自然エネルギーを身近にするためのヒントを探しに、2026年3月、気候ネットワークの同僚たちと、東京都調布市と三鷹市を巡ってきました。オフグリッド(電力自立)を実現した小さな建築から、自宅や街角で誰でも始められるベランダ発電まで。エネルギーを「自分たちで作る」楽しさと可能性に溢れた見学の様子をレポートします。

1.   エネルギーの小屋「えねこや」:電力自立への挑戦

最初に向かったのは、調布市にある「えねこや」です。「えねこや」とは、自然エネルギーだけで心地よく過ごせる小さな建築(エネルギーの小屋)のこと。断熱を徹底し、太陽光発電と蓄電池によって、電力会社に頼らない「オフグリッド」を実現しています。

運営しているのは、一般社団法人えねこや。代表で建築家の湯浅剛さんが、「原発に頼らない生活」を目指し、自ら建築事務所兼住宅として作り、利用してきました。ここでは「エネルギー多消費型」から「持続可能で豊かな省エネ型」の暮らしへの転換が提案されています。

えねこやの外観。右側がえねこや、左側は移動式えねこや
築40年の古家が、最新の省エネ建築に

もともとは昭和47年築で無断熱の古家だったそうですが、2015年に柱や梁だけを残す「スケルトンリフォーム」を経て、劇的に生まれ変わりました。

まず、太陽光の恵みを最大化するため、屋根を斜めに改造し、275Wのパネルを12枚(計3.3kW)設置しました。18kWhの蓄電池と組み合わせることで、電力を自給自足しています。

えねこやの模型。斜めにした屋根には太陽光パネル、太陽熱温水器、採光窓が並びます。

少ないエネルギーで快適に過ごすため、断熱も徹底しています。壁には断熱材を入れ、窓は高気密なトリプルサッシを採用。窓を閉める時にグッと引き寄せる構造で、外気をしっかりシャットアウトします。

えねこやは、熱も自然エネルギーを活用しています。太陽熱温水器で年間のシャワー利用の約7割を賄い、冬はペレットストーブ1台で家中がポカポカ。ダクトで空気を循環させているため、室温のムラもありません。

さらに、敷地内には井戸もあり、水の自給も可能。まさに「生きるためのインフラ」を自分の手に取り戻した建築です。

18kWhの鉛蓄電池。劣化を防ぐため充電量が50%(9kWh)を下回らない範囲で使用し、100%になると自動遮断されるシステムが導入されています。
どこでも再エネ「移動式えねこや」

続いて、えねこやの機能をコンパクトにまとめたトレーラーハウス「移動式えねこや」も見学しました。180Wのパネル4枚とリチウム電池を搭載し、エアコンや冷蔵庫も完備。断熱性の高い木枠の窓や、環境について学べるボードゲームなども用意されており、各地のイベントを巡って、「再エネだけでも快適に暮らせる」ことを実演しているそうです。

アースデイ東京2024に出展していた、移動式えねこや

移動式えねこやの断熱窓

移動式えねこやには太陽光発電で稼働させるエアコンや冷蔵庫も設置されている。

2. 古民家での太陽光発電と、水車小屋見学

続いて、野川沿いにある三鷹市の「大沢の里古民家」を見学しました。ここは明治35年に建てられた立派な農家で、かつてはわさび栽培や養蚕などの生業を営んでいたそうです。今はこの地域のかつての農村風景や暮らしを伝える貴重な建物として公開されています。

大沢の里古民家の外観

この古民家の敷地内にも、太陽光パネルが設置されています。歴史ある建物の景観を壊さないよう、屋外に太陽光パネルを設置し、そこから引き込んだ電気を大型ポータブルバッテリーに充電。室内の一部の照明に使われています。古い建物を守りつつ、最新の再エネを取り入れる姿勢に、持続可能な暮らしのヒントがあるように思えました。

室内に飾られた雛人形の照明にも太陽光発電の電気が使われています。

大沢の里古民家から近い、「大沢の里水車経営農家・新車(しんぐるま)」にも足を運びました。ここには、江戸時代の1808年頃から約160年間にわたって使われていた、日本最大級の精米製粉用水車があります。1968年に野川の改修で流れが変わるまで、現役で稼働していたそうです。

大小さまざまな歯車や装置(しかも全て木製)が複雑に組み合わさったメカニカルな構造は圧巻です。見学用に回っている水車を見ながら、水流という身近な自然エネルギーを徹底的に使いこなそうとした先人たちの高い技術力に、驚きを隠せませんでした。太陽光も水力も、自然の力を借りるという点では同じ。古くて新しい知恵の繋がりを感じるひとときでした。

