こんにちは!気候ネットワークでインターンをしています、田上 真衣です。

 気候変動は、私たちの未来に深刻な影響を与える重大な問題です。

 この課題に立ち向かうため、毎年開催される気候変動枠組条約締約国会議(Conference of the Parties:COP)は、各国が気候変動対策に向けて合意を形成する重要な場となっています。昨年度のCOP28ではいくつかの重要な合意が得られましたが、依然として解決すべき問題は多く残っています。2024年11月11日から22日まで開催されるCOP29では、さらに進んだ議論と成果が期待されることから、国際社会の関心が高まっています。

 今回は、気候ネットワークで国際交渉を担当する田中 十紀恵さんとエヴァン・ギャッチさんにお話を伺い、昨年度のCOP28の成果や課題、そしてCOP29への期待について深掘りしていきます。

昨年度のCOP28の成果と教訓

――昨年のCOP28で特に印象に残った成果や教訓は何ですか?

田中さん: 

 昨年のCOP28で特に印象に残った成果の一つは、化石燃料からの脱却に関する合意が形成されたことです。グローバルストックテイク1(各国の取り組みや進捗状況について評価する仕組みのこと)の中で、再生可能エネルギーを3倍にし、エネルギー効率を倍増させるという合意も達成されました。これは、参加国全員が同意しなければならないCOPの特性を考えると非常に大きな一歩と言え、日本も含め全ての国が気候変動に対する行動を求められることを意味しています。

 もうひとつ、損失と損害(Loss and Damage)2という話題についても重要な進展がありました。気候変動による被害に対してどのように救済・支援するかという問題は、先進国が避けてきた課題でした。しかし、ここ最近の気候変動による大きな被害が出ていることを踏まえ、損失と損害の基金設立に関する合意がCOP27で行われました。それを受け、COP28では具体的なルールを決めることになっていました。「揉めて最後まで結論が出ないのでは…」と予想していましたが、早々に基金の運営ルールが合意され、資金提供が宣言されたのが印象的でした。

ギャッチさん: 

 一番印象に残ったのは、成果が実際に得られたことですね。経済、歴史、文化が異なる国々が100%の合意を得るのはとても難しいことですが、COP28ではそれが実現できました。

 気候変動の文脈では「緩和」と「適応」という2つの大きな分野があります。先進国側では、特に緩和に重点を置きがちですが、途上国にとっては適応の重要性が非常に大きいです。なぜなら、途上国は気候変動によって本当に国自体が失われてしまう可能性があるからです。そのため、途上国の危機感は非常に強いです。

 これまでの京都議定書やパリ協定などの国際的な枠組みも、基本的には緩和に集中してきました。しかし、先進国の立場から見ると、緩和には膨大な費用がかかるため、資金の問題が大きく立ちはだかります。このような先進国と途上国のギャップは、最近は再び顕著になってきています。しかし、そんな中COP28では最終的に化石燃料の脱却に向けた合意が得られたことは、非常に素晴らしい成果だと感じています。

 また、公正な移行(Just Transition)3という概念においても先進国と途上国の間には大きなギャップがありました。先進国では主に、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行に伴う労働力の移動が議論されていました。しかし、途上国にとっては、労働移動の問題だけでなく、国家間での公正な移行が重要です。つまり、脱炭素社会を実現するだけでなく、より公正な社会をどう作るかという点に注目していました。議論が難航することを予想していましたが、COP28では単に雇用や経済の話だけでなく、平等という概念が基礎にしっかりと組み込まれており、予想以上に良い結果となりました。もちろん今後、詳細な部分を詰めていく必要がありますが、基本的な概念が合意されたことは非常に大きな成果です。

COP28の会場の様子

今年のCOP29で特に注目すべきトピック

――今年のCOP29で特に注目すべきトピックやテーマは何ですか?

