京都事務所の伊与田です。2015年になってから、もう1ヶ月がたとうとしています…。真冬のまっただ中、インフルエンザも流行っているようですが、みなさまお元気でしょうか??
さて、今回は、先週1月21日に東京で開催されたイベント「COP20リマ会議報告会~2015年パリ会議への道~」の様子をお届けします!主催は気候ネットワークも参加する、気候変動NGOのネットワーク組織CAN-Japanです。
COP20リマ会議の成果と課題を、実際に参加したNGOメンバーが報告
報告会では、実際にCOP20に参加したNGOのメンバーが、これまでの国際交渉の経緯や、リマ会議での論点とその結果、日本の政策課題などについて報告しました。
会場には平日の昼にも関わらず、一般市民、NGO/NPO、マスメディア関係者、事業者や学生など約170名もの方に参加いただき、気候変動交渉への注目が高まっていることが印象づけられました。
YouTubeより、報告会のようすを視聴いただけます!
報告「これまでの国際交渉 リマ会議までの経緯」
土田道代さん:地球環境市民会議(CASA)
まず、地球環境市民会議(CASA)の土田道代さんより、リマ会議に至る国際交渉の流れについて報告がありました(資料はこちら)。
2011年のCOP19ダーバン会議で設立されたADP(ダーバン・プラットフォーム特別作業部会)では、2つの交渉テーマのもとで議論が行われています。第1に、2020年以降の新しい法的枠組みです。先進国、途上国の両方を含む全ての国が参加することになっており、2015年までに合意することがめざされています。第2に、2020年までの温室効果ガス排出削減レベルの引き上げです。
また、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」によって最新の科学的知見がまとめられた第5次評価報告書から、国際交渉に関連するポイントも紹介されました。世界がこのままのペースで温室効果ガス排出を続ければ、あと30年足らずで世界がめざす「2℃未満」を達成するために残されている排出枠を使いきってしまいます。長期的な観点からすれば、向こう15年間で実施する対策が、将来世代が生きる世界にきわめて大きな影響を及ぼすことになるため、2015年パリ合意が決定的に重要である、ということでした。
報告「各国の国別目標案に盛り込むべき内容と事前協議 2020年までの削減努力の引き上げ」
小西雅子さん:WWFジャパン
次に、WWFジャパンの小西雅子さんより、リマ会議の注目点であるADP交渉での決定内容や対立点、交渉における各国の立場や議論の変遷について報告がありました(資料はこちら)。
COP20リマ会議で決まったことで、特に重要なのは、2020年以降の新しい温暖化対策の国別目標案についてです。(用意できる国は)2015年3月までに目標案を提出するということはすでにワルシャワ会議で決まっていました。リマのポイントは、どんな情報を目標案として各国が提出するのかという点と、各国の目標案についてパリ合意より前に協議して引き上げるプロセス(事前協議)に合意できるかどうかでした。結果として、目標案に含める情報について決まりました。特に、自国の目標案が国際的に公平か、科学的に見て妥当かどうかについての情報も入れようということになったのは重要です。事前協議については合意ができませんでしたが、非公式にお互いの目標案をチェックすることはできるようになりました。
気候変動交渉は、以前は「先進国対途上国」という意味単純な対立がありましたが、リマでは、COP20ホスト国ペルーなどのラテンアメリカ諸国の先進国と途上国の間をとりもとうという姿勢が目立ちました。例えば、途上国への資金支援のための緑の気候基金(GCF)に、ペルーやコロンビアも拠出表明をしています。合意の成果は会議の最後の最後になって弱められてはしまいましたが、パリのCOP21に向けて最低限の道筋はつけられました。
報告「2015年合意の「要素」(elements)に関する議論」
山岸尚之さん:WWFジャパン
WWFジャパンの山岸尚之さんからは、リマ会議における2015年パリ合意の「要素」(elements)に関する交渉について報告がありました(資料はこちら)。
この「要素」は、2015年パリ会議で合意する内容の「下書き」に相当するため、極めて重要ではありますが、今回のリマ会議で最終決定しなくてもいいとも言えるテーマでした。リマ会議では、COP決定文書の附属書として、要素に関する約40ページのペーパーがつけられました。要素のペーパーには、緩和(排出削減)、適応・損失と被害などといったテーマ毎に、各国の意見が選択肢として並べてまとめられています。
