はじめに

 2005年に気候ネットワークが発行した資料『進行する日本温暖化』には、当時予測されていた衝撃的な未来の姿が記されていました。当時は、どこか遠い未来の話、あるいは最悪のシナリオだと思っていた方も多かったかもしれません。しかし、2025年になった今、私たちの周りでは何が起きているでしょうか。あの時、科学者たちが鳴らしていた警鐘は、今や私たちの日常を脅かす「現実」となっています。今回は、2005年の気候ネットワークの予測と2025年現在の実態を対比させながら、気候変動が日本の生態系、食、そして経済にどのような変化をもたらしたのか、気候ネットワークのインターン生が詳しく紐解いていきます。

2005年発行の『進行する日本温暖化』(気候ネットワーク)はこちらからご覧いただけます。

2005年の将来予測① - 美味しいお米が食べられない

 気候変動による日本の稲作への影響として、高温下での収穫は、お米が白く変色したり粉状になったりし、味が変化する恐れがあります1。そのため、近年は出荷できない米の量が増えており、農家に経済的な支障が生じています。さらに、冬期の温暖化により、本来は冬期に活動しない害虫が活動・繁殖するようになり、稲作への被害が拡大しています。

【インターンの声】
 冬期の温暖化が稲作に悪影響を与えるとは思っていませんでした。温暖化によって害虫の繁殖が進んでおり収穫量の減少につながっているのだと知りました。

2005年の将来予測② - 美味しい果物が育たない

 果樹は温度に敏感であるため「気温上昇に伴う害虫被害の増大」と「収穫時期のずれ」という2つの点から、将来の存続性が懸念されてきました。害虫被害の拡大では「カンキツグリーニング病」という病気の影響により、柑橘類産地で果樹園の廃園が増加しているそうで、さらに、オレンジをブラジルからの輸入にする日本では、ブラジルで病害が拡大したり天候不順が起こったりすると、日本に届くオレンジの量や価格にも影響が及びます。2

【インターンの声】
 この問題は、気候変動の影響を身近に感じられる一例だといえます。輸入に大きく依存している日本は、他国で作物被害による収穫量の減少が起こると、食生活に影響を受けやすい立場にあります。このように、他国で生じた気候変動の問題が自国にも影響を与えることを改めて認識し、気候変動を世界共通の課題として、対策への取り組みをより一層進めていく必要があると思います 。

2005年の将来予測③ - 減雪×シカ

 関東の4県にまたがる尾瀬は、山稜部や山腹に広がる池や沼の神秘さを感じられる自然地として2007年に国立公園にも指定されましたが、元々豪雪地帯でありシカは生息していませんでした。しかし、シカの捕食者の減少と温暖化による積雪量の減少からシカの母数が増えたことによりシラネアオイなどの天然の植物の絶滅が危惧されています。3

【インターンの声】
 このことから気候変動における生物多様性の危機は改善されてないことがわかります。このシカ問題のように、1つの生物の住環境が変化すると関連する動植物にも影響し生態系が簡単に崩れていくことを実感しました。また、この生態系の崩れは容易に連鎖して大きな環境問題を引き起こす可能性もあるため、早急に対処する必要があるのではないでしょうか 。

2005年の将来予測④ - クマがくまった

 2004年から森林を伐採して人工林に変換したことによるクマの生息域縮小に伴うクマの街中への頻繁な出没が問題視されていました。これはブナの木々の不適切な伐採や気温の上昇によるエサの減少が要因として挙げられます。温暖な影響を好む昆虫もクマのエサを食べ尽くすため、クマが森の中から出て人を襲うようになり、犠牲者が出ています 。4

【インターンの声】
 はじめは、気候変動がクマ被害に影響があるとは思いませんでした。もともとクマ被害は個人的な事件だけだと思っていましたが、よく考えると「森林伐採→クマのエサが無くなり→エサを探すため人里にうろついていた」という構図が見えてきました。気候変動にこういった影響もあることは驚きでした 。

