気候ネットワーク京都事務所インターンの田上真衣です。
先日、アゼルバイジャンのバクーで開催された気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)にオンラインでオブザーバーとして参加しました。今年のCOP29では、気候資金が主要テーマとして取り上げられ、「資金のCOP」とも呼ばれました。
本記事では、COP29の中で特に印象的だったテーマ(米大統領選挙が気候政策に与える影響・ジェンダーと気候変動)について取り上げます。
ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです!
米大統領選挙が気候政策に与える影響
COP29はアメリカ大統領選挙の結果発表直後に開催されたこともあり、その影響が大きく注目されました。特に、トランプ前大統領がパリ協定からの離脱を決定した過去や、選挙中に「drill baby drill(どんどん掘れ)」と化石燃料利用を煽るような発言をしたことから、気候変動対策に遅れが生じる可能性が懸念されていました。
COP29では、多くのNGOがアメリカの政治状況がもたらす気候政策への影響をテーマにしたサイドイベントを実施していました。その中でも特に印象的だった発言をいくつかご紹介します。
Greenpeace International による Greenpeace COP 29 expectations in the wake of the US election 1というイベントでは、アメリカ一国の政治状況による気候変動対策の遅れは許されないと強調されました。Greenpeace Southeast AsiaのエグゼクティブディレクターであるYeb Sano氏が以下のように述べました。
「私たちに必要なのは気候変動への取り組みであって、無視することではない。そして、そのためには資金が必要だ。COP29の主要議題となる気候資金は、パリ協定の中核をなしている。COP29で作業は継続されなければならない。それは、特定の国に左右されるものではなく、また左右されるべきでもない。確固たる野心的な新たな資金目標について合意されなければならない。トランプ氏の再選、あるいはその他の政治的変化は、他の国々が必要な野心を後退させる言い訳には決してならない。」
この言葉は、政治的状況に左右されず、一貫して気候危機に取り組む姿勢が求められているという点で非常に重要なメッセージです。
また、USCANによる A Game-Changer: How the US Election Results Signal a Climate Turning Point 2というタイトルの記者会見では、Action Aid USAのシニア政策アナリストであるKelly Stone氏が次のように述べています。
「パリ協定は1つの国の問題ではありません。新政権が、特に就任前に協定を破壊しようとすることは許されません。…このCOPの目標は、最も重要な気候変動対策を支援する強力で野心的な新しい気候資金目標(NCQG)を確立することです。」
政権の交代に揺れるアメリカの状況下でも、パリ協定は一国の問題ではなく、気候変動への国際的な協力を必要とする枠組みであることを強調しています。特に、COP29では気候資金を巡る具体的な行動計画の確立が求められ、政治に左右されない一貫した取り組みが期待されました。
アメリカでは、トランプ大統領が1/20に就任することに合わせて、脱炭素を目指す国際的な銀行連合「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」からアメリカの大手銀行が相次いで脱退しています。先月7日の米金融大手JPモルガン・チェースの脱退により、米金融大手6社全てが脱退することになりました3。
その一方で、COP29では、アメリカの非国家アクター5,000以上が参加する「America is All in」は、政権に揺さぶられることなく一貫して気候変動対策に取り組むと表明しました。
新政権下で脱・脱炭素に向けた政治的な圧力が高まる中、COP29において国際NGOが指摘したように、改めて気候危機への対応には国際的な協調が不可欠であることが再認識されるべきです。
ジェンダーと気候変動
もう一つ印象的だったテーマは、ジェンダーと気候変動の関連性です。女性が気候変動対策において果たす役割は非常に大きいですが、その声が十分に反映されていない現状も浮き彫りになりました。
私が留学中に学んだ概念に、Ecofeminism (エコフェミニズム) があります。エコフェミニズムは、「エコロジー(環境)」と「フェミニズム(女性の権利)」を組み合わせた考え方です。この思想では、自然が搾取される仕組みと、女性が不平等に扱われる社会の構造には共通点があると考えます。つまり、環境破壊と女性差別は、どちらも支配的な社会の仕組みから生まれているという視点です。
例えば、自然災害が発生した際、女性は男性よりも被害を受けやすいことが研究で示されており、気候変動の影響をより強く受ける傾向があります。これは、社会的・経済的な格差や、避難時の安全確保の難しさなどが影響していると考えられます。エコフェミニズムは、このような問題を環境とジェンダーの両面から捉え、より公正な社会を目指す思想です。
こうした視点は、気候変動対策における女性の役割の重要性を理解する鍵になります。COP29の中でもそのテーマに関連する記者会見が行われていたので紹介します。
WECAN の Women for Climate Justice Leading Solutions 4という記者会見の中では、国連の気候交渉における男性優位を批判し、女性の声を気候変動対策に反映させる必要性を訴えていました。
