2月28日からの米国・イスラエルによるイランへの軍事攻撃とその報復攻撃により、重要なエネルギーインフラが破壊されました。そして、化石燃料輸送の要所であるホルムズ海峡がイランによって封鎖され「世界の石油市場における歴史上最大の供給混乱」と国際エネルギー機関(IEA)が分析する事態が発生しています。
これらの事態を受けて世界的に燃料価格が高騰。IEAのビロル事務局長はこの危機について、「1973年、1979年、2022年の危機を全て合わせたよりも深刻だ」とインタビューに答えています。また、この地域の石油やガスの生産・精製能力が正常に戻ったとしても、今回の危機をきっかけに、多くの国がエネルギー政策の見直しを迫られるだろうとガーディアンは報じています。日本は化石燃料のほとんどを海外から輸入し、原油については9割以上を中東に依存しているため、まさにその混乱の影響に直面しています。
そして、4月8日には2週間の一時停戦が合意されましたが、11日から行われたアメリカとイランの停戦協議は合意に至らずに、今後の協議予定や停戦の見通しについては不透明な状況です。
一時停戦が発表された4月8日、気候科学やエネルギー政策の最新動向について分析し、情報発信しているCarbon Briefは、日本を含む少なくとも60ヵ国がこのエネルギー危機への対応として何らかの緊急措置をとっていると分析する記事(Iran war analysis: How 60 nations have responded to the global energy crisis)を発表しました。その内容を少しご紹介します。
最も影響を受けているとみられるのはアジア

出典:Carbon Brief “Iran war analysis” https://www.carbonbrief.org/iran-war-analysis-how-60-nations-have-responded-to-the-global-energy-crisis/
Carbon Briefは、最も影響を受けているとみられるのはアジアだと分析しています。世界の石油およびLNGの5分の1が中東地域を経由して輸送されていますが、その供給量の90%はアジアの各地域へ向かっているためです。上の図を見ても、アジアの国々で多くの緊急措置が取られていることがわかります。
一方、ヨーロッパは現時点では2022年のエネルギー危機ほどの影響はないものの、依然として多くの国がガスに依存しているため、エネルギー価格高騰の影響を感じているようです。電力供給における再エネ割合が比較的高いスペインでも、政府が中東の紛争の影響を緩和するための即時的な対応として、総額50億ユーロ相当の80の措置を含むパッケージを承認しました。
アフリカでも輸入価格の高騰に直面しており、さらにエチオピア、ケニア、ザンビアなど一部の国では、深刻な燃料不足にも直面しているといわれています。
では、これらの国々ではどんな措置が取られているのでしょうか。Carbon Briefの分析によると、燃料価格高騰から国民や企業を守るための取り組み(減税や燃料価格に上限を設ける、補助金など)がこれまでのところ一般的であるということです。ただ、こうした措置は化石燃料システムへの依存を高めるという批判もあります。他に特徴的なのは、自家用車の利用制限といった省エネ政策も20ヵ国以上の国で見られることです。日本、韓国、バングラデシュ、フィリピン、タイ、パキスタン、ドイツ、イタリアの8カ国では石炭火力発電所閉鎖の延期や、石炭火力発電所の稼働率を高めるといった計画が発表されたとしています。これを見ると、化石燃料利用の維持、(特にアジアでの)石炭回帰とも見える動きですが…以下で紹介する通り、その実態は冷静に見る必要がありそうです。
今後のエネルギー利用のあり方を見直す動き
Carbon Briefは、この動きは比較的小規模であり、長期的には安価な太陽光発電がとって代わるという見方をしています。実際に化石燃料の輸入コストが急騰する事態を受けて、一部の国では、今後のエネルギー利用のあり方を見直す動きが出始めているようです。例えば、インドやカリブ海の島国であるバルバドス、英国の指導者たちはクリーンエネルギーへの構造的転換の重要性を明確に主張しています。フィリピン政府は、新たな太陽光と蓄電池設備の稼働開始についてのアナウンスで「中東情勢の混乱のなか、再エネと蓄電技術の開発を加速させることは、戦略的に不可欠かつ国家の責務でもある。」というエネルギー長官のコメントを紹介しています。また、ニュージーランド政府が2027年までに新たなLNGターミナルを建設する計画は現在不透明な状況にあることを示唆したり、ベトナム最大の民間複合企業のビングループが再生可能エネルギーを優先するため、ベトナム国内での新たなLNG火力発電所建設計画を断念したい意向を政府に伝えたことを紹介するなど、各国が将来的な輸入化石燃料への依存度を見直している兆候が見られるとしています。
2026年4月にははじめての脱化石燃料に関する国際会議が開催
気候危機に対応するために、特に再エネという代替手段を取りやすいエネルギー分野で化石燃料依存から脱却していくことは最優先課題です。実際に、化石燃料依存から脱却し再エネを拡大していく動きは、1.5℃目標達成に向け期待されるスピードには足りないものの、世界で着実に進んでいます。再エネ技術が普及しコストが低下していることがこうした動きを後押ししていますし、ビジネスを展開するうえでも再エネへの転換は欠かせないものとなってきています。そして何より、 太陽光や風力といった再エネは、今回のホルムズ海峡危機のような国際情勢に左右されることなく、燃料費を他国に支払うことなく利用することができます。
こうした世界的潮流も背景に、COP28(2023年)では「化石燃料からの脱却」が合意され国際社会の総意となりました。
そして、2026年4月24日~29日にかけて、コロンビア政府とオランダ政府の共催により、コロンビアのサンタ・マルタで、各国政府や自治体、NGO等の非国家アクターが集まり、脱化石燃料の実施について話し合うはじめての会議「脱化石燃料に関する第1回国際会議(the First Conference on Transitioning Away from Fossil Fuels)」が開催されます。すでにさまざまなステークホルダーが脱化石燃料をどう実現するかについての意見を提出し、対話プログラムが実施されるなど現地での会議に向けた準備が進んでいます。会議では今回のエネルギー危機も踏まえた議論が行われるでしょう。脱化石燃料に向けたポジティブな政治的メッセージが発表されるかどうか、私たちも注目しています。なお、3月末までに45ヵ国およびEUの参加が発表されており、カナダ、英国、ノルウェー、オーストラリアといった化石燃料生産国も名を連ねていますが、まだそこに日本の名前はありません。

URL:https://transitionawayconference.com/
※化石燃料からの移行をめざす国や市民社会による「化石燃料不拡散条約イニシアティブ」が脱化石燃料に関する国際会議、および関連するイベントの予定を取りまとめて情報発信しています。詳しくはこちら
気候変動対策としてもエネルギー安全保障としても化石燃料からの脱却・再エネへの転換こそが求められている
戦争は人命が失われることに加え、環境にも大きな負荷を与えます。米国・イスラエルのイラン攻撃から2週間で約505万トンものCO2が排出され、その規模はアイスランドの1年分の排出を超えるという分析も発表されました。人々や社会経済、自然環境の破壊を止めるためにも、一刻も早くこの戦争が恒久的な停戦を迎えることが求められます。それだけではなく、過去から現在にかけて、私たちは何度も戦争をきっかけとしたエネルギー危機に直面してきました。
今回のエネルギー危機で、あらためて化石燃料に依存することの危険性が浮き彫りになったと思います。ですが、今は再生可能エネルギーの利用が広まり、多くの国で最も安いエネルギー源となっています。気候変動対策としてもエネルギー安全保障としても化石燃料からの脱却・再エネへと転換していくことが重要かつ現実的な選択肢なのではないでしょうか。
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