2005年の将来予測⑤ - ヒダカソウがカワイソウ

 北海道にあるアポイ岳は高山植物群落が特徴で、ヒダカソウなど多くの固有種が存在しますが、温暖化の影響で生育環境の変化が懸念されます。生育高度の上昇に伴う高山草原の縮小が指摘され、その後、ヒダカソウの開花時期が早まっていることがわかり、温暖化による生物季節の変化が明らかになりました。これらの変化は、地球温暖化が高山植物の生息適地や生育サイクルに影響を及ぼしていることを示しており、ヒダカソウのような希少種の存続が長期的に危ぶまれている現状です 。5

【インターンの声】
 保全活動やモニタリングが進められているものの、気候変動そのものへの対応なしに固有植物の存続を確保することは容易ではないことが分かりました。気候変動は生息植物の変化を脅かしてしまう一例であることを知りました 。

2005年の将来予測⑥ - ブナ林が日本から消える

 日本ではブナ林が自然林面積の約17%を占め、列島全体に広く分布し日本の生物多様性においても大きな割合を占めます6。気候変動の急速な進展により、これらの重要な森林は地球温暖化の影響を特に受けやすいとされ、実際に気温上昇により2005年以降年間降雪量が減少したことで個体数が減少しています。今後 2090年代にはにブナの分布域は91%も縮小すると推定されており、多くの動物種が絶滅の危機に瀕しつつあります 。

【インターンの声】
 ブナ林を保全するためには、気温上昇を抑制するための対策への投資と実施が最優先課題だと思います。気候変動とブナ林の存在には直接的な相関関係があるため、気候変動緩和策はブナ林保護に不可欠だといえます。日本各地のブナ林が抱える地域固有のニーズに対応するため、地方自治体や都道府県レベルで実施することが望ましいのではないでしょうか 。

2005年の将来予測⑦ - サンゴも真っ白

 これまで海水温上昇により、世界的に大規模な白化現象が発生しています。サンゴの白化は1980年代以降増加傾向にあり、これは地球温暖化によるものです。さらに温暖化によってサンゴの分布にも異常が生じることになり、これまで存在しなかった地域で複数のサンゴが確認されるようにもなっているそうで、生態系の変化も懸念されます。7

【インターンの声】
  気候変動がこんなに深刻な影響を及ぼしていることに驚きました。私の個人的な経験から言えば、サンゴが観光の大きな源泉となっているインドネシア出身として、この白化現象は海洋生態系が気候変動に耐えられる限界に近づいているという警告サインだと考えています 。

2005年の将来予測⑧ - 昆虫も北の国へ

 地球温暖化により東南アジアや東アジア全域の冬の平均気温が上昇し、昆虫の冬季生存率が向上し、さらに特定の植物種に依存して生存する特定の昆虫も北上しているようです。気候変動による北上移動の影響を示す最も顕著な事例としてはモルモンアゲハが挙げられ、1940年以降、当初の分布北限が九州・四国南部であったものが、現在では関東地方全域で確認されています 。8

【インターンの声】
 気候変動による北上移動は日本の生態系に様々な外来昆虫種をもたらしました。今後は温室効果ガス排出量の監視に加え、外来種の活動を厳重に監視することが極めて重要だと思います。無規制な活動は在来生態系を破壊し、在来種を駆逐する可能性があります。その結果、新たな大規模移動の潮流を引き起こすか、在来種の個体群を脆弱な状態に追い込む恐れがあるのではないでしょうか。

2005年の将来予測⑨ - 熱中症もHOTけない

 世界的な気温上昇に伴い、21世紀に入ってからの熱中症死亡率の増加が差し迫った健康課題の一つとなっています。これは特に日本において顕著です。高齢化と低出生率のため、日本は「超高齢社会」と見なされており、熱中症や熱関連死のリスクがさらに高まっています。日本の熱中症による死亡者数は過去20年間で約5倍に増加しており、今後もその数は増加するとみられます。9

【インターンの声】
 熱中症の根本原因に対処するには、熱適応策のみに依存するだけでは不十分だと思います。日本の熱中症流行に適切に対処するためには、気温上昇と温室効果ガス排出量への対応を求めるさらなる措置が必要です。