「特筆すべきは、国連の報告書によると、国連の気候変動交渉における発言時間の74%は男性によって占められていることです。これは変えなければなりません。ジェンダーの正義、人種の正義、先住民の権利と自然の権利の擁護、公正な移行の呼びかけ、化石燃料の即時段階的廃止を求める私たちの呼びかけは、人類と地球のための継続的な課題です。それは私たちの多様な生存のための緊急の呼びかけです。」
国連の気候変動交渉においては、依然として男性の比率が高く、女性の視点が十分に反映されていないことが指摘されています。このため、気候変動対策における女性への影響が議論の中で十分に考慮されず、その結果にも反映されにくい状況が生じています。公正な社会の実現には、公正なプロセスに基づく熟議が不可欠であり、多様な視点を取り入れることが求められます。また、
「フェミニストの視点と女性的なアプローチについて私たちが理解する必要があることの 1 つは、支配する以上の何かをするためにこの瞬間を選択できるということです。女性の力を使って、自分たちを創造し、救うことができます。」
ここでは、ハリケーン・カトリーナの災害時に、女性がコミュニティ再建で中心的な役割をになっていたことを指摘し、気候変動においても国際的な団結には女性の力が重要であると強調しました。
女性は気候変動における危機の影響を受ける最前線の立場にいますが、しばしばその声は気候変動対策の交渉の場で締め出されています。しかし、気候変動対策には女性の声が必要です。実際、女性議員が多いとより気候変動政策が採択され温室効果ガスの排出削減に繋がることが指摘されています(Mavisakalyan & Tarverdi, 2019)5。
気候変動対策において、COPは極めて重要な議論の場です。この場で公正なプロセスを通して、ジェンダーや人種など様々な属性の人たちの声を気候変動対策に反映させることは、気候変動に対応し公正な社会を実現するために不可欠でしょう。
おわりに
今回、COP29にオブザーバー参加する機会をいただき、非常に大きな学びを得ることができました。
会議では、各国の利害関係や政治的立場が衝突し、議論が難航する場面もありました。特に今回は、米国大統領選直後というタイミングで、気候変動に懐疑的なトランプ氏の影響が懸念され、国際的な協調が揺らぐ可能性が指摘されていました。その中で、国際NGOが各国に対して団結の重要性を訴える姿勢は非常に印象的でした。また、ジェンダーと気候変動の関係について、交渉が男性中心で進められている現状を知ることで、多様性を考慮した公正なプロセスの必要性を改めて実感しました。
今回のCOP29では、NCQGの決定やパリ協定第6条の合意といった前進が見られましたが、公正な移行、損害と損失、1.5度目標達成に向けた緩和策や気候資金の公平な負担など、いまだ多くの課題が残されています。
私たちができることは何かを考えながら、目の前のことから取り組んでいきたいと思いました。
参考
- Greenpeace International. (2024). Greenpeace COP 29 expectations in the wake of the US election.
https://unfccc.int/event/greenpeace-international-greenpeace-cop-29-expectations-in-the-wake-of-the-us-election ↩︎ - USCAN. (2024). A Game-Changer: How the US Election Results Signal a Climate Turning Point.
https://unfccc.int/event/uscan-a-game-changer-how-the-us-election-results-signal-a-climate-turning-point ↩︎ - 日本経済新聞.(2025年1月8日).「米大手銀行、温暖化の国際枠組みから撤退 邦銀は動揺」.
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB080Q70Y5A100C2000000/ ↩︎ - WECAN. (2024). Women for Climate Justice Leading Solutions.
https://unfccc.int/event/wecan-women-for-climate-justice-leading-solutions-1 ↩︎ - Mavisakalyan, A., & Tarverdi, Y. (2019). Gender and climate change: Do female parliamentarians make difference?. European Journal of Political Economy, 56, 151-164. ↩︎
この記事を書いた人

- 気候ネットワークに所属されていた方々、インターンの方々が執筆者となっております。
最新の投稿
インターンの声2025年1月31日インターンが書くCOP29体験記
活動報告2024年12月16日誰もが気になるアメリカの動向への対応
インターンの声2024年12月1日自然エネルギー学校・京都2024第3・4回開催報告
インターンの声2024年11月6日【後編】気候ネットワーク国際交渉担当の職員に聞く!- 気候ネットワークの役割と日本への期待 -
