気候ネットワーク・スタッフの森山です。先日、国立科学博物館で開催中の特別展「大絶滅展:生命史のビッグファイブ」に出かけてきました。地球の歴史を動かしてきた生命の大絶滅と、その後の「再生」をテーマにしたこの展示は、単なる古生物の紹介にとどまらず、過去の絶滅と気候変動の関係を紹介し、人類が引き起こしている現代の気候変動についても考えさせる内容になっています。今回は、この展示の内容を紹介しながら、「気候変動と絶滅」の切っても切れない関係、そして私たちの未来について考えてみたいと思います。
「大絶滅展」の概要
生命が誕生してから40億年、地球上では幾度も生命の危機が訪れました。それは主に地球外からやってきた小惑星の衝突や火山などの地球内部の活動によりもたらされましたが、ときに生命活動そのものが引き金になったこともあります。しかし生命は、その都度、したたかにそれらの危機を乗り越え、絶滅したグループに代わるグループが新たに繁栄することを繰り返すことで、多様に進化を遂げてきました。
言わば、大量絶滅は生命の繁栄を促した現象だと捉えることもできるのです。本展では、その中でも規模の大きかった5回の「大量絶滅」事変(通称「ビッグファイブ」)を、化石や岩石に残された様々な証拠から紐解き、「生き物たち」の生存をかけた進化の歴史を辿ります。――「大絶滅展」特設ウェブサイトの解説より
開催概要など詳細は、特別展の公式ウェブサイトをご覧ください。
https://daizetsumetsu.jp
- 東京展 2025年11月1日(土)~2026年2月23日(月・祝)
- 名古屋展 2026年3月20日(金・祝)~2026年6月14日(日)
- 大阪展 2026年7月17日(金)~2026年10月12日(月・祝)
地球上の生命を襲った5つの試練「ビッグファイブ」
繰り返されてきた絶滅と生物種の入れ替わり
40億年前に誕生した地球上の生命は、現在に至るまで、「進化」と「絶滅」を繰り返してきました。地球上では通常、100万年ごとに10%程度の種が絶滅すると考えられています。今回の特別展のタイトルにもなっている「大絶滅」は、通常の絶滅とは異なり、短期間で75%以上の分類群が絶滅する現象のことを指します。
この大絶滅も地球の歴史上で繰り返されてきましたが、そのなかでも最も大きな5回の大絶滅は、通称「ビッグファイブ」と呼ばれます。今回の展示では、ビッグファイブの前後で生命の世界が大きく変化し、次の新しい生物種が繁栄するきっかけとなったことが解説されています。各時代に繁栄・絶滅した生物の実物化石や復元模型も多数展示されており、大絶滅が起きる前後の世界を想像させてくれます。


過去の大絶滅には気候変動が関係
展示を観ていて印象に残ったのは、過去の絶滅の多くが、大規模な火山活動などに起因する気候変動と関係していたことです(下記の表を参照)。大規模な火山活動が起きると、火山ガスがエアロゾルとなって太陽光を遮り、短期間の寒冷化が起きます。その後、噴火で放出された二酸化炭素など温室効果ガスの影響を受け、長期にわたる温暖化が起きます。さらに、火山灰に含まれる栄養素によって海洋の植物プランクトンが増加し、二酸化炭素を消費することによる寒冷化も起きます。このような気候変動の繰り返しに適応できなかった生物が絶滅したと考えられます。
ビッグファイブの3回目で、最大の絶滅イベントとされる「P-T境界」(海域生物の80~86%、陸上生物の97%もの種が絶滅した古生代と中生代の境目に相当する地層年代区分)では、平均海水温が80万年間で13℃も上昇する超温暖化が起きています。また、恐竜が絶滅した5回目の「K-Pg境界」は巨大隕石の衝突によるものと知られていますが、同時期にデカン高原で大規模な火山活動が起きており、これも地球環境に大きな影響を与えていたと考えられています。
表:生命世界を変えた「ビッグファイブ」の一覧
| 事件名(時期) | 主な原因 | 絶滅の規模(種レベル) | 影響を受けた主な生物 |
| ① O-S境界 オルドビス紀末 (約4.4億年前) | 火山活動による急激な寒冷化と、その後の温暖化 | 海域生物種の86% 陸上での影響は不明 | 三葉虫、サンゴ礁 |
| ② F-F境界 デボン紀後期 (約3.7億年前) | 火山活動による急激な寒冷化と海洋無酸素化 | 海域生物種の42〜69% 陸上での大量絶滅は無し | 板皮類、三葉虫、アンモナイト |
| ③ P-T境界 ペルム紀末 (約2.5億年前) | 超巨大火山活動による急激な寒冷化と、その後の超温暖化、海洋無酸素化、海洋酸性化、火山ガスによるオゾン層破壊 | 海域生物種の80~86% 陸上生物種の97% | 三葉虫(完全絶滅)、単弓類、アンモナイト、昆虫 |
| ④ T-J境界 三畳紀末 (約2億年前) | 超大陸パンゲア分裂に伴う火山活動による温暖化、海洋酸性化 | 海域生物種の70~73% 陸上生物種の約70% | サンゴ礁、アンモナイト、シュードスキア類 |
| ⑤ K-Pg境界 白亜紀末 (6600万年前) | 小惑星衝突、デカン高原の噴火 | 海域生物種の68~72% 陸上生物種の67% | 恐竜、アンモナイト(完全絶滅)、両生類、哺乳類 |
こうして見ると、三葉虫やアンモナイトが大絶滅を何度も生き延びているのが印象に残ります。しかし、三葉虫はビッグファイブの中で最大の「P-T境界」で、アンモナイトは恐竜が絶滅した「K-Pg境界」で、地球上から完全に姿を消しました。
絶滅は「交代」のチャンス、でも回復には果てしない時間がかかる
展示を見ていると、絶滅は悲劇であると同時に、「生命のバトンタッチ」であったことも分かります。例えば、ペルム紀末の大絶滅を乗り越えたからこそ、恐竜や哺乳類の祖先が繁栄できました。そして、白亜紀末の恐竜絶滅があったからこそ、私たち哺乳類がこの世界の主役になれました。
しかし、ここで忘れてはならないのが、「失われた生物多様性が元に戻るまでには、数百万年から一千万年単位の時間がかかる」という事実です。一度リセットされた生態系が、再び豊かさを取り戻すまでには、人類の歴史が豆粒に見えるほどの長い年月が必要なのです。