2005年の将来予測⑩ - これ以上払えん

 災害規模の拡大に伴い、被害額が増加し、結果として保険金支払額も増加しています。この傾向は2004年に日本が当時記録的な複数の台風に見舞われ、保険金支払額が過去最高を記録した際に顕著でした。2018年に発生した西日本豪雨では被害額が1兆円を超えたそうです。10

【インターンの声】
 気候変動の与える影響を評価することが、財政的負担を軽減する鍵となる可能性があります。国内の環境機関と金融機関が連携し、自然災害や気候関連事象をリスク評価に組み込むことが不可欠だとおもいます。保険金支払いの急騰するコストを軽減するため気候変動に対処する実行可能な解決策を提案すべきです 。

まとめとこれからの未来予想

 2005年の資料に記された「予測」の多くが、20年後の今、動かしがたい「事実」として私たちの生活を脅かしていることに強い衝撃を受けました。お米の品質低下やサンゴの白化、昆虫の北上など、当時懸念されていた事態はより深刻な形で顕在化しています。特に影響の及ぶ果物の不作によるオレンジジュース不足や、高額な保険金支払いのニュースは、気候変動がもはや遠い自然の話ではなく、私たちの食卓や家計を直撃する切実な問題であることを物語っています。過去の警告が現実となった今、私たちが次の20年をどう生きるべきか、その責任の重さを改めて痛感しました。

 今後、温暖化対策が抜本的に強化されない限り、ブナ林の9割消失や熱中症死亡者の3倍増といった恐ろしい予測は、回避不能な現実へと変わるでしょう。生態系の崩壊は連鎖し、かつての「当たり前」だった日本の四季や風景、豊かな味覚は、教科書の中だけのものになる恐れがあります。しかし、現在の金融リスクや健康被害を「自分事」として捉え、今この瞬間に適応と緩和の舵を切れば、最悪のシナリオを書き換え、被害を最小限に抑えた未来を創れるはずです。

注)

  1. 農林水産省, 水稲の高温障害発生とその対応策について  ↩︎
  2. PRESIDENT Online, 日本中から「オレンジジュース」が消えている…いま世界最大の産地で起きている「日本の買い負け」の現実, (2024年7月30日↩︎
  3. 公益財団法人緑の地球防衛基金, 尾瀬の現状と取り巻く課題,(2021年) ↩︎
  4. 東京農業大学, 森林総合科学科 山﨑 晃司 教授が増加するクマ出没について解説, (2023年11月7日) ↩︎
  5. 西川ほか, 温暖化にともなうアポイ岳ヒダカソウの開花時期の変化, 北海道環境科学研究センター・アポイ岳ビジターセンター, 保全生態学研究 (Japanese Journal of Conservation Ecology) 14 : 211-222 (2009年)   ↩︎
  6. FFPRI, 地球温暖化によりブナ林の分布適域が大幅に減少する, 研究の”森”から, No.144 ↩︎
  7. 国立環境研究法人国立環境研究所, 日本のサンゴの変化から世界が見える,(2014年6月30日)  ↩︎
  8. Tojo, K., Sekiné, K., Takenaka, M., Isaka, Y., Komaki, S., Suzuki, T., & Schoville, S. D. (2017). Species diversity of insects in Japan: Their origins and Diversification Processes. Entomological Science, 20(1), 357–381. ↩︎
  9. ウェザーニュース, 過去20年で熱中症死亡者数が約5倍に増加 温暖化で日本の“暑さ”に変化,(2025年8月5日)  ↩︎
  10. Yoshida, S., Kashima, S., Ishii, S., Koike, S., & Matsumoto, M. (2022). Effects of the 2018 Japan floods on long-term care insurance costs in Japan: Retrospective cohort study. BMC Public Health, 22(1). ↩︎

この記事を書いた人

気候ネットワーク
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気候ネットワークに所属されていた方々、インターンの方々が執筆者となっております。