ギャッチさん:

 今年の注目テーマの一つは、NCQG(New Collective Quantified Goal on Climate Finance:新たな気候資金目標)4ですね。これは、気候資金に関する問題で、先進国から途上国へどれだけの資金が提供されるのか、またどのように使われるのかという問題です。COPの初回からずっと重要な問題とされてきましたが、進展が遅く、今回のCOP29で焦点が当たっています。議長も「資金のCOP」として位置付けているため、ここでの成果がないと会議全体が失敗と見なされるでしょう。

 注目すべきは、気候資金の「質」も問われている点です。つまり、金額だけでなく、どの資金源が、どのように活用され、どのような条件が付いているかも重要だということです。今年のNCQGの議論でもこうした資金のあり方が必ず取り上げられると思います。

 さらに、公正な移行についても、昨年初めての議論が行われましたが、今年はより具体的なプロセスの決定が求められています。200ほどの国が合意を目指す中で、詳細な議論は難航することが予想されますが、資金と同様にこれも注目しておくべきテーマです。

――要は、先進国がどの程度責任を負うべきかという問題になるのですか?

ギャッチさん:

 歴史的責任は、COPの歴史を振り返ると常に議論の中心にありました。途上国は、先進国の過去の環境負荷に対して積極的な関与を求めていますが、先進国は「過去は過去」としてその責任を避けてきました。しかし、近年この議論が再燃し、損失と損害という形で、気候変動の被害を受ける国々に対して資金提供が求められています。

田中さん:

 COP29で一番注目している話題は、やはり「気候資金」だと思います。先進国から途上国への資金提供に関して、2009年に1,000億ドルを目指すことが決定されました。それを2020年までに達成する予定でしたが、実際には2022年にようやく達成されました。しかし、その内実はやや不透明な部分もあります。

――具体的にどのような議論が進められるのでしょうか?

田中さん:

 気候資金や損失と損害への資金提供、そしてその資金をどう調達するかなどの議論が行われると思います。1,000億ドルでは到底足りないと言われており、より高い目標を立てようという動きもあります。しかし、先進国政府は「これ以上資金を出すのは難しい」というスタンスをとっているため、民間資金を活用したり、成長している途上国にも協力を求めるなど、資金の多様化も議論されています。資金提供における公正さ、特に歴史的な責任に基づいた公平性をどう保つかも重要な論点です。
 また、重要なポイントとして、NDC(Nationally Determined Contribution)5があります。昨年のグローバルストックテイクに基づいて、各国は新たな削減目標を提出する必要があります。特にCOPの時期に野心的な目標を提出する国があれば、アピールポイントになるでしょうし、会議全体にも影響を与える可能性があります。どの国が目標を引き上げるのか、またポジティブな動きがどれほどあるのかに注目しています。日本もぜひ意欲的な目標を出してほしいところです。

COP28会場前で損失と損害の基金を求める人々

まとめ

 昨年のCOP28では、化石燃料からの脱却や再生可能エネルギーの拡大など大きな合意が得られた一方、途上国と先進国の間で依然として資金面のギャップが残ることが課題として浮き彫りになりました。特に「損失と損害」や「公正な移行」に関する議論は重要で、今後の進展が期待されます。

 今年のCOP29では、気候資金の問題が特に注目されています。先進国から途上国への資金提供の量と質が問われる「NCQG(新たな気候資金目標)」の決定が大きな焦点となるでしょう。また、 NDCにおいてどれだけ意欲的な温室効果ガス削減目標を設定するかも鍵となり、日本を含む各国の動きが注目されています。今年のCOP29は「資金のCOP」とも呼ばれ、国際的な協力がさらに求められる重要な会議となりそうです。

 後編では、COPにおける気候ネットワークの役割と日本への期待について質問します。

 ぜひご覧ください!

脚注
  1. グローバルストックテイク(Global Stocktake):パリ協定の掲げる国際目標の達成に向けた進捗状況を、世界全体で把握するための制度。 ↩︎
  2. 損失と損害(Loss and Damage):気候変動の影響で被る「損失」や「損害」。自然災害や海面上昇などが含まれ、これに対処するための補償や支援の枠組みが求められている。 ↩︎
  3. 公正な移行(Just Transition):気候変動対策によって発生する社会的・経済的影響を、公平かつ包括的に解決することを目指す概念。 ↩︎
  4. NCQG(New Collective Quantified Goal on Climate Finance:新たな気候資金目標):気候変動対策のために2025年以降の資金支援目標として定められる新しい国際的な目標。 ↩︎
  5. NDC(Nationally Determined Contribution):各国の温室効果ガス削減目標。パリ協定で全ての国が温室効果ガスの排出削減目標をNDCとして5年毎に提出・更新する義務が定められた。 ↩︎

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