重要な論点としては、緩和の長期目標(世界全体で排出量を2050年までに何%削減、2100年までにCO2純排出をゼロにする等)があります。世界全体の長期目標は、それ自体は漠然としたところもありますが、これが決まると、各国の温室効果ガス排出量の削減目標への影響もあります。また、次の目標期間の長さ(5年か10年か?その先をどうするのか?)についても議論されていますし、どの国がどの程度の資金支援をすべきか、ということも重要な論点です。
今年の交渉では、要素についての議論が主役になります。また、パリ合意がどんな法的性質をもつのかも重要です。どんな内容が議定書のような法的位置づけのある合意文書に入るのか、何がその他のCOP決定と言われる一段低い位置づけになるのか、排出削減目標の扱いとも絡んで注目されます。
報告「REDD+について」
西川敦子さん:コンサベーション・インターナショナル・ジャパン
次に、コンサベーション・インターナショナル・ジャパンの西川敦子さんより、気候変動交渉における森林減少等の課題について報告がありました(資料はこちら)。
森林減少対策は、気候変動対策の観点からも重要です。IPCCの最新報告によれば、世界の人為的な全温室効果ガス排出量のうち、「農業、森林、その他の土地利用」による排出は24%を占めています。気候変動交渉では、REDD+(”レッドプラス”。途上国における森林減少・森林劣化からの排出削減等)と呼ばれるテーマのもとで議論が行われています。これまでも森林保護のプロジェクトは行われていましたが、気候変動の緩和という視点が入ることによって、炭素の定量化やクレジット移転などによってプロジェクトの拡大を後押しする影響があります。
2013年にポーランドのワルシャワで開催されたCOP19では、「REDD+のためのワルシャワ枠組み」に合意し、基本的なルールに合意することができていました。今回のリマ会議では、積み残しの議題について議論を行いましたが、合意に至らず、引き続き交渉を継続することになりました。2015年の交渉では、2020年以降の新しい枠組みにおけるREDD+の位置づけを明確にすることが期待されます。また、今急がなければ永久に失われてしまうような森林や生物多様性などを守るために、より一層の対策強化が必要です。
報告「日本政府へのメッセージ」
平田仁子さん:気候ネットワーク
最後に、気候ネットワークの平田仁子さんから、国内外の温暖化対策の動向を踏まえ、日本政府と日本のみなさんへのメッセージということで報告がありました(資料はこちら。別紙1、別紙2)。
今回のリマ会議で日本政府が注目されたのは、日本政府による、石炭火力発電の海外融資についてです。気候資金と呼ばれる温暖化対策のための資金支援のリストの中に、インドネシアの石炭火力発電事業への支援があることが現地で大きな問題になりました。また、気候資金には含まれませんが、石炭事業への融資の例が他にも多数あり、石炭発電を輸出していこうという姿勢も批判にさらされています。
日本の目標案(約束草案)については、2014年10月に約束草案検討ワーキンググループが設立され、一応議論が始まりました。しかし、提出時期も削減水準も不明で、リマでは他国から「いつ出すのか」とプレッシャーもありました。原発再稼働の議論もありますが、今後日本が数十%という排出削減が必要な中、再稼働による実際の排出削減効果はあったとしても微々たるものです。石炭火力発電の計画が増えているのも深刻な問題です。
日本は今後、早く、高い目標案を十分な説明をもって、提出する準備を全力で進める必要があります。また、全ての途上国を対象とする新しい枠組みをめざす交渉において、資金支援や損失と損害といったテーマにも積極的な貢献が求められます。さらに、国内では現在のところ、気候変動とエネルギーの政策が別々に検討されていますが、統合的に議論することが必要です。
「日本の温暖化対策は生ぬるい!」
~たくさんのご質問・コメントも頂きました~
報告の後には会場からたくさんのご質問をお受けしました。中国や、米国の交渉ポジションについてや、日本政府の温暖化対策が「生ぬるい」、「一般市民の温暖化問題への関心も高くない、どのように関心を高めていけるのか?」と、さらなる対策強化を求める声も多く聞かれました。NGOとしても、もっと社会的な関心を高めて政策を良い方向に変えられるよう、努力をしなければと思います。
2015年は大切な1年~リマからパリへ!~
リマ会議では限られた成果しか得られませんでしたが、各国は2015年パリ合意の実現をめざして交渉を続けています。各地ですでに悪影響が発生しており、今後ますます深刻化するとされる気候変動。報告会で山岸さんはパリ会議の成否は、「地球にとって、人類にとって、”運命の分かれ目”になるかもしれない」と指摘されていましたが、本当にその通りだと思います。2015年はとても大切な1年である、ということを社会的なコンセンサスにしていきたいと思います。
この記事を書いた人
- 気候ネットワークに所属されていた方々、インターンの方々が執筆者となっております。
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