「第6の大絶滅」は、これまでのどれとも違う
展示の最終章では、「第6の大量絶滅期に生きる私たち」と題して、現代の気候変動に関する解説が展示されています。現代の地球では驚くほどの速さで生物種の絶滅が進んでいます。サンゴ礁の白化現象、北極の氷の減少によるホッキョクグマの生息地喪失、さらには高山植物の衰退など、生態系の崩壊は加速しており、それには気候変動も影響していると考えられています。しかし、いま起きている気候変動が過去のビッグファイブと決定的に違う点が2つあります。
1. 原因が「自然」ではなく「人間」であること
過去の絶滅は、火山の噴火や小惑星の衝突といった、生命にはどうしようもない天災によって起きました。しかし現在の気候変動の原因は、化石燃料の使用など、人間の経済活動による温室効果ガスの排出です。
2. 変化のスピードが異常に速い
過去の大絶滅では、100万年単位で10°C程度の変化が起きていました。しかし現在は、わずか100年単位で数度レベルの気温上昇が起きています。過去の絶滅では、環境の変化に適応できた生物が生き残り、時間をかけて生物多様性を取り戻しました。しかし、現在の気候変動のスピードは過去を上回っており、多くの生物が適応できない可能性があります。


「人新世」の痕跡
人間は温室効果ガスの排出によって気候変動を引き起こしているだけでなく、様々な形で地球環境に影響を与えています。会場では別府湾の海底から採取された堆積物コアの実物標本が展示されており、そこには人間活動の記録が刻まれています。この堆積物コアからは、1950年以降の核実験による放射性物質、化石燃料の燃焼に由来する微粒炭、鉛や水銀などの重金属、PCBやDDTといった化学物質、そしてマイクロプラスチックまでが検出されます。地層に残されたこれらの人間活動の痕跡は、「人新世」を示す証拠と言われています。

私たちには「選択肢」がある
過去の生き物たちは、降り注ぐ火山灰や隕石、そして地球の活動が引き起こした気候変動を前に、ただ絶滅するしかありませんでした。 しかし、今回の絶滅危機の原因を作っているのは、私たち人間です。「人間が原因である」ということは、「人間の行動で変えられる」ということでもあります。エネルギーの選択を変える、消費のあり方を見直す、気候変動対策を加速させる政策を支持する―私たちはこうした行動によって、自分たちの手で「大絶滅」の再来を止めることができる、地球史上初めての種なのかもしれません。「大絶滅展」で見る化石たちは、物言わぬ姿で私たちに「君たちはどう生きるのか?」と問いかけているようです。
最後に、国連開発計画(UNDP)が2021年に「Don’t Choose Extinction(絶滅を選ぶな)」と題するキャンペーンの一環として公開したこちらの動画を改めて紹介します。動画の中では、国連の会議場に突然、恐竜が現れ、スピーチを始めます。そして人間たちに向けて、「自ら絶滅するなんて愚かな行為だ」「気候変動が壊滅的なのに化石燃料への補助金を費やすことは、恐竜が補助金を(自らを絶滅させた)巨大隕石に費やしているようなものだ」と、気候変動対策の強化を呼びかけます。
「大絶滅展」は、東京・上野で2026年2月23日まで開催中。その後、3月20日〜6月14日に名古屋、7月17日〜10月12日に大阪にも巡回します。ぜひ展示に足を運んで、地球の生命の壮大な歴史に想いを馳せると同時に、この歴史の続きを人類がどう描いたら良いのか考えてみませんか。
この記事を書いた人

- 福島原発事故や大学院時代に取材したトルコの反原発運動をきっかけに、エネルギー政策やそれをめぐる社会運動への関心が高まりました。気候ネットワーク東京事務所で、主に広報業務などを担当しています。
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