3. 「まちかどRE100」:みんなでちょっとずつ、を積み重ねる

昼食は三鷹市の「gallery & café ino」にて。ここで、NPO法人「みたか市民協同発電」の皆さんから「まちかどRE100キャンペーン」についてお話を伺いました。

このキャンペーンの合言葉は「ベランダから始める脱炭素」。「火力発電所1基分を、みんなのちょっとずつの発電で置き換えられないか」という大きな希望を持ち、自宅や商店のベランダにパネルを1枚置くことから始める取り組みです。

小さな太陽光発電所を身近な場所で増やし、それをモデルスポットとして紹介することで、「ベランダ発電」を多くの人に知ってもらう。それをきっかけに、再エネに興味を持つ人や、自宅への本格的な太陽光発電システム設置を考える人を増やすことを目指しています。

三鷹市内には、まちかどRE100キャンペーンのモデルスポットがいくつかあり、ベランダ発電の見学が可能です。そのうちのひとつである「みたか多世代のいえ」は、多世代が入居する住宅の屋上に200Wパネルを4枚設置。そこから既製品のポータブルバッテリーに充電して入居者が活用できるような仕組みになっています。スマホなどを充電できる他、駐車場にも配線し、EVを充電できるようになっているそうです。

他にも、カフェに太陽光パネルを設置し、その電気でお店のBGMを流したり、お客さんがスマホを充電できるようにしている例もあります。gallery & café inoもその一例です。

ベランダ発電を通じて、自分で電気を作れる人が街に増えることは、災害時の地域の強さにもつながります。さらに、まちかどRE100キャンペーンは、発電だけでなく、再エネや気候変動対策についての教育・啓発、そして人々の交流も促しています。

印象的だったのは、みたか市民共同発電の小笠原さんのエピソードです。

かつて賃貸住宅で「ベランダは共用部だから」と大家さんにベランダ発電を止められた苦い経験をバネに、現在は引っ越し先の集合住宅の自治会長として、共有スペースでの太陽光発電に挑戦されています。日本の集合住宅にある高い壁を、知恵と情熱で突破しようとする姿に感銘を受けました。

gallery & café inoのベランダに設置された太陽光パネル

4. 見学を終えて:再エネは「世論」を変える力になる

「自分で発電する」体験が意識を変える

太陽光発電を導入した人は、そのメリットを肌で感じることで、再エネ推進の強い支持者になります。東京都でも新築住宅の屋根への太陽光パネル設置義務化が始まりましたが、身近な場所でエネルギーを作ることは、単なる省エネ以上に、「再エネは暮らしや地域に貢献する」という「意識の変革」をもたらすはずです。

集合住宅・賃貸住宅が鍵

一方で、屋根上太陽光パネルの大きな恩恵を受けられるのは戸建て住宅が中心です。より多くの人が再エネのメリットを感じられるようになるには、集合住宅での太陽光発電の広がりが鍵となります。

現状、日本の集合住宅・賃貸住宅に太陽光発電を導入できるほぼ唯一の手段ともいえるのが、太陽光パネル1枚と蓄電池で誰でも簡単に始められる「ベランダ発電」です。一方で、小規模なベランダ発電でできることはスマホやPCの充電などに限られ、エアコンや冷蔵庫を動かすことはできないため、「再エネを使っている」というデモンストレーションの域を出ない部分もあります。それでも、太陽光パネルの性能向上により、その可能性は、数年前と比べ確実に広がっています。工夫次第では、生活の様々な場面でベランダ発電が活躍できるかもしれません。

制度と意識の転換を目指す

太陽光発電を集合住宅・賃貸住宅にも本格的に広げるには、賃貸住宅の屋根への太陽光パネル設置義務化と、入居者がその電気を使える仕組みづくりなど、制度面の改善が必要です。ドイツなどで実践されている、コンセントに刺すだけで使える「プラグインソーラー」の解禁も、注目したい事例です。

「えねこや」のオフグリッドシステムやみたか市民協同発電のベランダ発電の取り組みは、それを見た人に、「再エネでも暮らせるかも」という希望を与えてくれます。皆さんが生き生きと活動されていたのがとても印象的でした。自分で発電するという行為は、単なる節電ではなく、とてもクリエイティブな学習体験です。

自宅への本格的な太陽光パネル設置が難しい場合は、ベランダ発電の他に、電力会社を再エネ100%の会社に切り替える「パワーシフト」も有効な手段です。自分の暮らしのエネルギーを、自分の手に取り戻すこと。その第一歩は、すでに私たちのすぐそばまで来ています。

取材協力:

この記事を書いた人

森山 拓也
森山 拓也
福島原発事故や大学院時代に取材したトルコの反原発運動をきっかけに、エネルギー政策やそれをめぐる社会運動への関心が高まりました。気候ネットワーク東京事務所で、主に広報業務などを担当しています。