかけに、エネルギー政策やそれをめぐる社会運動への関心が高まりました。気候ネットワーク東京事務所で、主に広報業務などを担当しています。